アレクサンドル・ネフスキー

劇場公開日:

解説

十三世紀のロシアに実在した名将アレクサンドル・ネフスキーが、西方から侵入したゲルマン軍をうちやぶって祖国の危機を救ったという故事を、製作当時西側からソビエトに重圧を加えていたナチをゲルマンになぞらえて描いたともいわれる歴史映画。「戦艦ポチョムキン」のセルゲイ・M・エイゼンシュテインが「ベルリン陥落」のピョートル・A・パブレンコと共同で脚本をかき、エイゼンシュテインが監督している。撮影はエイゼンシュテインの全作品を担当しているエドゥアルド・ティッセ。エイゼンシュテインはセルゲイ・プロコフィエフに音楽を依頼して画面と音楽との有機的な関連における新しいモンタージュを試みている。出演は「ドン・キホーテ(1957)」のニコライ・チェルカーソフ、「十月のレーニン」のオフロプコフ、「ゴーリキーの幼年時代」のマサリチノーワなど。一九四一年第一回スターリン賞の第一賞を、監督エイゼンシュテイン、脚本パブレンコ、俳優アブリコーソフがそれぞれうけている。A・T・Gの第八回上映作品である。

1938年製作/112分/ソ連
原題または英題:Alexander Nevsky
配給:東和
劇場公開日:1962年12月29日

ストーリー

広大な国土と豊富な資源に恵まれているロシアは、東方からは蒙古、西方からは北欧諸民族の征服の野望の的となっていた。一二四〇年、スウェーデン軍はロシア侵攻を開始したが、ノブゴロド公アレクサンドル・ヤロスラーウィッチ(ニコライ・チェルカーソフ)は、ネバ河畔に敵の大群を迎え撃ち、激戦の後にこれを粉砕して祖国防衛の勇名を内外に轟かせたので、ネバ河の名をとったネフスキーの称号を与えられた。ロシアには平和が甦ったがネフスキーはノブゴロドの貴族たちと相いれず、町を去ってプレシチェボ湖畔に居を構えて海外との交易による祖国の繁栄を夢みていた。その頃、東方の強敵ゲルマンは戦勝を祈願する僧侶の一団とともに強力な大軍を率いてロシア進攻を開始した。プスコフの町はゲルマン軍の手におちた。祖国を憂える人々は勇将ネフスキー公を指揮官に迎えて決戦に臨み、ゲルマン軍との取引に私利を貪ろうとする商人は戦に反対した。町の広場に激論が果しなく続いたが、愛国の戦士ダマシたちの情熱が商人達の計算にうちかった。烈々たる闘志に動かされたネフスキー公は立ち上った。農民達は手に手に武器をとり、公の両腕ともいえるブスライ(ニコライ・T・オフロプコフ)とガブリロ、二人のうち大きい武勲をたてた方の妻になるという美しい娘オリガ、老武器商イグナート、司令官の父を失った娘ワシリサなども参加した。一二四二年四月五日、一面の氷に覆れているチュドスコエ湖を決戦場に定め、ネフスキー公の率いる主力部隊とガブリロの率いる左翼隊とが一気に左右からの包囲攻撃を開始した。奇襲に不意をつかれたゲルマン軍はみるみる戦力を乱した。ネフスキー公はゲルマンの司令官に一騎打を挑み、壮烈な馬上戦の後、凱歌はネフスキー公に上った。ゲルマン軍司令官は捕虜になった。将を失い、敗走するゲルマン軍の行手には恐しい氷の割目が待っていた。しかしネフスキー軍にも損害は多かった。公は戦に加わった人々の功績を讃え、人々は戦勝の喜びにひたった。オリガはネフスキー公の断によってガブリロに嫁ぐことになった。よりそう二人に、人々は拍手をおくった。つづいてネフスキー公の力強い言葉が兵士に贈られる。「故郷に帰ったならば伝えよ、ロシアは甦った。恐れず、訪れよと。ただし、剣を手にとる者は剣によって滅びる。ロシアは永遠にこの信念を変えることはない……」

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映画レビュー

4.0トーキー映画の斬新且つ無謀な表現に挑戦したエイゼンシュテインの威厳

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

エイゼンシュテインはその完璧主義の映画作家としてチャップリンと共に歴史的巨匠に位置付けられるが、これは凡そ映画制作側の見解である。一般的には余り知られていない巨匠の一人ではないだろうか。勿論、代表作「戦艦ポチョムキン」は、サイレント映画の最高峰の名作であり、そのモンタージュ理論の具現成果のスペクタクルは、だれの目にも明らかである。しかし、観客との関係性では、通俗的な感動と云うものが生まれにくいのも否定できない。それは、映像芸術の表現技巧の完成度を優先させて、ドラマ的な情緒を犠牲にしたかのような冷たさが感じられるからである。チャップリンが人生ドラマと社会批評で観衆との接点を重視した立場とは、対極にあるといってもいい。また、ソビエト社会主義国家の下での映画制作の制約は、自由な民主国家アメリカなどと比較して推し量れないものがあったと思われる。エイゼンシュテインでは、「戦艦ポチョムキン」と「ストライキ」の併せて3作品しか鑑賞していないが、この天才が自由に作品を製作することが出来ていたら、恐ろしいまでの名作がもっとこの世に誕生していたことだろう。
「アレクサンドル・ネフスキー」は、13世紀において、西方のゲルマン軍の侵略に対し最後まで諦めず全力を尽くしてロシアを救った民族的英雄ネフスキーの活躍を描いている。氷上での大戦闘場面をクライマックスに、その前後にロシア民族の純朴且つ愛国的精神を讃えたソビエト映画に仕上がっている。建前上祖国愛を鼓舞する国策映画の外装を持つが、エイゼンシュテインは、その戦闘場面に斬新で実験的な挑戦を行い、見事に貫徹している。画面の構図のアウトラインと音楽のメロディーラインをシンクロさせるという、余りにも画期的で無謀とも思えるものを、大作曲家セルゲイ・プロコフィエフとの共作によって遣り遂げている。その表現の徹底振りが、内容とはかけ離れたところでのエイゼンシュテインの野望であり、映画監督の自己証明になっている。何という映画愛であろう。物語の内容には感心しないが、トーキー映画の唯一無二の表現法の挑戦には感動してしまった。映画の新たな可能性に挑戦した実験映画の威厳に敬服せざるを得ない。
  1979年 6月13日  フィルムセンター

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Gustav

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