鉄道員(ぽっぽや) : 映画評論・批評
2020年12月22日更新
2020年11月6日よりT・ジョイPRINCE品川ほかにてロードショー
健さんと佐藤乙松の姿がどこまでもリンクする、詩情豊かな名作
名優・高倉健さんにとって「動乱」(1980)以来、19年ぶりとなる東映作品への出演となった「鉄道員(ぽっぽや)」。降旗康男監督、木村大作キャメラマン、そして主演が健さんとあっては、四の五の言わずとも良作であるとうかがい知ることが出来るが、今作は健さんと主人公・佐藤乙松の生きざまがどこまでもリンクする、奇跡的な逸品といえる。
廃線間近となった北海道・幌舞線の終着駅で駅長を務める乙松に訪れる、小さな奇跡を詩情豊かに描いている。当初、出演に乗り気でなかった健さんの心を動かしたのは、かつての仲間たちの姿だ。「網走番外地」シリーズなどで苦楽を共にしてきた製作陣が定年を迎えるにあたり、健さんとの仕事を熱望していると聞き、参加を決意。本編で、愚直なまでに鉄道員(ぽっぽや)一筋で生きてきた定年間近の乙松の姿は、今作をもって映画製作から離れる生粋の“活動屋”たちと被る。
乙松は、生後2カ月のひとり娘を亡くした日も、最愛の妻を病気で亡くした日も、休むことなくずっと駅に立ち続けた。健さんもまた、「あ・うん」撮影中に母親死去の報を受け、スタッフから帰郷をすすめられるが、それを断り撮影を続けている。病院に駆け付けたい思いを必死に抑えながら気丈に駅を守る乙松は、健さんそのものなのである。
そして、劇中で乙松の妻・静枝(大竹しのぶ)が口ずさんだのが「テネシーワルツ」。健さんのかつての妻である故江利チエミさんの代表曲として知られ、健さんにとっても特別な曲。「この曲を使うなら芝居できない」と渋る健さんを、降旗監督は「これが僕の、あるいは健さんの最後の作品になるかもしれない。だから個人的なことが入っていてもいいじゃないか。個人的であるがゆえ、余計にいいんじゃないか?」と説得したという。
北海道の厳しい自然と対峙しながら「テネシーワルツ」のメロディを耳にした健さん、否、乙松は何を思ったか……。そんなことに思いを巡らせながら、今一度鑑賞することをお薦めしたい。名作には、時代を超越した永遠の感動があることを改めて教えられた気がする。
(大塚史貴)