家族の肖像
劇場公開日 2017年2月11日
解説
イタリアが誇る巨匠ルキノ・ビスコンティが1974年に発表した作品で、ビスコンティ後期の傑作ともうたわれる一作。全編が室内で撮影され、主要な登場人物は5人という限られた空間で繰り広げられるドラマを描いた意欲作。ローマの豪邸にひとり静かに暮らす老教授。その邸宅には、18世紀イギリスで流行した「家族の肖像」という家族の団らんを描いた絵画が飾られている。そこへブルモンティ夫人とその愛人、夫人の娘らが転がり込んでくる。当初は平穏な生活を阻害されたと感じた老教授だったが、次第に彼らに興味を抱き始める。「山猫」のバート・ランカスターが老教授を演じ、ヘルムート・バーガー、シルバーナ・マンガーノら、ビスコンティ作品おなじみの俳優たちが出演。脚本にも「山猫」「ルートヴィヒ」のスーゾ・チェッキ・ダミーコが名を連ねる。日本では78年に初公開され、日本アカデミー賞最優秀外国作品賞やキネマ旬報外国語映画ベスト・テン1位など多数の映画賞を受賞。2017年2月、デジタル修復版で39年ぶりに公開される。
1974年製作/121分/イタリア・フランス合作
原題:Gruppo di famiglia in un interno
配給:ザジフィルムズ
日本初公開:1978年11月25日
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2022年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
ランカスター氏に魅了されているからなのか。
「つまらない」と一蹴すればいいのに、何故か気になる映画。
鑑賞する度に感想が変わる。
初めて見た時は、伯爵夫人一行の振る舞いに腹を立てて、気分は最悪だった。
書物が積み上げられている部屋に、火がついた煙草の投げ捨てをする?
人の家に不法侵入して裸になってあんなことする?ベルベットや刺繍をこらした布製の家具を総取り換えしたくなった。
以前の面影が全くない貸部屋。趣味はいいけれど。
そんなひどいことをしても、悪びれた感じすらない。
教授が言う「言語が違う」。同じ言語を話していても通じない…。
持つ者と持たざる者との対比。
資産。教養。品格。他者への配慮。自分が根ざすべき足場。未来。世間に対する顔。こそこそしなければならない事情。心の繋がり。秘める想い。
伯爵家とその取り巻き。お金で爵位を手に入れた系の?それでいて、生まれながらの特権階級特有の、人を人として扱えない傲慢さをまき散らす。
『山猫』の人々とのあまりにもの違いに唖然となった。
教授も、その世界をどんどん浸食されて。でも…。
それを情けないと見るか、教授の孤独をそこに見るか。
教授の愛おしんでいる世界を、「趣味がいい」と理解してくれる者。利益のためだとか、見栄の為ではなく、その価値を分かち合える者。蜜月のような時間を共有できそうなのに、すぐに手からすり抜けてしまう…。何度も何度も。そして…。
でも、単なる老境の孤独の話?
コンラッドの立ち位置:登場人物の中で、唯一コンラッドだけが根無し草。それ故のコンプレックス。足掻き。
伯爵夫人とその娘。工場主の次男:ただ与えられたものを享受するだけの存在。多くの物を手にしているようで、その権利を剥奪されたら…。
教授と呼ばれるインテリ:遺産として手にした物を基盤として、自分で生み出したもので手に入れたものに囲まれて…。だが、失ったものも…。半ば墓場のような住居に住まうもの。
(明治の頃は「末は博士か大臣か」と言われるように、現代よりも大学自体が少ない希少職業だったから社会的地位は今よりずっと上?)
コンラッドが身を投じた活動とはどういうものなのか?
イタリア史には疎いから、日本で考えると、あさま山荘事件が起きたのが、この映画が公開される前の1972年。いわゆる、日本で勃発していた大学紛争みたいなものか?映画の中でもストライキの話が出ていたし。
映画の中でコンラッドは左翼とも言っていた。ブルジョアジーへの糾弾。
それなのに、ブルジョアから離れられないコンラッド。自分はペット扱いしかされないと言いながら。対等な関係になりたかったのは解るけれど、どんな対等?蛭のようにくっついて自分もブルジョアの仲間入り?
消費するだけで、愛すらも生み出さない。
そして隠し部屋。教授も、母のようにレジスタンスを庇護したつもり?
その時々を共有するだけで、そのことが終われば違う道をいく関係?ステイタスの共有?趣味の共有?
与えるものと与えられるもの。庇護するものと庇護されるもの。”対等”とは何なのか。
何をなし、何を残し、どのような時間を重ねていくのか?
人生の四季。
春の嵐の如く、奔放に若さを謳歌する三人。
夏の嵐の如くな激情を振りまく婦人。
実りの秋の如くな知識と趣味・調度類に囲まれて、豊かな時間を過ごすはずだった教授。
そして、冬が…。
そして、映画のキーワード『家族』。
家族の肖像画で埋め尽くされた家。家族もどき。たんなる”家族ごっこ”ではなく、監督ならではの想いが込められていそうな…。
監督の”遺作”と聞く。己の半生に寄せたとも。
意図して描かれたものだけでなく、意図しないものまでがにじみ出てきて…。
ネタバレになりそうなことを書き連ねても、この映画のことを理解したとは思えない。
一見理解しやすそうで、難解。
見直すたびに味わいが変わる。ふくよかな熟成されたお酒にたとえるべきか。
☆ ☆ ☆ ☆
≪蛇足≫
『蜘蛛女のキス』のDVDの解説で、
原作者がだったと思うが、モリーナの役に、ランカスター氏を希望していたと言っていたと記憶する。でも、断られて、ハート氏が演じることになったので、原作者がハート氏ではイメージが違うと怒ったとか。
ハート氏はカンヌやアカデミー賞で主演男優賞を受賞されるほどの名演なのだが、
『山猫』のランカスター氏ではモリーナのイメージではないが、この『家族の肖像』のランカスター氏を見ると、ランカスター氏のモリーナも観たくなる。
ハート氏とは違う、ゾクゾク来るような怪演が見られただろうな。
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孤独だが、好きな絵画に囲まれ読書しながら人生の晩年を過ごすのも悪くはないと思わせる主人公の生き方に共感を持ったが、これはヴィスコンティも思っていたのではないだろうか。
結局、侵入者によって別の方向に行ってしまうが、映画としては何か事件がなければ成立しないのでしかたがないか。
いずれにしても、われわれ一般人には高価な絵画を買えるわけではないので、関係ない話ではあったが、全体的にヴィスコンティらしく、格調の高さを感じる映画だった。
2021年3月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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日本でも公開当時は大ヒットだったそうだが、私にはもう一つ良さが分からなかった。
主人公はいつものバート・ランカスター。知的に一人暮らしを楽しむ老教授だ。(ヴィスコンティ監督の投影だと思う。)やりたい放題の若い住人達との出会いと別れが優雅なマンションを舞台に描かれる。住人の中で息子と認めるほど意気投合したのが、若きヘルムート・バーガーが演じる急左翼の青年。彼の美しい爆死。その悲劇的な死を追うように教授も死の床についてしまう。耽美な作品。
2021年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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初見では良く分からず、結局3回見て何となく分かった様な気にはなった。成る程、複雑だが非常に良く出来ているチャレンジングな映画だ。
まずは、上の階と下の階の内装の鮮やかな違いに目を奪われた。家族の肖像画にあふれるクラシックな部屋も良いが、それ以上に上の階の白中心のモダンな室内装が素晴らしい。そして、クラシックと対比しての若人達を象徴する今風の音楽も素晴らしい。その音楽の元に奏でらえる3名が絡む麻薬付きのセックスシーンの甘美な映像の見事さ。ため息が出てしまう。
どうやらこの映画、引きこもっている老人が、上階の人間達、右翼的貴族、左翼運動家、フリーセックス信奉娘、そして現実主義者、即ち現在イタリア社会との関わり方の物語の様に思われる。そこから逃げていた教授だが、最後の方では彼らと不器用ながら関わる様になり、本人が言う様に静かな死の世界から脱出しかけた。ただ、もう少しだけヒトの気持ちに応える積極性があれば、青年の爆死は防げたのに。現在社会と関われという監督の観客へのメッセージ性と自らへの決意の様なものを感じた。
そもそもこの教授、あまりに美しいドミニクサンダ母やベッドの側で泣き崩れ、側に居てと訴えかけるクラウディア・カルディアーナ妻の回想シーンから、マザー・コンプレックスで同性愛者か。なのに妻に浮気されて許さなかった輩、家族を夢見て自業自得で夢破れたヒストリーをイメージしてしまった。そう、教授はビスコンティ監督の分身。ただ、若く美しい男を追い求める伯爵夫人も、ヘルムート・バーガー演ずる芸術を嗜むインテリ左翼運動家も、そして娘の恋人で政府のスパイ?で現状肯定論者も、皆、監督の分身の様に思える。この映画は、監督自身を語った物語でも有る様である。
ただ、カメラの眼差しはヘルムート・バーガーに向けてあまりに熱い想いが満ち溢れている。執拗に彼の動き、話し、傷つけられ、血塗られた、そして爆死した様を執拗に舐める様に追いかける。そして、監督の分身、バート・ランカスター演ずる教授は傷ついた彼を抱き上げてベッドに運ぶ。娘役の女優さんも随分可愛いと思うのだが、カメラはそれを無視して彼の金髪、裸体に白ブリーフ姿、シャツ1枚の姿、さりげないが高価に見える衣装に包まれた姿を、有名監督が妻の女優の美しさを賛美するかの様に追いかける。まあ個人的には、彼がアランドロンだったら多少共感できたのにとも思うのだが。監督が自覚している以上かもしれないが、結局何よりもヘルムート・バーガーの妖しく脆い美しさを賛美するための映画になっている様である。
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