韓国の名匠作品、青春音楽映画、イラン名匠の遺作、シンガポール映画、名作撮影監督のドキュメンタリー。今すぐ家で見られる映画5選

2022年12月17日 10:00


セレクション10作品をピックアップ
セレクション10作品をピックアップ

「JAIHOセレクション vol.1」(https://cinema.eiga.com/jaihoselection/)が12月18日まで、オンライン配信プラットフォーム「シネマ映画.com」で配信されている。セレクション10作品をピックアップし、映画.comの駒井尚文編集長、編集部&スタッフがそれぞれの視点から配信作品の見どころなどを紹介する。(全2回)

「JAIHOセレクション vol.1」は、映画配信サービスの「JAIHO(ジャイホー)」(www.jaiho.jp)と「シネマ映画.com」とのコラボレーション企画の第2弾。ジャパンプレミアとなるドキュメンタリー2作品「デヴィッド・アークエットは殺せない!」「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」を先行初配信。さらにギリシャ映画「アッテンバーグ」をはじめ、韓国のホン・サンス監督2作品、イランのアッバス・キアロスタミ監督の遺作、リトアニア出身監督作品、韓国の青春音楽映画、シンガポールの監督作品、そしてビム・ベンダース監督作品などで知られる撮影監督のドキュメンタリーという珠玉の全10作品を配信している。

■「川沿いのホテル
▼岡田寛司
漢江沿いのホテル、とある冬の1日。老詩人ヨンファン、2人の息子、傷心の女性サンヒと先輩、ホテルの従業員の会話劇が展開。特に大きな事件や出来事が起こるわけではなく、降り積もる雪のように、淡々と言葉が交わされていきます(薄っすらとした暗さを携えながら)。観客に与えられた「神の視点」という特権があることで、これらの光景は一層引きつけられるものに。“それぞれの事情”を知っているからこそ、心がざわついたり、ニヤリとしたり……。

ヨンファンが望んだ、息子たちとの再会はすれ違いの連続。待ち合わせも上手くいかなければ、会話も微妙にかみ合わない。楽しく酒を酌み交わそうとしても、思いもよらぬ流れに。そんな展開の裏側で、サンヒと先輩には「美しい」とグイグイ迫るヨンファン。言葉を弄して息子2人に“説く”姿、語彙力低めでサンヒたちを“口説く”姿の対比が面白いんです。ちなみに息子のひとりは、映画監督という役どころ。「ホン監督の自己分析&皮肉?」と思えてしまうような、彼に対するセリフにもご注目を。

「川沿いのホテル」
「川沿いのホテル」

■「ダ・カーポ
▼飛松優歩
人が、夢や恋にもう一度前向きになる姿を、心地よい音楽とともに繊細に描く物語には、「はじまりのうた」などのジョン・カーニー監督作品のような質感があります。主人公のシンガーソングライター、テイルの胸に、ただ音楽が楽しくて仕方なかった頃の思い出をよみがえらせていく中学生バンドは、どこか「シング・ストリート 未来へのうた」の学生たちと重なります。

夢を追うも、現実に押しつぶされ味わう挫折。恋に破れ、行き場をなくした思慕。夜にひとり、音楽に耳を傾けるように、登場人物たちの声や思いを、そっと感じてみてください。何もかもが輝いていた“あの頃”が胸にある限り、人は誰しも、最初に戻ってやり直すことができる。心象風景のようなノスタルジックなシーンとともに、そんなメッセージに心動かされる作品です。

「ダ・カーポ」
「ダ・カーポ」

■「24フレーム
和田隆
アッバス・キアロスタミ監督の名作「友だちのうちはどこ?」「そして人生はつづく」などと作風が全く異なり、静かに度肝を抜かれることでしょう。タイトルの通り、24個(回)のフレームが、カメラはほぼ固定で淡々と映し出されていきます。そのフレームの中で、雪の舞う湖のほとりで戯れる馬や、波打ち際を横切る牛の群れ、窓から見える風に揺れる木々、エッフェル塔を眺める人々など、動きはありますが、まるで絵画や写真を見ているような感覚に陥ります。そこに牛やカモメの鳴き声、波や風の音、銃声などが鳴り響いてくるのです。

フレームの中の自然や動物などを見つめること。ドキュメンタリー的な作品から、自己を投影したような物語映画の傑作を手掛けてきたキアロスタミ監督は、なぜこのような作品に行きついたのか。キアロスタミ監督の境地と、映画とは何かという問いと対峙することになります。

「24フレーム」
「24フレーム」

■「熱帯雨
▼今田カミーユ
 シンガポールの中学校で中国語を教える美しい中年女性が主人公です。経済的には恵まれているものの、長年にわたる不妊治療はなかなか実を結ばず、妻に協力的ではなく浮気もしている夫、義父の介護、熱意や使命感を持って取り組む仕事は軽んじられる…。重篤な病気や天災や戦争などではありませんが、現代社会に生きる女性に想定されるありとあらゆる困難が主人公に降りかかり、断続的に降り続く雨が彼女の孤独を更に際立たせます。大きな不平不満も漏らさず、耐え難きを耐える姿は、21世紀の先進国が舞台でありながらも、まるである種の昭和の日本映画ような趣も感じられます。

そんな彼女の心のオアシスだったのが勉強熱心な教え子。しかし彼が彼女に恋心を抱き、若さゆえに抑えられない欲望を衝動的にぶつけます。物語の展開には賛否両論あると思いますが、太陽光が眩しいラストで今後の彼女の未来に幸多かれ…と願わずにはいられなかった1作です。

「熱帯雨」
「熱帯雨」

■「光に生きる ロビー・ミューラー
和田隆
 自分が影響を受けた作家性の強い監督たちの作品や、1990年代にミニシアターで見たアート系の多くの作品の撮影監督をロビー・ミューラーが手掛けていたことを再認識でき、運命的なものを感じました。次から次へと名作、傑作のフッテージが登場し、当時の熱い思いが甦ってきます。「都会のアリス」「デッドマン」などのモノクロームな映像から、「パリ、テキサス」「ミステリー・トレイン」などの印象的な色彩、「奇跡の海」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」などのざらついたようなリアルな画とカメラワークは、それぞれの監督の世界観でありながら、ミューラーの手腕が大きく寄与していたのです。

そして貴重なのは、そんなミューラーが長年撮りためたプライベートな映像や写真が見られること。仕事以外の時に彼は世界をどんな風に見ていたのか。彼の才能や人柄が、仕事を共にした監督や編集者、照明担当、そして家族から語られ、いかに多くの映画人に影響を与えた撮影監督であるかが明らかになります。自分がふとした時に意識する風景や光と影、色彩はミューラーのものだったのです。彼が撮影監督を担当した作品を未見の方は、本作を見た後に遡って見てみることをオススメします。

「光に生きる ロビー・ミューラー」
「光に生きる ロビー・ミューラー」

なお視聴料金は、先行初配信作品「デヴィッド・アークエットは殺せない!」「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」は各1000円(税込)、その他の作品は各440円(税込)。※作品を視聴するには「シネマ映画.com」の会員登録が必要。

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