「恋をしたくなる。旅をしたくなる。」或る夜の出来事(1934) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
恋をしたくなる。旅をしたくなる。
満ち足りた余韻を残すデザートのよう。
まるで、時間が経つほどに豊かな味わいが広がるチョコレート。
ビターな味わい、ピリリとした味わい、ざらつく食感、はじける食感、そして最後は程よい甘さ。
深窓の令嬢と新聞記者ときたら『ローマの休日』?と思ったら、こちらが元ネタだった。
しかも美しくまとめられた『ローマの休日』に比べて、こちらはパンチが効いている。
『風と共に去りぬ』で有名なゲーブル氏。『風と共に去りぬ』はいくつかのシーンは見たことがあるけれど、まだ通しで見たことがない。
意外にも、ゲーブル氏初見だった。
格好いい。どことなく、若い頃の三國連太郎氏を思い出す。でも、格好いいだけではない。生活力のある優しさを振りまく。あんな瞳で見つめられたら、彼に恋しない女子はいないんじゃないか。
それでいてお茶目。運転しながら、有頂天になっている様。その後の顛末を知っているからこそ?おかしくて切なくておかしくてたまらない。
こんなコメディタッチの演技もなさるんだ。
ゲーブル氏の幅の広さを堪能した。
相手役のコルベールさん。
高慢ちきな令嬢の顔をするかと思えば、勝気な表情、初めての経験に戸惑い、はしゃぐ姿、次第にピーターを信頼し、心を寄せていく姿…、失望した様子。そして人参をかじる様子がかわいらしい。
エリーの成長譚でもある。
お父さんが、エリーの結婚に反対したところから物語が始まる。
うん、二人が結婚したら、誰が稼ぐんだろう。あっという間に財産食いつぶしそうだ。そりゃ、反対するよなあと思うけれど、過干渉に嫌気がさしていたエリーには、お父さんの真意は伝わらない。
家出するエリー。恋人の元へ。
その道中で知り合う二人。
出会いが見事。道連れとしてのエピソードが見事。
本来なら大金持ちのエリー。問題にぶつかってもお金で解決!のはずだった。たんにバスに乗っていれば、バスが恋人のいる街に連れて行ってくれるはずだった。
けれど、物語はそう簡単には進まない。
賞金をかけられた逃走劇。追っ手をどうかわすか。しかも、さまざまな出来事に遭遇し、所持していたお金を失い、無一文でどう旅を続けるか…。
そんな中で、エリーはスクープ狙いのピーターを煙たがりながら、顎で使いながら、頼りにしながら…。
ピーターの方も、行動はエリー・ファーストでいながらも、言いたい放題、口八丁。
共に旅を続けていくが、素直じゃない二人。
この二人のかけあいにどんどん引き込まれていく。
どうなる?どうする?
ロードムービーとはいえ、基本長距離バスがメインなので、そう風景が変わるわけではないのだが、テンポよく進んでいく。
旅する楽しさまで味わえる。
そして、無事エリーが恋人の元にたどり着いて「めでたし、めでたし」では終わらない。
さあ、どうなる?どうする?
恋人に再会してからが、一番、ハラハラドキドキさせる展開…。
そして…。
筋は多少、ご都合主義なところもある。
あと、(字幕日本語訳で)お父さんの言う「お前には殴ってくれる人が必要だ」は言葉のままでとると、時代とはいえ、ブーイングもの。ここの意は「お前には、(太鼓持ちではなく)叱ってくれる人が必要だ」ということだろうと解釈。
低予算、かつコルベールさんのスケジュールの都合で撮影期間が4週間しかなかったとDVDの特典で知った。
だから、セットを作っている暇がなくて、ロケを多用。コルベールさんの衣装も3着とか、かなり工夫しているらしい。。
それでも、こんなに粋な映画ってできるんだ。
ふさぎこんだ心も愉快になれる映画です。