劇場公開日 2010年1月29日

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「圧倒敵な映像美ながら、ちょっとイメージに流されて、テーマが見えにくくなっていました。」ラブリーボーン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0圧倒敵な映像美ながら、ちょっとイメージに流されて、テーマが見えにくくなっていました。

2010年1月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作は、前半は死んだらどうなるのという『大霊界』的な趣きの作品といったところ。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを手掛けたピーター・ジャクソン監督作品であり、天国と地上の狭間に「煉獄」とも呼ばれる非成仏霊の止まっている世界を、非情に美しい映像で描かれています。
 その不思議な映像は、VFXの進化と共に『ロード』シリーズよりも格段にファンタスティックです。

 そして後半は、スージーの家族の犯人追及が始まり、スージーの妹と犯人との緊迫感ある追走劇にドキドキしました。

 ピーター監督は、余り台詞を多用せず、映像だけでストーリーを引っ張っていくタイプの監督です。中盤までスージーの生死の可否や犯人が誰か明かさない手法も、謎解きの要素があって、画面に引き付けられました。

 但し、余りに台詞が少なくて、犯人の動機やスージーが昇天していく心境の変化が良く掴めません。
 また『ロード』シリーズでもあったように、結構グロいシーンもあります。中盤以降、犯人の犯行が、連続少女殺人事件の様相に発展していくのですが、ひとりひとりの少女の殺され方が猟奇的で、実にリアルなんです。ちょっとこの手が苦手な人は、正視しがたいシーンが少々混じっていますので、気をつけてください。

 但し、殺人者に対するスージー本人と家族の復讐心が癒えていくことがメインなのです。

 賽の河原で暮らしている小地蔵にとって、この手の話は大の得意なんですけど、そういう目で見ると、地上にまだ執着のある魂が、いろんな未練や復讐心に整理を付けていく過程はとってもドラマなんですよ。だってそのひとの歩んできた一生の全てが遺されていて、天国へ旅立っていけないわけですから。
 そしてそんなドロドロとして思いが、すっきりするからこそ、お迎えの光が、より強く感動を呼び起こすわけです。
 だからもう少し、ピーター監督は、スージーの喜怒哀楽を描いても良かったのではないかと思います。
 たとえば、一番の心残りだったのは、初恋の相手レイと初デートでファーストキッスをすること。その夢すら、妹が変わりに達成しているのに、ただ依然とふたりを見つめて祝福しているのですよ。でも、この年齢で、そんなに人生に達観できないでしょう。

 淡々としていて、まるで『死んだらこうなる』というイメージビデオを見せられているかのようです。『ゴースト』なんかと比べてもらうと、明らかに感情移入できるレベルの違いを感じることでしょう。

 またラストの犯人の末路の描き方にも不満が残ります。もっと直接的な制裁を加えられなかったものでしょうか。

 但し評価できるのは、スージーが積極的に犯人捜しに荷担するのかと思っていたら、ほんの少しインスピレーションを送るだけなんです。これは実態に近い描写ですね。
 スージーのお父さんのジャックが、初めて犯人と疑ってある人物と対峙するとき、この人よ!ってスージーがサインを送る、その送り方の描写が巧みで、感動しました。

 結局、本作はシークエンス単位の完成度は非常に高いものの、全体として何か伝えたいというメッセージのインパクトに弱さを感じました。
 それでも遺された家族とスージーの思い合う心は、鑑賞後にずっと心に記憶されることでしょう。

 スージーを演じたシアーシャ・ローナンの薄いブルーの瞳がとても神秘的で、本作にぴったり。スージーが語るナレーションもファンタジー向きのいい味を出していました。

流山の小地蔵