ラスト・キャバレー

劇場公開日:

解説

都市開発のため経営不振に陥ったキャバレーを舞台に、経営の父親の苦悩と娘の自立を描く。脚本はじんのひろあきが執筆。監督は「1999年の夏休み」の金子修介、撮影は同作の高間賢治がそれぞれ担当。

1988年製作/78分/日本
配給:にっかつ
劇場公開日:1988年4月23日

ストーリー

“ローズ”は個人経営のキャバレーで、経営者の柊信太郎は高校生になる娘の逢維子と二人暮らしだった。しかし、最近は景気が悪く、また都市再開発の波に押されて近々店は明け渡すことになっていた。だが、今日の“ローズ”は超満員。信太郎は年に一回、ある大学テニス部の新歓コンパに店を開放していたのだ。幹事は上級生の土橋龍矢で、店内では最近入ったホステスの未也子が男子学生にフィンガー・サービスを行っていた。翌日、逢維子は今度引っ越す予定のマンションを訪ねた。いよいよ父と別れ、一人暮らしが始まるのだ。淋しくもあるが、父は一人になりたいようだった。しかし、近頃“ローズ”は活気を取り戻しつつあった。未也子の過激なサービスと女子大生のアルバイトが増えたためである。逢維子がマンションに引っ越した日、龍矢が訪ねてきた。二人は最近つき合い始めたのだ。信太郎は“ローズ”の最終日に“さよならパーティ”を企画していた。そして、かつて“ローズ”で働いてくれたホステスも招待するつもりだった。中でも特別長く働いてくれたホステスには挨拶を兼て、直接訪ねることにしていた。逢維子と篭矢も手伝うことにし、最初に世田谷の高級住宅街に住む椎名真理子を訪ねた。彼女は父・信太郎が大変モテていたことを教えてくれた。逢維子は父親が今つき合っている相手を知りたかったのだが、それについてはよくわからなかった。次に訪ねた令子も同じような態度だった。最後のホステスを訪ねようとしたところ父が待っていた。その晩は親子二人で久しぶりに話し込んだ。“さよならパーティ”は元ホステスの他、大学生に一般招待客まで混じって盛況だった。しかし、パーティが佳境に入ったころ信太郎は娘に別れを告げ、こっそりと店を出た。また、未也子は田舎の保母の見習いになるために帰っていった。逢維子が店長室で一人履歴書や葉書きを燃やしていたら、天井のスプリンクラーが作動し、店内には雨が降り注いだようになった。そこへ龍矢が入ってきて、二人はごく自然に抱き合った。逢維子と龍矢がフロアに戻ると、誰もいない店内には、まだ雨が降り続いていた。

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映画レビュー

5.0きめ細かく丁寧な脚本と演出に脱帽。感動しました。山田イズムは継承されることでしょう。

2013年2月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 近年犬と少女や子供が絡む映画が量産されてきました。テレビでもかわいい動物が出ているだけで視聴率が稼げるというジンクスがありますが、映画でも犬が写っているだけでそこそこ興行動員が取れるという思い込みがあったのでしょう。だからまたかという人が多いでしょう。
 しかし、しかしご注目。たかが保健所のスタッフが1組の捕まえてきた野犬の親子の里親捜しに奮闘するという、どこにでもありそうなお話しを、見事に伏線を張り巡らして、感動的な作品に仕上げてしまったのです。何よりも脚本がいいのです。アラがなく、緻密。そして演出もとても丁寧なんですね。感情の盛り上げ方がとても自然で、チョットした登場人物の仕草や表情の変化に泣かされてしまいました。さすがに長年、山田監督の左腕として鍛えられてきた平松恵美子監督の手腕を、存分に感じさせてくれる佳作でした。
 最初イヌ映画になんで堺雅人が主演するのが疑問でした。彼は脚本を選ぶ、こだわりの強い俳優です。でも平松監督の書いたこの脚本なら、きっと主演を即答したのも頷けると納得できました。

 何よりも、もうひとりの主役である母犬の名演なんです。脚本のヤマ場にどんぴしゃりの表情で怒り、泣き、安堵の表情を浮かべるこの母犬のカットを撮るため、どれぐらい忍耐をもって撮影に臨んだか、脱帽ものですね。

 さて、本作は全体に関わる伏線として、二つのプロローグを用意してました。
 一つは、主人公の彰司とやがて妻になる千夏が、まだ結婚前に同僚として動物園の飼育係として働く姿に触れています。このシーンでは、ふたりがどれだけ動物好きか、印象づけられました。特に千夏がモットーにしていた、動物たちの生きてきた生い立ちに思いを寄せて、理解してあげることで、心の友になれるというポリシーは、夫となる彰司の心の奥深くまで引き継がれて、野犬と化した母犬の心を開くキーポイントとなったのでした。
 もう一つのプロローグは、母犬が飼い主と引き裂かれて、野犬となるまでの経緯が描かれます。台詞のないこのシーンは、『HACHI 約束の犬』の後半シーンに似ていました。とにかく誕生からずっと、農家の老夫婦にいかに愛されてきたか。その暖かい交情のシーンを見せ付けられるだけで、目頭が熱くなるほどでした。
 しかし、お婆さんが死んで、お爺さんも老人ホームに入居することになって、大好きだった飼い主と母犬は、引き裂かれることに。お爺さんを乗せた車を必死で追いかける母犬でしたが、追いつけず、やっとの思いで元の家に辿りついたら、解体工事の真っ最中。母犬は放浪の野犬となったのでした。
 何気ないエピソードですが、お爺さんがエサとして魚肉ソーセージを母犬にあげたことや、別れの時涙をこぼしたことが、野犬となった母犬に人間から受けた恐怖よりも、愛を思い出させる重要な伏線となっていくシーンに後半すごく感動したのです。
 そして何よりも、この老夫婦にたっぷりの愛情を注がれたシーンが冒頭描かれたことで、母犬が、子犬に近づく人間に必死に牙を剥く、異常と思えるほど強い母性を持たせたのでした。

 この母犬の強い母性は、彰司の長女里美の心を動かす伏線に繋がっていきます。幼い頃交通事故で母の千夏と生き別れた里美は、絶対に母子共々はなればれにしないで助けてあげてと、父である彰司にせがみます。
 母犬の名前が「ひまわり」に決まったのも、母親の名前の「千夏」の夏と動物への太陽のような愛情から。それくらい、里美の母親への思いは強かったのです。
 この母親を失った喪失感と、親犬の強い母性が全編を貫いて、処分期限日までの奇蹟の7日間の物語が活き活きと現実感を感じさせてくれたのです。
 何しろ舞台となる宮崎県の保健所で、年間4000頭も処分される犬の中で、そのうちのたった一組の母子犬になぜスポットが当てられるのか理由付けが、見事にクリアーされたのです。
 保健所に持ち込まれた犬は、ペットフードの予算の関係から僅か7日間のうち里親が見つからなければ処分されてしまいます。そのため上司の目を盗んでは保護日を延長して物議を醸し出してきた彰司でした、今回は、里美との約束を果たすため、進退を賭けて自分の母子犬の処分日を担当月の月末ギリギリに独断で伸ばしたのでした。それでも残り7日間、最終日まで里親が決まらず、苦悩しながら処分の準備を始めだす彰司。ギリギリまで母子犬の結末が分からない演出には、思わずドキドキしました。

 この物語のもう一面は、父と娘が、断絶から心を通い合わせる、子育て奮闘記でもあります。母親を失って、どう子供たちに向き合っていいか分からぬ彰司に、難題が持ち上がります。これまで明かしてこなかった父の仕事の内容を里美に説明しなくてはいけなくなったのです。ここでも軟弱な小市民ぶりを堺雅人が熱演。必死で遠巻きに保健所の仕事を説明しようとするところが涙ぐましいのです(>_<)
 しかし、カワイイ子犬まで殺してしまうなんて、お父さん酷い、嘘つき!里美は拒絶。それから少しずつ父親の現場を見せたり、母子犬を一生懸命助けようと奮闘する姿に打たれて、少しずつ心を開いていきます。里美が彰司と和解するシーンでは、良かったねと心が暖かくなりました。

 また一番の見どころは、彰司と母犬が心を通わせるシーンです。
 彰司が母犬の生い立ちを想像するシーンで、母犬が人間たちから虐待されて、人間はすっかり怖い生き物として恐怖するまでが描かれていきます。しかし近づく人間には噛みつく凶暴な野犬のままでは、保健所の責任問題となるので、どこにも里親に出せず、処分するほかありませんでした。それでもこの母犬は、かつては人間愛されていた飼い犬だったことを確信した彰司は、犬舎に泊まり込んで、母犬に必死で怖いないよと話しかけるのです。繰り返しになりますが、あることで母犬と心が通じるシーンは、大変感動的で、千夏の動物と心の友になることの素晴らしさがしみじみ伝わってきました。

 ところでオードリー若林は、映画初出演とは思えない演じっぷり。普段とは逆のキレ役で、二言目には腰掛けだの俺には向いてない仕事だのヘタレぶりを発揮します。、これだけだと春日のほうが合っているように思われるかもしれませんが、最後には地の人の良さが滲み出る良い奴ぶりを見せ付けてくれました。野犬狩りのシーンでは。見事に何度もずっこけて笑いをもぎ取っていくところは、さすが芸人ですね。子供たちが爆笑していました。

 そして、何と言っても堺雅人の心のこもった演技が今回も良いですね。動物を愛し止まないのに、殺さなくてはいけない現実に悩みつつ、自分の仕事と父親としての自信を取り戻していく過程を、等身大の身近さで演じてくれました。

 最後に、現在でも年間20万頭もの犬が人間の身勝手さから処分されています。さらにネコの処分数も加わります。本作でもそんな身勝手さがサラリと描かれます。この映画をご覧になった人からひとりでも多く里親になってあげられる人が出てくることを祈るのばかりです。

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