ひとりで生きる

劇場公開日:2025年8月23日

解説・あらすじ

1989年製作の「動くな、死ね、甦れ!」で当時54歳にしてカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞し、世界から注目を集めた旧ソ連出身の映画監督ビターリー・カネフスキーが、同作の続編として1992年に発表した作品。第2次世界大戦直後、ソ連の強制収容所地帯に暮らす少年少女の過酷な運命を描いた前作に続き、大人へと成長していく少年の心の揺れを、抒情豊かに描く。

15歳になったワレルカは、子ども時代に別れを告げようとしていた。大人たちの世界はますます悲劇的な様相を呈し、ワレルカにとっての心の拠り所は、2年前に死んだかつての恋人ガリーヤの妹・ワーリャと一緒にいる時間だけだった。やがてある事件が原因で学校を退学となったワレルカは、ワーリャの思いをよそに町を離れ、ひとりで生きることを選ぶ。一方、残されたワーリャは、返事の来ないワレルカへの手紙を書き続ける。

出演は前作に続きパーベル・ナザーロフ、ディナーラ・ドルカーロワ、エレーナ・ポポワ。1992年・第45回カンヌ国際映画祭で審査員賞受賞。2025年、特集上映「ヴィターリー・カネフスキー トリロジー」にてリバイバル公開。

1991年製作/100分/ロシア・フランス合作
原題または英題:Une vie independante
配給:gnome
劇場公開日:2025年8月23日

その他の公開日:1995年5月13日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第45回 カンヌ国際映画祭(1992年)

受賞

コンペティション部門
審査員賞 ビターリー・カネフスキー

出品

コンペティション部門
出品作品 ビターリー・カネフスキー
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映画レビュー

4.0 「行ってみたいなよそのくに」日本語でしかわからないこの箇所を敢えて選ぶ皮肉の妙

2025年9月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2年前の前作と比べて、フランス資本が入ったからか、ビジュアルが決まっていて、編集も荒削りでなく、音楽が流れる時間も増えたように感じた(イタリア民謡マリアマリなど)。要は作品が洗練されたということ。
とはいえ描いている内容は前作以上に貧困、インモラル、狂気であり、洗練というのはおかしいかもしれないが。

反面、前作の不器用ながらも、原石のような無垢な感覚は失われてしまった。
好みの問題だが、私は本作の方が気に入った。

ラストに至る描写がとにかくすごい!
ガリーヤもワーリャもママもブタのマーシャも隣人母娘もヤマモトも皆去ってしまった。まさに「ひとりで生き」ていくしかない。ぼろぼろの鉄橋の上を盲目で杖つきながら歩く危うさで。
最後、もがきながら必死で泳ぐワレルカの孤独感、寂寥感が半端ない。
久々に人の温かみがとても恋しくなった映画である。

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sugar bread

3.5 ワレルカよ どこへ行く 行く手に拡がる五里霧中の世界

2025年8月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ロシア極東を舞台に展開する 貧しき悪童少年の物語『動くな、死ね、甦れ!』の続篇です。前作で炭鉱と強制収容所の町 スーチャンの少年少女を演じたパーベル•ナザーロフとディナーラ•ドルカーロラは引き続いてこの映画でもストーリーを引っ張ってゆく役割を担います(ただし、ドルカーロラは今回は前作ヒロイン ガリーヤの妹ワーリャ役にて出演)。

前作とこの続篇の間には公開年にして2年の開きがある(1989年と1991年)のですが、思春期の少年少女にはこの2年の月日は大きかったようです。主人公の悪童 ワレルカを演じるナザーロフは前作では日本流に言うと小学校6年か中学1年ぐらいの感じだったんですが、本作では、男性ならほぼすべて、女性でも男の子を育てた経験のある方ならわかると思われる、いわゆる声変わりの時期にありまして、背も少し伸びております。主演のふたりが2年分だけ大人に近づいたというのはかなりの意味を持っていたみたいで、前作にあったふたりの間の抒情味みたいなものが本作ではあまり感じられませんでした。やはり、前作の『動くな、死ね、甦れ!』は成長途上にある少年少女のある一瞬を切り取ってみせたということで奇跡の一本だったのかもしれません。本作も健闘しているとは思いますが、前作には及ばないという印象を持ちました。

収容所にいる旧日本兵の捕虜も本作ではそのうちひとりに「ヤマモト」という役名がつきました。その捕虜たち、前作では民謡を歌っていることが多かったのですが、今回は小学唱歌が多くなります。

🎵カラス なぜ鳴くの

とか、

🎵海は広いな 大きいな

とか、なんですけど、面白いのは唱歌『うみ』のほうで、上記の箇所を歌った後、歌詞をとばして、いきなり

🎵行ってみたいな よその国

と、歌います。子供の頃に本当によその国に行ってみたかったかどうかはともかくとして、「よその国」の強制収容所の生活はどうですか、ヤマモトさん、と尋ねてみたくなって、哀しい気持ちに襲われます。で、ヤマモトさん、日本に帰国できるようになったみたいですけど、実は帰国せずロシアに残ったという話も流れてきて、話の虚実が霧の中に包まれてゆきます。

そう、霧の中。物語が進行してゆくにつれて、話の行方が霧の中に入ってゆくような感覚に襲われました。けっこう幻想的なシーンも多くなります。この「五里霧中感」はだんだんと孤独になってゆく主人公ワレルカの心情を表しているのかもしれません。

霧の中のワレルカはこれからどこに行くのでしょう……

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Freddie3v

3.5 夢見るような恐ろしさ

2015年2月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

難しい

『動くな、死ね、甦れ!』の続編。第二次世界大戦直後のロシアの炭鉱町。15歳になった少年ワレルカと、前作で死んだガリーヤの妹ワーリャの物語だが、監督自身の記憶と心象風景を描く幻想的な映像と音楽で映画は綴られてゆく。霧と凍った大地の風景が、かさかさの感情と生存本能が剥き出しになった生活が、繰り返し流れる近所のオヤジの下品で無遠慮でやかましい歌の調べと日本人捕虜の歌う子守唄が、そして自分が生きる場所を求めて諦めかけ苦悩する若い精神が、ひとつひとつ美しく寒く痛々しい。ワレルカは全てを置き去り、ワーリャを失い、一人になる。無意識をそのまま映像化したような、言語から最も遠い映画作品。

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manambo