しのび泣き
劇場公開日:1949年2月
解説
「悲恋」のジャン・ドラノワが監督した一九四五年度作品で、「外人部隊(1933)」「我等の仲間」のシャルル・スパークが原作脚色し、台詞を書いている。主演は「フロウ氏の犯罪」のエドウィジュ・フィエールと「美しき青春」「ジェニイの家」のジャン・ルイ・バローで、「居酒屋(1933)」のリーヌ・ノロ、「熱風」のジャン・ヨンネル、ジャン・ヴァール、新人フランソワーズ・ド・リール、ラファエル・パルトニらが助演する。撮影は「悲恋」「ミモザ館」のロジェ・ユベエルが監督し、音楽は「美女と野獣」「悲恋」のジョルジュ・オーリックが作曲している。装置はセルジュ・ピメノフの担当。製作はミシェル・サフラとアンドレ・ポールヴェの協同。
1945年製作/フランス
原題または英題:La Part de l'Ombre
劇場公開日:1949年2月
ストーリー
楽壇を引退して、田舎の荘園に静かな余生を送っている名ヴァイオリン奏手ジェローム・ノブレエには、ただ一つの楽しみがあった。それは二十才となった一人娘、美しいアニエスの幸福である。彼女は音楽を愛し理解するが、芸術家としての才能を父から受けてはいなかった。アニエスは芸術の歓喜よりも愛の幸福を享受する女だが、少なくともかくあれかしと父は望んで、三つの指輪を与えた。それはジェローム・ノブレエを愛した三人の女が送った指輪で、彼はアニエスが三つの恋をして相手の男に三つの指輪をおくってほしいと言った。ある日彼女は村へ馬車を駆っていると、道端でヴァイオリンを弾いている青年にあった。彼女の父に認めてもらいたさに、村の宿屋に泊っているミシェル・クレメルというその男に心ひかれたアニエスは、彼を父の許につれて来た。ミシェルは自ら作曲したコンチェルトをひいた。ジェロームは感動しつつ、冷やかに言った。君は天才以上だ、君には悪魔がついている、君はアニエスを不幸にする、決してアニエスに近寄ってはならぬ。ミシェルは黙って宿に帰った。そして作曲した楽譜を焼きすてた。彼を追ってアニエスが来たのを見ると、ミシェルはかねて彼をしたっている娘のイレーヌを抱き、結婚しようと言った。ミシェル達が夜汽車を村の寒駅で待って眠っている時、アニエスはイレーヌのポケットに指輪の一つをすべり込ませた。十年経った。アニエスはパリで楽譜出版業のアンスロの妻であった。夫に愛を感じないながら、彼女の貞節は評判であった。ある日アニエスは裏街の映画館の楽士となっているミシェルを見た。アニエスは楽壇に勢力のある夫に頼んで、埋れた天才ミシェル・クレメルをコンチェルトの独奏者として出世させる演奏会を催した。ところが彼は遅刻してしかも泥酔して現れ、ステージに棒立ちに立ったまま一楽節も弾かなかった。不幸なミシェルはアニエスに抱かれて、毎日、毎夜、彼女の影につきまとわれていると告白した。二人は国外へ去ることを約した。ところが、それを知ったイレーヌは窓から身を投げて自殺した。イレーヌの屍はアニエスの第二の恋を葬った。それから数年、若い愛人を得たアンスロが離婚したいと申出たとき、アニエスは二週間返事を待ってもらい、亡き父の邸へ赴く。十七年前ミシェルが父の前で演奏した時そのままの父の部屋に、彼女が思いにふけっていると、眼の前にミシェルが現れる。彼は村の宿にいて作品も大分書いたという。離婚を申込まれているアニエスは、第三の指輪を彼に与える。彼が去るとアンスロが来て、許しをこい直ぐパリへ帰ろうと言う。一時間待って下さい、そしてもしもどらなければ、私は永久に去ったものと思って-アニエスは宿へ駆けて行く。ミシェルは酒場の給仕をし、自らも酔っていた。先刻の話はみんなうそです、ぼくの手はこんなにアルコール中毒でふるえている、ヴァイオリンがひけるもんですか。そして宿の主婦ベルトの眼は嫉妬に光っている。ミシェルのやせた肩とベルトの厚い胸を見たアニエスは、黙って去らねばならなかった。外へ出るとアンスロの自動車が来た。機械的に乗って、夫と並んで座ったアニエスの、眼からはらはらと涙があふれ落ちる。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ジャン・ドラノワ
- 脚色
- シャルル・スパーク
- 台詞
- シャルル・スパーク
- 製作
- ミシェル・サフラ
- アンドレ・ポールヴェ
- セット
- セルジュ・ピメノフ
- 作曲
- ジョルジュ・オーリック