居酒屋(1956)

劇場公開日:1956年10月18日

解説

十九世紀フランス自然主義文学の巨匠エミール・ゾラの名作“居酒屋”を「首輪のない犬」のコンビ、ジャン・オーランシュとピエール・ボストが共同脚色し台詞も担当、「しのび逢い」以来のルネ・クレマンが監督に当る。撮影は「夜の騎士道」のロベール・ジュイヤール、音楽は「男の争い」のジョルジュ・オーリック。主演は「ナポレオン(1955)」のドイツ女優マリア・シェル、「オルフェ」のフランソワ・ペリエ。他に「犯罪河岸」のシュジ・ドレール、「快楽」のマチルド・カサドジュなど。

1956年製作/フランス
原題または英題:Gervaise
配給:東和
劇場公開日:1956年10月18日

あらすじ

今からおよそ百年前、パリの裏町。洗濯女のジェルヴェーズ(マリア・シェル)は十四の時、ランチェ(アルマン・メストラル)と一緒になり田舎から出て来たのだが、怠け者の上に漁色家のランチェは彼女が貯えた金を使い果しても働こうとしない。しかも彼はジェルヴェーズを正式に入籍しようとも考えない。八つと五つの子供迄あるのに。やがて共同洗濯場に子供等が、父親が向いの家の女と家出したと言ってくる。その女の妹ヴィルジニイが憎さげに笑ったためジェルヴェーズは彼女と大喧嘩。見事溜飲をさげたが何の甲斐もない。彼女はやがて屋根職人のクポー(フランソワ・ペリエ)と正式に結婚、口うるさい姉夫婦はいたが彼女は幸せそうだった。二人は一心に働きナナも生れた。やがて六百フランの貯えが出来て彼女の長年の夢洗濯屋を開く事になった。しかしその日、クポーが屋根から落ち、生命は取りとめたが貯えは使い果した。幸い彼女に好意を寄せる鍛治工のグジェ(ジャック・アルダン)がその金を用立ててくれた。彼女にはその傍にいるだけでも安らぎを覚えるグジェだった。洗濯屋は繁昌した。しかしクポーは屋根へ上る勇気を失い近くの居酒屋へ入りびたり、グジェに返す金まで飲んでしまうようになった。ジェルヴェーズも変った。彼女は自分の祝名祭に大宴会を思いたつ。招待客の中にはヴィルジニイもいた。彼女は仲直りを装って復讐を企てていた。宴会の半ば昔の男ランチェが通りがかったが、それも彼女指し金だった。ジェルヴェーズは彼の姿に息を呑んだが、クポーは彼を招じ入れ、あまつさえ妙な男気を出して自分達の隣室を提供した。唯一人彼女が信頼するグジェもストライキ運動をして一年の刑を受けた。支柱を失った思いの彼女は仕事もおろそかになってくる。夜はクポーの酒の匂いのしみ込んだベッドで寝る彼女。もう何もかも投げやりだった。或夜ランチェに誘い込まれても抵抗する気力すらなかった。グジェが出獄してきた。彼女は醜い関係を隠そうとしたが、心の片隅に残る純真さが嘘をつくことを許さなかった。絶望したグジェは彼女の上の男の子を連れて旅立った。ランチェがヴィルジニイと関係のある事を知るとそれでも彼女は最後の気力をふるい起そうとした。彼等の思う壺にはまって店を手放したくなかった。だがその時アルコール中毒の発作からクポーが、店を滅茶滅茶に壊してしまった。--やがて彼女の店の跡にはヴィルジニイが小綺麗な菓子屋を開いた。そしてお人好しの巡査の夫と、まとわりつくランチェ。クポーは死に、今は落ちぶれたジェルヴェーズは、かつての居酒屋で、酒にしびれる頭でグジェを思い起していた。そして垢にまみれたナナがちょこちょこ出入りしていた。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第29回 アカデミー賞(1957年)

ノミネート

外国語映画賞  

第17回 ベネチア国際映画祭(1956年)

受賞

ボルピ杯(最優秀女優賞) マリア・シェル
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映画レビュー

3.5自然主義文学!

2025年7月12日
Androidアプリから投稿

主人公ジェルヴェーズは、男を選ぶ目がないし、フラフラ誘惑され優柔不断な面だと思う。夫クポーは仕事を失い男としてのプライドを傷つけられてしまった。気の毒ではある。人間の弱さ、迷い、不運、社会制度、貧困、酒の力。いろいろな要因が重なり、悪循環へ、どん底へ。
よくも悪くも、このような、ある時代・ある環境下の人間のありさま、営みを、淡々と客観視できるところが自然主義文学の面白さだと思う。それを丁寧な映像で見せてくれるこの手のものは結構好きだ。

ところで…
ジェルヴェーズ役は魅力的だった。可憐な彼女のクローズアップはインパクトが大きい。つい同情してしまうし、アドバイスもしたくなる。しかし…感情移入するということは、淡々と観る、という姿勢からは、ずれていくと思う。インパクトが大きい分、どこに鑑賞の軸足をおいたらよいか戸惑が生まれる。その点、少し中途半端に感じる面はあった。

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あまおと

4.0破滅的な結末

2024年12月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

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mitty

4.0エミール・ゾラの自然主義文学の重厚で明快な映画化の、ルネ・クレマンの代表作の一本

2022年5月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、TV地上波

「禁じられた遊び」一作によって映画史上に名を遺すであろうルネ・クレマンは、「雨の訪問者」以降娯楽サスペンスものに作風が変化していった。初期のドキュメンタリー映画から出発したクレマンには、一貫した作風が感じられないし、特にこの様な文芸映画の成功作を観ると、この時の演出力と創造性は何処へ行ってしまったのかと惜しまれる。自然主義文学のエミール・ゾラの代表作『居酒屋』を高度な映画芸術に成し遂げた成果は、名作小説の映画化が困難である通説を思うと貴重であると思う。ジョン・フォードの「怒りの葡萄」やルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す」と、成功例は少ない。
クレマンの演出は、原作のパリの下町の市井の生活描写を的確に再現し、ロベール・ジュイヤールの撮影は役者の演技を追うよにカットを少なく移動させている。それでいて混乱した経済状態の中の労働者階級の悲惨な生活を細微に至り描き、緻密な映像作りが成されていた。これが、この作品を人生ドラマとしての重厚さと明快さ併せ持った秀作に仕上げた最大要因である。そして、興味深いことは、主人公ジェルヴェーズを客観視する原作の冷静さを、クレマンの通俗的な社会生活志向によって楽しく観られることだ。冒頭の夫の浮気相手の姉と大喧嘩するシーンを盛大に撮ったり、クポーとの幸せに満ちた結婚式の場面では、仲間たちとルーブル美術館を見学するのをユーモラスに描いて、ジェルヴェーズ主催のパーティーでは、人々の食欲旺盛な人間の本能を晒し見せる演出と、クレマン監督らしい面白さであった。
物語は、男運に恵まれない女性ジェルヴェーズの悲運を追いながら、その子供たちの置かれた境遇を暗示させる。貧しさが連鎖する社会を問題視する、作家の視点がここにある。たった一人の善良な男グジェは、ストライキ運動をする社会派の理想主義者として現れ、ジェルヴェーズを助け、彼女の長男を引き取り去っていく。唯一救われるシーンだ。そして、ラストシーンを締めくくる少女ナナの、どうなるか分からない未来で映画は終わる。「禁じられた遊び」の雑踏の中に消えゆくポーレットの描写と似て、これは印象的な終わり方であった。
1852年から60年にかけての、日本では幕末の時代のフランス・パリの社会状況を映し出した演出と、当時のある女性の生き様を切なくも力強く演じたマリア・シェルの名演が素晴らしい。ゾラの自然主義文学の特徴を映画で実感できる、貴重な文芸映画の秀作である。

  1978年 6月12日  フィルムセンター

ルネ・クレマン監督は、「禁じられた遊び」「居酒屋」「太陽がいっぱい」の三作品が代表作に挙げられるだろう。初期の「鉄路の斗い」「海の牙」「鉄格子の彼方」が未見のままで、残念ながら今日まで来てしまった。他に「生きる歓び」「パリは燃えているか」「雨の訪問者」が佳作として印象に残る。「危険がいっぱい」「パリは霧にぬれて」には、今一つの感想を持った。晩年は商業映画に特化した傾向が強く、いくら過去に名作を生み出しても採算が合わない題材には挑戦できなかったのではないかと想像する。映画監督の宿命の一つを象徴していると思う。

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Gustav

3.0洗濯女、ジェルヴェーズ、三人の男、一人の悪女と物語を紡ぐ。

2021年6月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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葵須