ドン・キホーテ(1933)
解説
世界最大のバス歌手として知られているフェオドール・シャリアピンが主演する映画で「三文オペラ」「炭坑」「熱砂の女王」と同じくG・W・パブストの監督作品である。原作はセルヴァンテスの有名な作物でこれをフランスの文学者ポール・モーランが改作し、アレクサンドル・アルヌーが台詞を執筆した。シャリアピンを助けて出演する人々は、フランスの舞台の人気者ドルヴィル、「面影」のアルレット・マルシャル、新進のミレーユ・バラン、マディー・ベリー、ドンニオ、ルネ・ヴァリエ、等であるが、なおこの映画にはフランス楽団の新人ジャック・イベールが作曲に、「三文オペラ」「最後の中隊」のアンドレ・アンドレイエフが装置に、ロッテ・ライニガーが線画に、それから「嫉妬」のジャン・ド・リミュールが監督に参与している事を書添えておく。撮影は「幻の小夜曲」と同じくニコラス・ファルカシュの担任。
1933年製作/73分/フランス
原題または英題:Don Quichotte Don Quixote
ストーリー
スペインラ・マンチャの住人ドン・キホーテは姪の嘆きをよそにして、古今の騎士の勇ましい武勇伝を耽読している内に、頭が妙になって来て、自分だけは中世に生きる騎士になりすましてしまった。が、そうしている内に、旅芝居の舞台で巨人が姫君を奪おうとしているのを見るや忽ち激しい正義の念が湧き起り、舞台に躍り上ってこの巨人を打倒した。で、その時、この旅芝居で王様に扮していた役者は冗談から、彼を騎士の位につけてやった。さあそうなるともうドン・キホーテは天晴れ本当の騎士になったのだと思いこみ、意中の佳人デュルシネ姫--実際ではこれはただの村の娘にすぎないのだが--を後にして、隣に住むサンチョ・パンサを従者にして武者修行の旅に上がった。でドン・キホーテは名馬ロシナンテにまたがり、サンチョはロバにゆられて、ここにドン・キホーテに言わせれば、不正を挫き、弱気を助ける門出は切られた訳である。だが、その旅が続く内に、中々いつまでたっても御主人様の言うように一島の主となれる日は来ず、徒らに空腹ばかりの旅にサンチョは不平が高じて来た。ドン・キホーテがこの武者修行でまず武勇を振るったのは彼が羊の群れを敵の大軍と見誤ってそれを蹴散らした事である。次で彼は鎖につながれた囚人達を解放してやったが、これは失敗で囚人達は反対に彼に石を投げつけて逃走した。しかしこうして囚人を助けたという事からドン・キホーテの所業はお上の眼にとまった。彼を罰すべしという意見もあったが、領主は彼を武勇伝に惑わされた狂人であると断じ、ドン・キホーテとサンチョとを宮廷に招じ入れた一方、カラスコというドン・キホーテの姪の恋人の願いにより彼とドン・キホーテとを一騎打ちさせる事とした。領主の考えでは、この試合に負けた者は一生武器を捨てる約なので、こうして彼の夢を破らずに自づとドン・キホーテをまた故郷に隠退させるつもりなのであった。所が、ドン・キホーテはこの試合に勝った。そして彼はこの試合が芝居であり己が人々に弄り者にされているのを覚って憤った。それから彼は風車を巨大なる悪魔と見て、これに向かって勇躍一番槍をかざして真向から突撃した。だが、この風車は彼を空中高く振り回した。年とっていたドン・キホーテはこの打撃の為に全く気力を失っていた。そして羊の檻に入れられて彼が故郷へ送り返された時、彼は昔彼がさしも愛読していた数々の武勇伝の書籍が山と積まれて焚かれているのを目撃した。ドン・キホーテはそれを見ながら、サンチョの腕の中で息を引きとっていった。
スタッフ・キャスト
- 監督
- G・W・パブスト
- 脚本
- ポール・モーラン
- 原作
- セルヴァンテス
- 台詞
- アレクサンドル・アルヌー
- 撮影
- ニコラス・ファルカシュ
- ポール・ポルティエ
- セット
- アンドレ・アンドレイエフ
- 衣裳
- マックス・プレッツフェルダー
- 作曲
- ジャック・イベール
- 助監督
- ジャン・ド・リミュール
- 線画
- ロッテ・ライニガー