劇場公開日 1962年12月29日

アレクサンドル・ネフスキーのレビュー・感想・評価

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4.0トーキー映画の斬新且つ無謀な表現に挑戦したエイゼンシュテインの威厳

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

エイゼンシュテインはその完璧主義の映画作家としてチャップリンと共に歴史的巨匠に位置付けられるが、これは凡そ映画制作側の見解である。一般的には余り知られていない巨匠の一人ではないだろうか。勿論、代表作「戦艦ポチョムキン」は、サイレント映画の最高峰の名作であり、そのモンタージュ理論の具現成果のスペクタクルは、だれの目にも明らかである。しかし、観客との関係性では、通俗的な感動と云うものが生まれにくいのも否定できない。それは、映像芸術の表現技巧の完成度を優先させて、ドラマ的な情緒を犠牲にしたかのような冷たさが感じられるからである。チャップリンが人生ドラマと社会批評で観衆との接点を重視した立場とは、対極にあるといってもいい。また、ソビエト社会主義国家の下での映画制作の制約は、自由な民主国家アメリカなどと比較して推し量れないものがあったと思われる。エイゼンシュテインでは、「戦艦ポチョムキン」と「ストライキ」の併せて3作品しか鑑賞していないが、この天才が自由に作品を製作することが出来ていたら、恐ろしいまでの名作がもっとこの世に誕生していたことだろう。
「アレクサンドル・ネフスキー」は、13世紀において、西方のゲルマン軍の侵略に対し最後まで諦めず全力を尽くしてロシアを救った民族的英雄ネフスキーの活躍を描いている。氷上での大戦闘場面をクライマックスに、その前後にロシア民族の純朴且つ愛国的精神を讃えたソビエト映画に仕上がっている。建前上祖国愛を鼓舞する国策映画の外装を持つが、エイゼンシュテインは、その戦闘場面に斬新で実験的な挑戦を行い、見事に貫徹している。画面の構図のアウトラインと音楽のメロディーラインをシンクロさせるという、余りにも画期的で無謀とも思えるものを、大作曲家セルゲイ・プロコフィエフとの共作によって遣り遂げている。その表現の徹底振りが、内容とはかけ離れたところでのエイゼンシュテインの野望であり、映画監督の自己証明になっている。何という映画愛であろう。物語の内容には感心しないが、トーキー映画の唯一無二の表現法の挑戦には感動してしまった。映画の新たな可能性に挑戦した実験映画の威厳に敬服せざるを得ない。
  1979年 6月13日  フィルムセンター

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Gustav