「バデイものの真骨頂」張り込み(1987) 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
バデイものの真骨頂
80年代はジョンバダム監督の黄金期でした。American Flyers、ショートサーキット、張り込みを鮮明に記憶しています。
よく感じるのですがBlue ThunderやWarGamesみたいな、とても僻地な素材を、一級の商業映画にしてしまう手腕がありました。いったい誰がショートサーキットを面白くできると想像したでしょう?
ヘリコプターやコンピューターオタクから、映画を──しかも面白い映画を撮ってしまうのがハリウッドの凄みでした。
徹底した職人主義です。
近年の日本映画は、監督の功名心がダダ漏れしている、と思います。
観衆は、画からにじみ出てくる「わたしの感性」を払いのけながら見ている、ような気がします。
海外映画レビューにいちいち牽強付会なdis日本映画をするわたしもわたしですが、誰であろうと、映画を好きになる初動には、演出が巧い映画の存在があったと思います。
映画を見慣れて、リテラシーやパターンを知り及んで、各々主観を形成しますが、がんらい面白い映画が面白いわけです。
だから、演出が巧い映画監督に絶対の価値をみるのです。
じっさいわたしも映画を積極的にみはじめた80年代、ジョンバダムやマーティンブレスト、リチャードドナー、ロバートゼメギス、ジョンマクティアナン、トニースコット・・・そういったドル箱の商業映画から、世界へ踏み入ったはずです。
つまり、誰もがやがて映画を語りはじめますが、初動はダイハードやバックトゥザフューチャーだった──と思うのです。
そしてこの映画。ジョンバダムの張り込み。見たときの興奮をとてもよく憶えています。ほんとに映画って面白いなと思いました。
映画は複層の映画的素材を持っています。バディものの刑事素材。ラブコメ素材。他人の生活をのぞき見る裏窓素材。アクション素材。それらが怒濤のテンポで語られるのです。
この当時、綺麗系で売れっ子だったマデリーンストウがもっとも綺麗だったのに加えて、ドレイファスにエステベスにフォレストウィテカーです。
わたしはオールウェイズで、これから飛行機が爆発して死ぬってときに、ニコニコ笑ったドレファスが忘れられません。
バディとなるエステベスは童顔に不釣り合いな髭を生やしていました。双眼鏡に墨を塗られてパンダになります。刑事たちの悪ふざけが、おっそろしく楽しく語られる映画でした。
いちばん楽しかったのはドレイファスがストウを落とす顛末です。刑事らは、仕事とはいえ、日々彼女の生活をのぞき見ており、彼女の歓心を買うのに苦労しません。いわば、ユーガットメールのトムハンクスみたいなもんです。その男性側の希望的観測が、これ以上ないほど鮮やかに語られている映画でした。
ところで、日本の数少ない職人型監督である野村芳太郎にも張り込みという映画があります。代表作のひとつです。後年になって、バダムはきっと野村芳太郎を見ただろう──と、わたしはひそかに確信しているのです。