ゆきゆきて、神軍

劇場公開日:

ゆきゆきて、神軍

解説

ドキュメンタリー映画監督の原一男が、過激な手段で戦争責任を追及し続けるアナーキスト・奥崎謙三の活動を追った傑作ドキュメンタリー。神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、自らを「神軍平等兵」と名乗り、「神軍」の旗たなびく車に乗って日本列島を疾駆する。ある日、自身がかつて所属していた独立工兵第36連隊で、終戦後23日も経ってから敵前逃亡の罪で2人の兵士が処刑されていたことを知った奥崎は、その遺族らとともに真相究明に乗り出す。時には暴力も辞さない奥崎の執拗な追及により、元兵士たちの口から事件の驚くべき真実と戦争の実態が明かされていく。1987年の初公開時は単館上映ながら大ヒットを記録。第37回ベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞を受賞するなど、国内外で高く評価された。戦後75年、奥崎謙三生誕100周年となる2020年の8月、全国のミニシアターでリバイバル公開。

1987年製作/122分/日本
配給:疾走プロダクション
劇場公開日:2020年8月14日

その他の公開日:1987年8月1日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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映画レビュー

4.0振りかざす正義と執着。

2024年11月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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すっかん

4.5今年の、敗戦記念日の前日に劇場公開された。

2020年8月20日
PCから投稿

初公開が1987年8月1日。33年の歳月が経った。さらに言えば、奥崎謙三が生まれて100年だという。そもそも題材になっているのが75年前に終わった太平洋戦争で起きた戦争犯罪(決してそれだけはないが)であり、なんなら歴史の彼方に感じる世代もいるだろう。

これを書いている自分も、映画が公開された時はまだ15歳で、正直、存在にすら気づいていなかった。成人してから後追いで観て、例にもれず衝撃を受け、その後、機会があれば観直している。実際、何度も劇場公開されているし、数年に一度は話題にものぼる。ドキュメンタリー映画としは屈指の人気作と言っていい。

そして、今観てもやはり強烈であり、色褪せていないのは、未だにこの映画(と奥崎謙三という人物)が理解を受け付けないようなカオスの塊だからではないか。醜い戦争の実態や、許されざる戦争犯罪を暴いてはいるが、正義や正しさのものさしでは決して計れない。そして奥崎が突きつける日本の矛盾は、今もわれわれに取り憑いたままなのだと思う。

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村山章

4.5神軍と皇軍

2024年1月21日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

怖い

知的

かつての上官宅にアポも取らずにカメラマンを従えて強引に押しかけ話を聞こうとするその姿にマイケル・ムーアも影響を受けたとか受けないとか。

トヨタマークⅡの屋根にその車体と同じ大きさの看板を掲げ、その看板や車体には物騒な文言がびっしりと並ぶ。見るからに物々しい雰囲気を醸し出す男、奥崎謙三。

これは彼が神軍平等兵として闘う活動の日々を追ったドキュメンタリー。その経歴はすさまじく、また一見その強面から近寄りがたい。しかし話してみると意外にも礼儀正しい、かと思えば突然激高して暴力をふるう。いったい何なんだこの男は、アナーキストとはいえ自分の感情をコントロールできないのか。いったい彼の行動原理はなんなのだろうか。作品を見るうちにそれが紐解かれていく。

飢餓地獄といわれたパプアニューギニア戦線から生き残り、戦後を生きてきた奥崎。彼もほかの帰還兵同様平和な日本で残りの人生を送るはずだった。しかし彼が三十代のころ賃貸人とのトラブルで相手を死なせてしまう。
十年以上の刑務所暮らしで彼は自分の身の上について考えた。なぜ自分はこのようになってしまったのか。大抵の人間なら自分の激高しやすい性格、暴力を反省して生まれ変わろうとするだろう。しかし彼は違った。これは天罰なのだと、先の戦争で偽りの神である天皇に仕え愚かな戦争に加担してしまった自分に天罰が下ったのだと彼は考えた。
そして自分に戦争をさせた天皇を憎み、彼は天皇に対抗する神を作り出す。どの宗教にも属さない自分だけの神を。その神に仕える神軍平等兵として彼が生まれ変わる瞬間だった。

天皇が支配する国家やその国家が作った法律には縛られない、神の法にだけ従う。国家や家制度を破壊するのが彼の使命となった。そこから彼のアナーキストとしての活動が始まる。天皇にパチンコ玉を打ち込み、ビルの屋上から天皇ポルノビラを撒く。そして今の彼の目下の活動は終戦直後に行われた戦争犯罪を暴くことだった。

終戦が知らされたにもかかわらず敵前逃亡という名目で兵士二名が処刑された。その事の真相を明らかにするために彼はカメラマンを従えてかかわった人間たちの家に事前にアポも取らずに押しかける。
突然来られた人間にしてみれば迷惑な話であり、戸惑うのは当然。しかし奥崎はそんな相手に対して態度が悪いとつかみかかる。
自分の行いは神の法による行い、人間が決めた法には縛られない。正しいことを実現するための暴力は正当化されるというのが彼の理屈だ。
かつて天皇の名のもとに暴力を強いられた奥崎、今は自分が信じる神の名の下に暴力をふるい続ける。

彼は言う。かつての許されない戦争にかかわった自分たちには天罰が下った。だから我々はあの戦争について口をつぐんではいけないのだと。多くの人間があの悲惨な戦争を忘れようとつとめてきた。そんな気持ちなどお構いなしに奥崎は人々の心の傷のかさぶたを無理やり引っぺがそうとする。

そんな中で明らかになる衝撃的事実、旧日本軍による人肉食の事実が。補給路を断たれて飢餓状態にまで陥った日本軍が現地の原住民や捕虜を食料として食べていた。ここから本作のもう一つのテーマが描かれる。旧日本軍の罪が。

父島事件をはじめとする旧日本軍の当時の蛮行はよく知られているところではあるが、当事者の口から直接聞くと実に生々しい。
当時パプアニューギニアではソンミ村虐殺に匹敵するティンブンケ事件があったのは有名だが、その周辺の村でも同様のまさに地獄絵図といえるような蛮行が繰り返されてきた。
本作で語られる当事者の言葉がその事実をまさに裏付けている。くろんぼう(原住民)の肉は食べてもいい、しろんぼう(オーストラリア人捕虜)の肉は食べるなと言われたという当事者の証言は戦時中の事実をつまびらかにした資料としても非常に価値がある。
奥崎健三というアナーキストを追うドキュメントが結果的にもう一つの歴史的事実をあらわにした。

そして本作は衝撃的な結末を映し出す。もう十年独房生活を覚悟しているという奥崎の言葉通り、処刑を首謀したかつての上官宅で発砲事件を起こすのだ。

彼のエキセントリックな行動はいったいなんだったのだろうか。権威に抗い、天皇や国家を憎む気持ちはわかる。過激な行動で注目され、先生と持ち上げられて調子に乗っていたところもあったのかもしれない。しかし彼の根底にあったのはやはりあの悲惨な戦争体験だったのだろう。
彼は彼なりにあの戦争に対して落とし前をつけようとしていたのではないだろうか。多くの人間があの戦争はなんだったのか納得できてないはず。しかし張本人の国は先の戦争の総括はせず、何も教えてはくれない。戦争体験者たちは自分たちで自分たちなりにあの戦争に対して落とし前をつけなければならなかった。

あるものは無理矢理つらい記憶を忘れ去ろうとして、あるものは趣味や好きなことに没頭して、どうにか自分の中で落としどころを見つけようとしていた。しかし、奥崎は違った。もしかすると彼の中ではまだあの戦争は終わってないのかもしれない、あるいは皇軍として無理矢理戦わさせられた過去を否定し神軍として生まれ変わり新たな戦争をたった一人で続けていたのかもしれない。

破天荒な行動や映画出演などでしばらくは話題になった彼もやがては人々から忘れ去られてゆく。しかしそんなことは彼にはどうでもいいことなのかもしれない。彼なりにあの戦争に対する落とし前がつけられれば。

本作は一見すると奥崎謙三というエキセントリックなキャラクターに目を奪われるが、その実、先の戦争の呪縛に苦しめられる戦争体験者たちの悲痛な思いがつづられた良質なドキュメンタリーだった。

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レント

0.5あのナチスドイツでも『○○』を食べたと言う記録が無い。自虐的亡国論であって貰いたい。

2023年5月12日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
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マサシ