「背景にある精神病患者に対する人権の問題をもっとクローズアップして欲しかったです。」シャッター アイランド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
背景にある精神病患者に対する人権の問題をもっとクローズアップして欲しかったです。
前半は、ミステリーとして楽しめました。スコセッシ監督は、本作でCGを多用せず、まるでヒッチコック作品のような緊迫感ある映像でたたみ掛けてきたのです。
ところが中盤から、主人公テディの過去への回想や幻想シーンが多くなり。ストーリーが見えにくくなっていきます。
頼むから、これが全部幻想だったなんて終わり方はよしてくれと、祈りながら見終わったとき、現実とも幻想ともとれる中途半端なエンディングに。ちょっと不完全燃焼しました。
シャッターアイランドは精神疾患のある犯罪者を隔離収容する孤島の刑務所。いわば天然の密室状態にあるといっていいところ。『板尾創路の脱獄王』のラストに似て、絶対脱出不可能な場所で、3人のわが子を殺して収容されていたレイチェルという女性が、謎のメッセージを残して跡形もなく消えたのです。
捜索にFBIから派遣された、テディとチャックの刑事コンビは、隔離病棟のスタッフに聴取をするものの、彼らは何か隠し事があるのか、レイチェルの消息となる手かがりを全く証言してくれません。
その中でテディは、病院から逃げ延びた元医師から、恐怖の人体実験の話を聞き出します。当初は、人が消えるミステリーかと思っていたら、途中から強制収容所にまつわる人権侵害の様相を示してきました。ナチスやソ連、北朝鮮と強制収容所が設置されたところには、必ずといっていいほど、人の精神を自由にコントロールするため研究や人体実験の噂は絶えないようです。
テディも連合軍兵士として、ナチスの強制収容所開放に関わったことから、この島で行われている人体実験を聞かされ、その真相を追及することを決意します。
そしてその人生実験が行われている灯台へ向かっていくのです。
しかし、その途中で相棒のチャックは当然行方不明となり、肝心の灯台に乗り込んでも、それらしい人体実験が行われている形跡はありませんでした。
テディを灯台で待ち構えていたコーリー博士に、どこに人体実験の証拠があるのかと詰め寄られて、答えに窮するテディに次々思い出したくない過去の「事実」が明かされていくストーリーでした。
中盤の幻想シーンは後になってみると、ラストのドンデン返しの布石かなとは分かってくるのですが、途中は意味不明できつかったですね。でも、テディは正気だったかもしれないとも解釈できるところが、何とも言い難いところですね。
何でそう思うのかと言えば、ディカプリオの演技には、正気の人としか思えない、使命感に燃えている捜査官の出で立ちに終始していたからです。
そして相棒のチャックを演じたマーク・ラファロも捜査官らしくたち振る舞っています。その生真面目な役作りが、結末を迷宮に投げ込んでしまうわけなんです。
さて、本作では、コーリー博士が興味深い問題提起を行っていました。
重度の精神病患者に対して、管理上の都合で精神安定剤の投与や脳手術により沈静化図ることで患者をモルモットのようにしてしまう隔離病棟が現存しているようなのです。しかし、コーリー博士はどんな人間でも内なる精神が全うで善良なものであることを信じ、忍耐強く、患者に話しかけて拡幅させる研究を進めていました。
もう少しコーリー博士の研究に即して、ストーリーが展開してもよかったのではないでしょうか。ドンデン返しばかりに囚われすぎています。
スコセッシ作品としては、巨悪に立ち向かっていく、ディカプリオの活躍シーンをもっと見せて欲しかったですね。絵としては悪くなかったのですが、謎解きというほどではなかったです。