そして人生はつづく

劇場公開日:2021年10月16日

そして人生はつづく

解説・あらすじ

イランの名匠アッバス・キアロスタミによる「ジグザグ道3部作」の第2作で、1990年のイラン大地震後、前作「友だちのうちはどこ?」の出演者たちの安否を確認しようと被災地へ向かう監督親子の旅を再現したロードムービー。イラン北部で起きた大地震は「友だちのうちはどこ?」を撮影したコケール村にも容赦なく襲いかかった。監督は映画に出演した兄弟の安否を確認するため、息子を連れて被災地へと車を走らせる。地震から半年後に実際の被災地で撮影を行い、当時イランの経済庁で働いていたファルハッド・ケラドマンを監督役に抜てき。地震で崩壊した村の悲惨な現状をありのままに捉えながら、人間のたくましさと生きることへの希望を映し出す。特集企画「そしてキアロスタミはつづく」(2021年10月16日~、東京・ユーロスペースほか)にてデジタルリマスター版を上映。

1992年製作/95分/G/イラン
原題または英題:And Life Goes On
配給:ユーロスペース
劇場公開日:2021年10月16日

その他の公開日:1993年10月23日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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(C)1991 KANOON

映画レビュー

4.5 誠実な嘘

2025年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

本作は、前作『友だちのうちはどこ?』の“その後”を描いた作品です。1990年にイラン北部で起きた大地震で、前作の舞台となったコケルやポシュテの村が壊滅的な被害を受けました。監督自身が実際に現地を訪れ、前作の少年アハマッド君の安否を確かめに行ったという現実の出来事が、この映画の出発点になっています。

ただし本作は、単なる記録映画でも、感動的な再会を描くヒューマンドラマでもありません。キアロスタミは、現実をそのまま撮るのではなく、現実を再演するという極めて独自の手法を選びました。監督自身の代わりに“監督役”の俳優を登場させ、被災地の住民たちと共に旅をしながら、現実と虚構の境界を意図的に揺らがせていきます。

途中で登場する、前作も登場したおじいさんの場面が象徴的です。監督が「この家は無事だったんですね」と言うと、おじいさんは「いや、そこは映画スタッフに“この家だ”と言われただけで、本当の家は壊れたんだ」と返す。そして、水をくむオケがないと困っているおじいさんに、スタッフが実際にオケを渡す。
通常の映画なら“NG”になるようなこの一連のやり取りが、そのまま作品に残されています。キアロスタミは、映画という行為の自己欺瞞そのものを露出させることで、「映画とは何か」「現実とは何か」を問い直しているのです。

つまり、キアロスタミはドキュメンタリーの形式を避けることで、かえってより深い現実性に近づこうとしています。ドキュメンタリーは事実を写すように見えて、カメラを向けた瞬間に被写体も演じ始め、真実から遠ざかっていく。そのことを彼は痛いほど自覚していました。
だからこそ本作では、監督が実際に経験した出来事を“演じ直す”という構造を取り、住民たちにも自分自身を“再演”してもらう。現実をそのままではなく、“語り直し”として描くのです。

このメタ構造には、キアロスタミの表現者としての誠実さが宿っています。
彼は「映画を撮ること」自体に潜む欺瞞を隠さず、それをそのまま見せることで逆に誠実であろうとした。
つまり、嘘をつかないことではなく、嘘を自覚することこそが誠実なのだという態度です。
彼にとって、映画とは“真実を語るための嘘”であり、人間の生もまた“自分を保つための小さな演技”で成り立っている。
『そして人生は続く』は、そんな“誠実な嘘”を映し出す映画です。

物語の中では、人々が次々と登場し、地震のときの出来事を語ります。
「蚊に刺されたから助かった」「神様の思し召しだ」などの言葉が繰り返されますが、キアロスタミはそれを宗教的な救いとして描くのではなく、不可知論的なまなざしで見つめています。
神がいるかどうかは誰にもわからない。
けれど人は、悲しみの中で言葉を紡ぎ、物語をつくる。
その語りこそが生の力であり、人間の倫理そのものだと彼は感じているように思います。

そして終盤、坂道で車を押す青年の場面が訪れます。
監督は最初、その青年を無視して通り過ぎるのに、のちに彼が車を押して助けてくれる。
最後は監督が彼を乗せて進んでいく。
そこに説明も感情もありません。ただ、“動作としての倫理”がある。
人が人を助けるのに、理屈はいらない——そう語っているようでした。

タイトルの「そして人生は続く」は、まさにその静かな肯定を示しています。
死があっても、破壊があっても、神が沈黙していても、それでも——そして——人生は続く。
希望でも絶望でもなく、“生の持続そのもの”を描いた作品です。

キアロスタミはこの映画で、「誠実であるとは、嘘をつかないことではなく、自分の嘘を見つめ続けることだ」と語っています。
だから彼は誠実な理想主義者ではなく、誠実な嘘つきなのです。
そしてその誠実さこそが、この映画を特別なものにしています。

鑑賞方法: シネフィルWOWOWの録画

評価: 87点

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neonrg

5.0 やっぱり坂道が良い、力強く映っています。

2025年10月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

幸せ

癒される

1990年、イランを襲った大地震、1987年の映画「友だちのうちはどこ?」を撮影した村も被害を受けたと聞き、息子さんと2人で向かう。
山道を登り舗装されていない道を行くのには少し頼りない車、道中は被害の様子や後片付けに追われる人々、渋滞を避けて険しい道を行くが、急な坂道を登るのに苦労する。
道すがら出会う人達との会話、親子の関係、道は途切れる事なく続く。
何かを決めて撮影している感じでは無いようで、構図は美しく収まり、車内の撮影はどうしたのだろう、走る車や坂道を遠くから撮影したり、ドキュメンタリーのようで映画のよう。
そして題名のとおり、そして人生はつづく。
不思議な感覚で観終わりました。

もしも大地震が起きなかったら、この映画は出来なかったのだろうし、次の映画「オリーブの林をぬけて」も無かったのだろうから、人生は不思議だと考えさせられる。

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naomi

3.5 65点。ジグザグ道3部作の2作目

2025年9月9日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

ジグザグ道3部作の2作目で、前作『友だちのうちはどこ?』を観た後に観ました。

1990年のイラン大地震後、前作『友だちのうちはどこ?』の出演者たちの安否を確認しようと被災地へ向かう監督親子の旅を再現したロードムービー

と、解説にありますが、悲観的に深刻な感じじゃなく明るく珍道中っぽい感じ。

前作『友だちのうちはどこ?』を観てないと、イマイチ意味わからないと思うので、順番どおり観た方がいいです。

1990年のイラン大地震を知らなくて、この映画で初めて知りました。

イランって、すごい親日国だって知ってました?

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RAIN DOG

3.0 ドキュメンタリー

2025年8月31日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

地震という自然災害の残酷さを物語る作品だった。
三部作の二作目という事を知らずに見たので、ところどころわからないところがあり入り込めなかった。
親族を亡くす、家が倒壊するなど信じたくない現実と闘いながら生きている人たち。
誰もがそれらを神様の思し召しだと言っていて。
日本も地震大国なので、被災者の方々の気持ちはわかるのだけど
お互いを納得させているのか、真剣にそう思っているのか国によって宗教感の違いで感じ方も違うなと思った。

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qq