アメリカン・ヒストリーX : 映画評論・批評
2000年1月15日更新
2000年2月19日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー
「ファイト・クラブ」から+15kg、ノートンの鍛え上げた肉体を見よ!
すごい衝撃作。「ファイト・クラブ」も相当に衝撃的だったが、このパンチ力はそれ以上だ。テーマは「憎しみ」だからして、暗い。が、敬遠するなかれ。ここには「悲劇」のカタルシスがちゃんとあるからだ。
とにかくエドワード・ノートン、たいした役者である。彼は父親を黒人に殺された怒りに身を任せ、優等生からマッチョなネオナチに変身する。はっきり言って、コワイ。陶酔した表情で、暴漢を殺す彼ときたら! これが「ファイト・クラブ」のなで肩でナマッチロイ兄ちゃんかと思うと、舌を巻かずにはいられない。そんな彼に憧れ、崇拝する弟のエドワード・ファーロングも、まさに適役だ。
「憎しみからは何も生まれない」。ノートンは刑務所での過酷な経験から悟り、二度生まれ変わる。が、めでたし、めでたし、とはいかない。差別 や憎しみにまみれてきたアメリカを、断罪するような結末だ。差別 にあまり縁のない我々にも、洗脳の過程なんかはリアリティをもって見ることができるはず。しかもキャラクターの内面 をノートンがきっちりと表現して、ドラマとしての深みも十分。回想シーンの切り込むような鋭さ、祈りのような静けさが、いつまでも心に響くだろう。
(若林ゆり)