血と砂(1922)

解説

「黙示録の4騎手」の原作者として広く知らるるスペイン文豪ヴィセンテ・ブラスコ・イバネス氏の同名の小説を長らくメトロ社に脚色部長として在社し「黙示録の4騎手」「征服の力」等の名作を現したジューン・メイシス女史が脚色し、「三銃士(1921)」「奇傑ゾロー」「性」及びエニッド・ベネット映画の監督者として名高きフレッド・ニブロの監督したもの。主役は「シーク」「海のモーラン」「黙示録の4騎手」「征服の力」等に出演した米国第一の人気者ルドルフ・ヴァレンティノ氏で、相手役は「魂の入れ替」「屋上の椿事」出演のライラ・リー嬢と「狂える悪魔」「人生」等出演のニタ・ナルディ嬢である。その他パ社の名悪役ウォルター・ロング氏や「奇傑ゾロー」のジョージ・ベリオラット氏、ロバート・マッキム氏夫人たるドーカス・マシューズ嬢等が共演している。米国に於いて大々的に好評を博した映画である。

1922年製作/アメリカ
原題または英題:Blood and Sand

ストーリー

ファン・ガラルドはスペインに小村に生まれた貧しい子供じあったが野心に燃え又浪漫的な彼は名闘牛師とならんと志した。地方の闘牛場は数回の成功を重ねた彼はやがてセヴィルの都に表れた。しこうして彼は忽ちにしてスペインの花として謳わるるに至った。闘牛場に彼が益々名声を博していた時彼の勇姿に惹き付けられた者は情熱の女ドナ・ソールであった。ソールの艶姿は一歩々々とファンの魂を奪った。ファンは全く彼女に魅せられてしまった。しこうして彼はまだ名声を博しないうちに結婚した幼友達にして且つ糟糠の妻たるカルメンと彼との間には深い溝が穿たれた。然しファンの歓楽は忽ちにして過ぎ去った。ソールは直ぐにファンに倦いて彼を棄ててしまった。カルメンも彼は許してはくれなかった。彼は自暴となった。光栄ある闘牛の日に彼狙いを外して猛牛の角に突かれた。彼の最後の息を溜らす時に妻のカルメンは彼を許した。場内からは新しき闘牛師を喝采する声が聞こえてくる。

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映画レビュー

3.0伝説の美男スターヴァレンティノとヴァンプ女優ニタ・ナルディの闘牛映画の楽しみ方

2022年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

世紀の二枚目俳優ルドルフ・ヴァレンティノが颯爽と闘牛士に扮して、妖艶な未亡人の色香に迷った末、闘牛場の砂を血に染めて落命するというサイレント映画らしい作品。ヴァレンティノの代表作として映画史に名を遺す。原作は、前年のレックス・イングラムの大作「黙示録の四騎士」と同じく、スペインの世界的作家ブラスコ・イバニェス。約二十年後に再映画化され、タイロン・パワーが主演したのを中学時代に日曜洋画劇場で観た記憶はあるが、特に印象には残らなかった。監督は、「奇傑ゾロ」(20)「三銃士」(21)「ベンハー」(26)などのフレッド・ニブロという人。今回初めて鑑賞する。脚本は、ケン・ラッセルの「バレンチノ」に登場したヴァレンティノの理解者ジューン・メイシス。主人公ファン・ガラルドの妻カルメンに清楚な女性らしさを持つライラ・リー、ガラルドを誘惑して虜にさせる悪女ドニア・ソールにニタ・ナルディの配役で、娯楽映画の一定の水準はクリアーしていると思う。だが俳優の魅力以外の演出や撮影に特質を見つけられず、この感想文も書き難い。田舎青年がスペイン最高の人気闘牛士になって大活躍するストーリーは理解するも、貞淑で心掛けが良い妻を得ていながら、偶然闘牛を見学に来ていた公爵の姪である美しい未亡人に一目惚れし、虜になっておいそれと言われるままになってしまうところに説得力がない。感情のこもった台詞のやり取りがないサイレント映画の表現力の限界を感じる。ヴァレンティノは、最初に顔が映し出されるところは流石に奇麗で立派だが、物語上徐々に精彩が無くなっている様に見え、逆にニタ・ナルディの強烈な色仕掛けが印象に残る。ヴァンプ女優として一世を風靡したのも頷ける個性表現だった。兎に角当時の女性の映画ファンは、ヴァレンティノの色んな格好と役柄に狂喜したのであろう。

それと闘牛映画で言えば、個人的には直ぐにフランチェスコ・ロージ監督の「真実の瞬間」という、迫力があって詩的なイメージが浮かんでくる傑作があるので、どうしても比べてしまっていた。しかし、主人公の設定に於ける立身出世の道程には、共通した階級差別による悲劇があって考えさせる。ロージ監督も、このイバニェスの原作を意識していたと想像する。それにしても当時のサイレント映画には、美しい悪女が純真な男を誘惑し破滅に追い込むストーリーが多く見られ、観客もそれを楽しみ、また教訓映画として感じ取っていたのではないだろうか。二人の美女に挟まれた男は苦労する羽目になるのに、何故かそれを潜在的に疑似体験するのも楽しんでいた?
美女に騙されたい男の願望を兼ねた、伝説の美男スター、ルドルフ・ヴァレンティノ主演のサイレント映画でした。

  1979年 5月30日  フィルムセンター

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Gustav

4.0アイロニー的テーマが痛烈

2022年5月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

シネマヴェーラ渋谷にて鑑賞。

本作の監督はフレッド・ニブロとされているが、ドロシー・アーズナーも演出に参加しているので観に行った。(ノン・クレジット)
また、この映画はIVCからDVD発売されているが60分表記だが、今回の上映では1時間46分だったこともあり、シネマヴェーラ鑑賞。

スペインの闘牛士になった男が、栄光と実力そして可愛い妻を手に入れるが、上流社会の悪女の毒牙にかかって身を滅ぼしていく……というノワール的なサイレント映画。

スペインのセビリアを舞台として、闘牛士を目指す青年ホアン(ルドルフ・ヴァレンチノ)は幼馴染の可愛い女性カルメン(ライラ・リー)に惚れている。
踊りと音楽の場面では、カスタネットの音がスペインらしい感じ。
そうした社交場で、ホアンは女性にモテるのだが「女は嫌いだ。一人を除いて…」とカルメンへの一途さを見せる。
そして、ホアンは闘牛で牛に殺された友人の復讐として、その牛を倒したあたりから人気急上昇。彼は、カルメンと結婚する。結婚披露宴でのカルメンは可憐なファッションを見せる。
そんな幸せなホアンが、「死んだ友人の母親と出会う」・「窓から外を見たら葬式している」などの凶事が続いて「嫌な予感」をしていた時、【平穏を壊す女】=ドナ・ソル(ニタ・ナルディ)と出会ってしまう。
その女に誑かされたホアンは「2人の女性を愛する男」になってしまったのだが……。
この後は長くなるので、割愛。

この映画では、「人をたくさん殺してきて指名手配中の盗賊」と「牛をたくさん殺して栄光を得る闘牛士」は基本的に同じ人種ではないだろうか……といった描き方をしているあたりが、洞察深い描き方がされていて面白い。
また、彼らを対比するように描いた終盤も見事。

しかし、残虐さを好む真の獣は、闘牛を観に来る観客たちだ…という痛烈なテーマが心に残る。
アイロニー的テーマが痛烈なサイレント映画の佳作。

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たいちぃ

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