森の向う側

劇場公開日:1988年2月20日

解説

海辺のリゾートホテルで出逢った男と女の心の触れ合いを描く。村上春樹原作の短編小説「土の中の彼女の小さな犬」の映画化で、脚本は「ヤッピとワイズとゾーラの物語 グーッドグーッド」の中村努が執筆。監督はこれが第一回作品となる野村恵一、撮影は「待ち濡れた女」の安藤庄平がそれぞれ担当。

1988年製作/75分/日本
劇場公開日:1988年2月20日

あらすじ

Jは「森を探しに行く」と言って消息を絶った友人を探すため、シーズンオフの海辺のリゾートホテルへやって来た。彼は建築技師だが、実際の仕事は古くなったビルの爆破だった。そこでJは人生の思い出に浸る老夫婦と出逢う。老人は「雨の降る海岸で死んだ娘に会った」と妻に話している。雨はまったく止む気配もなく数日降り続いていた。ある朝Jは食堂で一人の若い女性客を見かけ、午後にホテルの図書室で再び顔を合わせた。そこには戦前から昭和20~30年代の古い本しかなかったので、Jは自分の読み終えたミステリーの文庫を彼女にプレゼントした。そして退屈しのぎにJは彼女と心理ゲームを始めた。ゲームを進めながらJは彼女がピアニストであることや、現在や過去のさまざまなことを当てていき、ついに“庭”という言葉に彼女の秘密が隠されていることを発見する。また、彼女には時々右手を眺める癖があることに気づいた。そのことを尋ねると、なぜか彼女の表情が変わった。2人は場所を食堂に移し、今度はJが森を探しに出かけた友人の話をした。部屋に戻ったJは、ジグソー・パズルをしながら東京に残してきたガール・フレンドのことを考えた。雨があがった日の夜、Jはホテルのプールサイドで再び彼女と会った。そして彼女は今まで誰にも話さなかった子供の頃の思い出を話し始めた。当時可愛がっていた小犬が死に、彼女はその死体をさまざまな思い出の品や預金通帳と一緒に木箱に入れて庭の片隅に埋めた。その時はとにかく悲しくて、何もかもいらないという気持ちから通帳まで入れてしまったのである。しかし、一年ほどたった17歳の時友人のためにお金が必要になり、木箱を掘り起こしたが、通帳には匂いが浸みついていて使い物にはならなかった。彼女はその時犬の死体を見て何の感情も持たなかったことに後ろめたさを感じているようだった。それから右の掌にも匂いが残って、いくら洗っても消えないという。Jは彼女の掌の匂いを臭がせてもらったが、石鹸の匂いがしただけだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0 雨天曇天

2025年9月30日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:その他

知的

癒される

残念ながら劇場公開とVHS化のみでDVD化や配信はされていない。

村上春樹の初期の短編小説『土の中の彼女の小さな犬』(短編集『中国行きのスロウ・ボート』収録)の映画化で、映画の存在はずいぶん前(といってもDVD時代への移行後)に知ったが、わざわざVHSを購入してまではなあ……と思って観てこなかった。でも村上春樹の映画化だし、そういやネットのVHSレンタルがあったなと思い出して、どうせDVD化されることもないだろうしとレンタルして観てみた。

正直出来のほうはあんまり期待してなかったんだが、予想外になかなか面白かった。原作の内容は全く忘れてたが、村上春樹の小説世界の雰囲気を非常に上手く再現していて、80年代アート系日本映画感も濃厚。そういう映画って僕はかなり好きだ。海岸のホテルで出会った男女が延々会話するだけの映画なんだが、75分という短さもあり全然退屈しなかった。流れるピアノ音楽もすごくいい。あえて難点を言えば主演のきたやまおさむって人が強面でいまいちイメージに合わなかったかな。本名は北山修といってミュージシャンなどの活動と共に精神科医・臨床心理学者をしてる人らしい。台詞運びも若干拙いが、その淡々とした感じはむしろ村上小説の登場人物に合ってたかも。もう1人の主演の一色彩子(現・一色采子)という女優さんはすごく良かった。ほとんど2人しか登場人物がいないからこの人の功績は大だろう。監督の野村恵一って人も全然知らなかったが、寡作ながらも結構作品を発表してた人でした。それにしてもずっと雨と曇りと夜のシーンばっかりの映画で(原作がそうだからだけど)、ホテルの一面が全面ガラス張りで雨がずっと打ち付けてるんだが、雨はホースとかで降らせたにしても、曇りの日ばかり選んで撮影したんだろうか? 僕は雨の映画も結構好き。実際の雨はあまり好きではないんだけど。

あんまり面白くて、観終わってから原作を読み返してもう1度観てしまった。多少原作とは変えられてたが、その変えられた部分もいかにも村上春樹っぽい。あるいは他の村上作品から引用してるのかもしれないけど。ま、とにかく面白かったです。

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