わが青春のフロレンス

劇場公開日:

解説

二十世紀初頭、芸術の都から工業都市へ変わりつつあるフロレンス(フィレンツェ)を舞台に労働者として階級意識に目覚め、激動の青春を生きる若者と彼が愛した女達を描く。製作はジャンニ・ヘクト・ルカリ、監督は「堕落」「彼女と彼」のマウロ・ボロニーニ、「家族日誌」等のヴァスコ・プラトリーニの三部作「イタリア史」の第一部にあたる原作をボロニーニとルイジ・バッツォーニ、スーゾ・チェッキ・ダミーコが脚色、撮影は「王女メディア」のエンニオ・グァルニエリ、音楽は「ケマダの戦い」のエンニオ・モリコーネ、音楽指揮は「裸と猟奇の世界」のブルーノ・ニコライ、セットをグイド・ジョシアが各各担当。出演は新人のマッシモ・ラニエリとオッタヴィア・ピッコロ、その他フランク・ウォルフ、「獲物の分け前」のティナ・オーモン、ルチア・ボゼーなど。

1970年製作/イタリア
原題または英題:Metello
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1971年4月17日

ストーリー

一八八〇年、監獄から一人の男が出て来た。灰色の壁に寄り添って一人待っていた女が近づいて来る。女は赤ん坊を抱えていた。「生まれたか……名前は?」「メテロ……」。そしてその夜、生活の疲れと出産の疲れが重なったメテロの母は死んだ。数日後、砂取り作業員で革命家だった父もアルノ河の氾濫で濁流に呑まれて死んでしまう。メテロは田舎に預けられて育ったが、十七歳の時、世の不景気のため移往する一家を離れて両親が住んでいたフロレンスに戻る決心をした。父の古い友人でアナキストのベット(F・ウォルフ)は煉瓦工の仕事を捜してくれた。彼の下宿で世話をうけながら、メテロは熱烈な社会の完全変革をめざす思想を彼から教えられる。しかし、或る日、彼は酔って姿を消した。捜しに出たメテロは監獄に行ってみるが、“ベット”という名を喋っただけでブチ込まれる。牢獄には政治犯もいた。「マルクスを知っているか?社会主義の方が現実的だ、君の親父を知っている、立派な男だったぞ」メテロの体の血は熱くなった。初めて階級を意識したのだ。未成年で無実だったからすぐに釈放されたがもう、かつての少年メテロではなかった--。煉瓦職人に戻った彼は、或る日、仕事場の隣にある家の庭仕事を頼まれ、未亡人ビオラ(L・ボゼー)に誘惑される。彼の恋情は真剣だった。しかし、彼には兵役が待っていた。一〇九五日の兵役は彼の肉体を逞しいものに変えた。だが、階級のために闘う思想も鍛えあげられていった。そしてフロレンスに帰ったメテロは以前の会社に戻り社会主義労働者グループに入った。久し振りに会ったビオラはちっとも変わっていなかったが、結婚していた。子供までいた。貴方の子かも知れないと彼女は言った。しかし、もうビオラは自由の身ではなかった。メテロ達の働く現場で人員整理のゴタゴタが起き、その騒ぎの最中、一人の男が誤って腐った梯子から落ちる。「娘を呼んでくれ。死んだら組合の旗と一緒に弔ってくれ」と言って死んだ。その男の葬式の日メテロはエルシリア(O・ピッコロ)と会った。世話になった父の礼を言う清楚な姿はメテロの心に刻まれる。組合の赤旗で護られた葬列は官憲の不当弾圧で蹴散らされ、抵抗したメテロと同志達は投獄された。翌日、牢獄の外から各々の身内の者が声をかけて来た。その中で「サラニ・メテロ、エルシリアです。感謝しています」彼は鉄格子にしがみついて答えた。「結婚するぞ!エルシリア!手紙をくれ」一年以上の刑が宣告されたが周りは自分の主義のために闘っている同志達ばかりだった。「手紙をくれと言ったので書きました。よく留置所にいた父にも書いたものです」メテロはエルシリアの手紙を貧り読んだ。彼女の父も闘士でありよく投獄され、彼女は造花の内職で生計を助けていた。まだ愛した経験がないから、同情なのか愛情なのか分らないというエルシリアだったが、メテロが出獄すると二人は結婚し、子供も出来た。組合運動が活発化し、メテロは集会のリーダー格となった。最低貸金を要求する運動はフロレンス市中に拡がり、遂にストライキが宣言され二〇世紀初頭の伝説的争議となった。この頃から機械が導入され労働者の危機感が高まったのだ。メテロ達の職場もストに突入した。集会のない日、公園をブラつくメテロはアパートの隣に住む人妻イディナ(T・オーモン)に声をかけられる。典型的な有閑夫人で日頃からメテロに気のあるそぶりを示し、労働者の妻のエルシリアにはない魅惑的な眼差しを持っていた。そして、妻の留守中二人は過ちを犯してしまう。帰宅したエルシリアがその逢瀬を目撃したのには気付かない。煉瓦工のストは四十日以上に渡って続けられ、スト基金は底をつき、職場復帰する者は厚遇するという資本家側の奸策に日和り始める者が出て来る。メテロは屈伏しないと頑張った。一方エルシリアは外で夫と密会を続けるイディナを待伏せ、部屋に連れ込んでいきなり力いっぱい平手打ちを喰わせる。夫に手を出さないで!!遂に対決の時が来た。資本家側にシッポをふった連中が、ストを破って仕事にかかるというのだ。仕事場に駆けつけたメテロ達の前には軍隊の銃口が待ちうけ、資本家と裏切り者がその後にいた。「皆裏切りはやめろ!募金が着く頃だ」「鐘を鳴らせ仕事だ」と近づいて来た社長は言った。「初めて雇ってやった時はまだ子供だったが……」メテロは答えた「私の父の頃は労働者が弱すぎたから搾取は簡単だった。だが今は違う!」乱闘になり、軍隊が発砲した。その時資本家側が労働者の要求に折れスト中止の指令が入った。労働者が初めて自らの血と汗で勝利の第一歩を得たのだ。騒乱罪でやがて逮捕の手がのびる事を知ったメテロは妻の許へ別れを告げにいく。エルシリアは夫の闘いと共に呼吸し、黙して理解する事を知っている労働者の妻だった。メテロはその豊かな女らしさに烈しい愛を確認する。六ヵ月の拘留後、外には息子の手を引き、身重の姿の妻が待っていた。彼が捕っている間、誰かが金を届けてくれたと妻がいった。「女の子が生まれたらビオラと名を付けよう」「……もうこの中へは絶対入らない、誓うよ」「いいわよ、父の誓いと同じだわ」。エルシリアはメテロを見つめ、息子の肩を抱きしめながら呟いた。

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映画レビュー

4.0思想が混迷する20世紀初頭のフィレンツェを舞台に、ある男の生きる信念が描かれた感動作

2022年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この物語は、家族を抱えた一人の男が激動の社会を生き抜いていく生活感溢れるドラマであり、映像は19世紀末から20世紀初頭のイタリア・フィレンツェを舞台にした時代色を見事に再現して、実に味わい深く感動的な映画である。古都として高名なフィレンツェの舞台背景は美しく、その古色蒼然とした雰囲気が素晴らしい。社会主義や無政府主義の思想が飛び交う混迷の時代に、貧しくも直向きに生きる主人公メテロの物語は、父から受け継いだ家族の絆を我が子に繋いでいく。これは小説として読んでも感銘を受けるであろう。幾多の困難に立ち向かわなくてはならない時代の社会状況が主人公に降りかかりながら、けして諦めないメテオの信念が奇麗ごとだけに描かれていない点も説得力がある。彼に寄り添う妻エルシアの健気さも、この時代の愛の形として描かれている。そして、この映画の感動を盛り上げるエンニオ・モリコーネのテーマ音楽が効果絶大である。

  1977年 2月8日  大塚名画座

監督のマウロ・ボロニーニの作品は、「華やかな魔女たち」「愛すれど哀しく」「沈黙の官能」しか観ていない。巨匠が多いイタリア映画の中では一流とは言い難い監督だが、この作品と「愛すれど哀しく」はボロニーニ監督に合った題材だったようで、成功した代表作になると思う。他の監督では味わえないボロニーニ監督の個性があり、素直に“いい映画”として印象に残るイタリア映画だった。

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Gustav

4.0オッタヴィア・ピッコロ

2020年7月5日
Androidアプリから投稿

20世紀初頭のフロレンス(フィレンツェ)
労働者階級の人々の日常と感情を アナーキストの息子である少年の成長を軸に描く

妖艶な未亡人ヴィオラ(ボゼー)の誘惑
徴兵から戻ると彼女は結婚していて 思わず捨て台詞を吐く、彼の若さ

死亡した同僚の娘エルシリア(ピッコロ)との恋と結婚

隣家のあぶない美女(オーモン)との不適切な関係
(労働運動の主軸になっていくことからの現実逃避もあるだろうか)

この主人公メテロを演じるラニエリが好演

更に素晴らしいのが揺れ動くメテロに対し
首尾一貫する妻を演じる オッタヴィア・ピッコロで、美しく清々しい

ボゼー、ピッコロ、オーモンと美女ばかり
レンガ職人達もイケメンが多く ある意味 不自然なのだが、画面全体の落ち着いたトーンに吸収されたかのように自然に感じられる
(撮影 エンニオ・グァルニエリ)

ヴィオラ いい女でした

演じたルチア・ボゼーは今年3月コロナによる肺炎で死去されました…残念です

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jarinkochie

3.0アナーキストvs社会主義者

2018年5月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

タイトルから想像したのと違い、階級闘争に人生を捧げる青年の物語。
時代が、アナーキストvs社会主義者という対立だったのかと新鮮。

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カメレオン

5.0大好きです!

2015年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

まだ、フロレンスには、行けていません。

でももう、タイトルを聞いただけで涙があふれます。

イタリア語の原題の、「メテロ」で、ずっと覚えてきました。

イタリアの人に会えた時に、大好きな映画だと伝えたいためです。

オッタビア ピッコロの可憐さ。

ストーリーの切なささ。

音楽の素晴らしさ。

もう、たまりません。

生涯に見た映画のなかで、間違いなく、ベスト10に入る映画

です。

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夕焼け大好きさ