ヤング・ゼネレーション : 映画評論・批評
2020年10月13日更新
1980年4月5日よりロードショー
異色の自転車レースを描き、青春ドラマとしても歴史に残る傑作
2006年アメリカ映画協会が選出した「この100年で最も感動する映画ベスト100」の8位にランクイン、オスカーに輝く青春映画の最高峰の1本である。実在の名門校インディアナ大学を擁する学園都市ブルーミントンを舞台に、地元の落ちこぼれ4人組が過酷な自転車レースに挑戦、逞しく成長していくまでを描く。
主人公のデイブは高校を卒業するも進路が決まらない。ニート手前でイタリア製ロードレーサーが今の拠り所。すね毛を剃り上げチューブラータイヤのMASIに乗り、フリーウェイでトラックに牽いてもらいながら、プロ並みの健脚でペダルを踏む。彼とその仲間は故郷で働くしかないというモラトリアムな問題に直面し、それぞれ鬱屈した日々。そんな思いから、自由に振舞うよそ者の大学生たちと小競り合いを繰り返し、結局は自転車レースで決着を付けることになる。
臨場感溢れるカーアクションで定評のイェーツ監督が自転車を描いたことも興味深いが、登場する実在のレース「Little 500」にも注目したい。1951年設立、毎年4月に行われるレースで、参加チームは30を超え数万人の観客が訪れる一大イベントだ(入場料の一部は奨学金に)。1チーム4人で400m未舗装トラックを200周走り順位を競うもので、使用バイクはダボ穴など一切ない700cフレームに太めの32mmタイヤ、フリーのシングルギアでコースターブレーキ搭載の超特別仕様。毎回主催者から貸与され、それをチームで共有。リレーのように走りながら乗り手が交代する。男女の部門に分かれ、落車やクラッシュも当たり前だ。
映画の公開を機に、劇中のデイブたちと同名の地元主体のチームCUTTERSが結成され、84年には初優勝を果たし現在も最多優勝を誇る。登場するキャンパスや競技場は全て本物、主人公も実際に活躍した名選手デイブ・ブレイズをモデルに、スティーブ・テシックが脚本を書き上げた。テシックはのちに、コロラドの自転車レースにかける兄弟を描いた脚本を書き上げ、「アメリカン・フライヤーズ」の題名でジョン・バダムが映画化している。(女優レイ・ドーン・チョンの後輪交換の手際がリアル)。
話は外れるが、自転車映画には他にケビン・ベーコンのメッセンジャーもの「クイックシルバー」、自作マシンでアワー・レコードに挑戦する英国選手の実話「トップ・ランナー」、オスカーに輝いたNetflixのドーピング・ドキュメンタリー「イカロス」など多々あるが、変わり種としてベルトラン・タベルニエの「レセ・パセ 自由への通行許可証」を挙げたい。ナチ占領下のパリ映画業界を舞台にした政治ドラマだが、主人公で元競輪選手の助監督ジャンが、妻子の疎開先までの400キロを愛車でロングライドする場面が素晴らしい。細身のフレームに古風なパーツ、こなれたポジションに加え、起伏豊かな道程や気候、走りながらの補給や着替え姿などが、ビゼーの「真珠採り」に乗せ詩情豊かに描かれ、グラン・ツール好きにはたまらない。演じるジャック・ガンブランは「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」(監督はタベルニエの息子)でも再びサドルにまたがる姿を見せている。これらの作品、未見のローディにはぜひ見て頂きたい。
(本田敬)