「戦争に翻弄された人々の物語」二百三高地 syu32さんの映画レビュー(感想・評価)
戦争に翻弄された人々の物語
DVDで鑑賞。
日露戦争の陸戦において最も過酷な戦闘となった旅順要塞(二百三高地)攻防戦を、迫力のスケールと豪華キャストを配して描いたスペクタクル超大作。
司馬遼太郎「坂の上の雲」を読破し、NHKのスペシャルドラマも観て、日露戦争に興味が出て来た頃、東宝の「日本海大海戦」と共に本作を知りました。
「坂の上の雲」でも旅順要塞や二百三高地攻略に関する記述は相当なボリュームが割かれているし、いかに苛烈で凄惨を極めた戦いだったかが窺えました。
本作もそれに負けず劣らず、乃木希典などの司令部、現場の兵士たち、その帰りを待つ人々の視点を交互に織り混ぜながら、この日露戦争での重大なターニングポイントとなった戦闘を描いていて心を揺さ振られました。
教科書通りの戦術セオリーに忠実に乗っ取って作戦を立案する伊知地参謀の意見を汲んで正面突撃を敢行するも、トーチカからの機銃掃射の雨あられを浴び、毎日多大な犠牲者が出てしまいました。苦悩する乃木ですが、要塞に正面突撃なんかしたらどうなるか、子供にも分かりそうなもの…。
起死回生の一手として“白襷隊”を組織し夜間の奇襲を行うも、一夜にして全滅してしまうという有名な悲劇も生んでしまいました。夜陰に隠れて攻撃するのは良いですが、白は闇の中に浮かび上がる色…格好の標的。起こるべくして起こった悲惨な出来事ではないかな、と…。
しかも、伊知地は榴弾砲の設置位置までも戦術の教科書通りに遂行しました。その結果、要塞がまさかの射程外で砲弾が届かないという情けない有り様を露呈してしまいました…。そんな為体でも、参謀の意見に従った乃木を司馬遼太郎は「無能な大将だ」と言わんばかりに糾弾していましたが、本作を観て、決してそういうわけでは無いのでは、と思いました。
司令官が参謀の立案する作戦にケチばかり付けていては士気に関わって来ますし、参謀は作戦立案のスペシャリストの立場であるため、その意見を取り入れるというのは司令官として正しい行いだったんじゃないかなぁ、と…。しかし、あまりにもあまりある場合はきちんと意見すべきだろうし、そこは乃木自身の性格が災いしたのかなと感じました。
旅順港閉塞作戦に失敗したことで、天然の良港である旅順港に隠れている旅順艦隊を叩くには、もはや二百三高地からの砲撃しか無い、と考える海軍からのプレッシャーもあり、乃木の苦悩は深まるばかり…。
現状を見かねた総司令官の児玉源太郎が、ついに旅順へとやって来ました。現場の司令官である乃木を飛び越えて直接戦闘の指揮を執り、榴弾砲の位置を前進させ砲撃を容赦無く加え、効率的な歩兵運用をした結果、何日掛けても落とせなかった二百三高地をあっという間に占領。「そこから旅順港は見えるか!?」「見えます!」のシーンに感動しました。
セオリーばかりに乗っ取っていてはダメだ、という教訓ですなぁ…。ときには型破りも必要なんだなぁ、と…。
しかし、このときの乃木の心中は如何ばかりか…。親友の児玉への感謝と共に、死んでいったふたりの息子や兵士たちのことを想い、有名な「爾霊山」の詩をしたためました…。
明治天皇に旅順攻撃の報告を上奏する際に流した涙が、彼の想いの全てを表しているようで、心が締め付けられました(実際には涙は流していないそうですが…)。
司令部の迷走の煽りを食らうのは、現場の兵士たち―。
あおい輝彦の部隊の群像が描かれました。屍山血河の過酷な戦場において、次々に戦友が散っていき、明日は我が身かと怯えながら、旅順の寒さに震える日々…。
日本で帰りを待っている愛する人々のため、彼らは戦い続けました。お国のため、という気持ちもあったのかもしれませんが、本当は国なんかより大切な人のことを守りたいというその一心だったのではないかなと思いました。
あおい輝彦の無事の帰り信じてを待つ夏目雅子がお美しい限り。懸命に留守を守る彼女の姿を観て、これもひとつの戦争だったんだなと思いました。
国体の全てを懸けて、ギリギリの状態で臨んでいた日露戦争―。その皺寄せは市井の生活に影響し、こっちもギリギリの状態だったのではないかなぁ、と…。
それでも耐えられたのは、愛する人が帰るべき場所を守りたいという強い想いがあったからかもしれないなと思うと、胸がジンと熱くなりました…。
【余談】
「防人の歌」がとても印象に残りました。まさに名曲…。