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◯作品全体
身もふたもなく言ってしまうと、ダメな男の妄想みたいな作品だった。
出所してきたばかりのビリーは、いわばなにもない人間だ。帰る場所は仲の悪い実家しかないし、確実にあるのはキックを外したアメフト選手への憎悪だけ。しかもワザと外したなんていう、陰謀説めいた噂話をきっかけにした憎悪で救いようがない。そう、家庭環境や本人の性格含め、ビリーはまさしく救いようのない男なのだ。
さらにレイラとの出会いは「無」どころか脅しと拘束によってマイナスからのスタートだが、「無」に打ちのめされたビリーの言うことをレイラは無条件で聞き入れてくれるうえ、好意を寄せてくれる。…うーん、なんというか、欲求不満の人間が3秒で考えついたようなプロットだ。
それでも復讐という本懐は譲れない(というところもやけに漢気臭くて妄想っぽい)と、アメフト選手の目の前まで行くがレイラの愛の力が憎悪に打ち勝ち、二人幸せに添い寝して終わる。やはり妄想みたいなラスト。
レイラは、ビリー自身も作中で口にしていた「天使」という言葉がふさわしい。救いようのない人間を救ってくれるのは人間ではなく天使なわけだ。天使はもちろん実在しないので、そういう意味でも「妄想っぷり」を楽しむ映画なんだろうけれど、ビリーの人間性がかなりノイズだった。ビリーがこの日に限ってツイてない人間だったり、性根は良いやつみたいなエピソードがあれば違ったのかもしれない。しかし罪を背負わされたのは自分のせいだし、友人に対してナチュラルに蔑称で呼んでるし、これからも愛の力によってすべてを解決できなさそうな感じがする。ダメ男の「愛している」は信頼できない。
さらに、本作は ヴィンセント・ギャロ監督の実際あった出来事からインスピレーションを受けて作られたんだとか。そうなるともう、ダメ男とかどうとかじゃなくて、モテるクズ男の物語みたいな感じになってきて、「こういう悪態つきたくなる日もあるし、それを救ってほしい日もあるよな…」みたいな感想もルックスの壁によってチープな感情になり果ててしまった感がある。
ビリーをのクズっぷりにモヤモヤするところはあれど、空から美少女が降ってくる作品特有の、妄想設定とキャラの魅力でガンガン進めていく展開は楽しい作品だった。
〇カメラワークとか
・家族との食事シーン、主観で他三人を映すっていうのをそれぞれの人物でやっていて面白かった。面白かったけど位置関係がわかりづらくてすごく混乱した。
・回想や空想のシーンを小さい画面から拡大していく演出が面白かった。2,30年前のバラエティ番組とかではよく見たけど、最近はめっきり見なくなった。
・一番笑ったのはホテルで横たわる二人を俯瞰で撮るカット。レイラはリラックスして寝てるのに、ビリーは斜めに姿勢正しく寝ていて、その姿勢がギャグっぽくて面白かった。
・ラストカットのハッピーエンドな止めカットは恋愛シミュゲーのスチルっぽくて笑ってしまった。
・ヴィンセント・ギャロ監督は小津ファンでFIXのカットが多いのはその影響らしいけど、なんか本質ではないFIXな気がする。個人的には小津作品のFIXの良さってレイアウトの良さの強調にあると思ってるから、ぼんやりとしたレイアウトにFIX使ってもなあ…となってしまう。家族のシーンに尺を使ったのも小津作品の文脈なのかもしれないけど…。
〇その他
・ホテルのシーンでビリーが他者と壁を作る臆病な人間であることがわかる。これを見て「そうだよな、人と近付くのって怖いよな…」と共感したけど、「でもヤンキーとか不良もビビってるからオラつくんだよな…ビリーも同じだな…」と考えてしまってすぐに共感が冷めた。
・ラストシーン、個人的にはすごい驚いた。ホテルの部屋を見た時に灯りはあれどレイラの姿は見せないし、ドーナツ屋でウキウキになってるビリーに結構な尺を割いていたし、これはもうホテルに戻ったらレイラが居ないパターンだなと思っていたらあっさりハッピーエンドだった。
・なんといってもレイラ役のクリスティーナ・リッチの魅力。着てる服がそうさせるのか、ちょっとぽてっとしたスタイルもかわいらしいし、ビリーへの心配りを感じる視線の送り方もとても良かった。タップダンスのシーンは謎だったけど、クリスティーナ・リッチが魅力的なので謎でも全然良い。