スーパー・チューズデー 正義を売った日 : 映画評論・批評
2012年3月19日更新
2012年3月31日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ラストの余韻に胸躍るピカレスクな政治ドラマ
4年に一度行われるアメリカ大統領選の舞台裏に渦巻く陰謀や裏切りを、コンパクトかつ濃密に描いたスリリングな政治ドラマ。監督4作目となったジョージ・クルーニーは、1950年代の赤狩り事件を採り上げた「グッドナイト&グッドラック」よりもリラックスムードで、とらえどころのない政治の世界を、知的かつ皮肉たっぷりに風刺する。
主人公の選挙キャンペーン広報官、大統領候補、上司の選挙参謀、部下の選挙スタッフ、ライバル陣営の選挙参謀、勝敗の鍵を握る大物議員、スクープを追いかける新聞記者……すべてのキャラクターが“理想主義者”として描かれている。しかし、ほぼ全員が勝つためには手段を選ばないピカレスクな存在であることが黒い笑いを醸し出す。ゆえに刻一刻と選挙情勢や人間関係は激変。時に敵味方が入れ替わるストーリー展開から一瞬たりとも目が離せないのだ。
特筆すべきは、ライアン・ゴズリング、ジョージ・クルーニー、フィリップ・シーモア・ホフマン、ポール・ジアマッティと声のいい名優たちが揃ったことだ。丁々発止の心理戦を、声の調子で聞き分けることができるのはなんとも楽しい。一方で、男たちの汚い争いに巻き込まれる選挙スタッフ・インターン役のエバン・レイチェル・ウッド、新聞記者役のマリサ・トメイも容姿を十分に活かしたハマり役だが、それぞれの役柄にもう少しひねりが欲しかった。「冷徹な男性社会の犠牲になる女性」という構図は現代ではやや古い気がする。
実際の選挙は当選結果がすべてだが、この「スーパー・チューズデー」では、選挙戦の内実こそがすべてである。クルーニーはこの現代の悲劇を、自らの血筋(父親はジャーナリストのニック・クルーニー)に逆らうことなく、冷徹な態度で一級のエンターテインメント作品に仕上げている。
(サトウムツオ)