他人の顔

劇場公開日:

解説

「砂の女」と同じく安部公房が原作・脚色を担当、勅使河原宏が監督した心理劇。撮影も瀬川浩。

1966年製作/121分/日本
原題または英題:The Face of Another
配給:東宝
劇場公開日:1966年7月16日

あらすじ

奥山常務は新設工場を点検中、手違いから顔に大火傷を負い、頭と顔を繃帯ですっかり覆われた。彼は顔を失うと同時に妻や共同経営者の専務や秘書らの対人関係をも失ったと考えた。彼は妻にまで拒絶され、人間関係に失望し異常なほど疑い深くなった。そこで彼は顔を全く変え他人の顔になって自分の妻を誘惑しようと考えた。病院を尋ねると精神科医は仮面に実験的興味を感じ、彼に以後の全行動の報告を誓わせて仮面作成を引受けた。彼は頭のレントゲンを受けながら、ふと以前見た映画中の旧軍人精神病院で働く美しい顔に、ケロイドのある娘、ある夜戦争の恐怖におびえてか、兄に接吻を求めた娘、そして夜明けの海へ白鳥のように消えていった娘の姿を思い出すのだった。そして彼は或る日医者がホクロの男の顔型を借りて精巧に仕上げた仮面、その他人の顔をした仮面をつけて街へ出た。ビヤホールでは女給の脚に目を奪われた。医者はそれを仮面の正体の現われと評した。彼はアパートに二部屋をとり他人の顔になりきろうとしたが、管理人の精神薄弱の娘に繃帯の男だと見破られた。しかし会社の秘書が気付かないと分ると、彼は妻を誘惑し姦通した。妻を嫉妬し激しくなじると、彼女は初めから夫であることを知っていたと告げ、立去った。彼は夜更けの通りを歩きながら、「自分は誰でもない純粋な他人だ」と咳き、衝動的に女を襲った。巡査は診察券を持つ彼を気違いと思って医者を呼んだ。医者は仮面の返還をせまった。彼がこばむと「君だけが狐独じゃない。自由というものはいつだって狐独なんだ。剥げる仮面、剥げない仮面があるだけさ」と彼を避けるように歩き出した。更に医者が「君は自由なんだ。自由にし給え」と彼をふりきるように言うと、彼はいきなり医者からナイフを奪うと刺し殺した。彼等の背後を同じ顔をした群衆が流れてゆく。

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映画レビュー

4.0顔に火傷の痕のある妹と兄の物語の方が心に残る

2025年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

悲しい

顔に火傷を負った主人公の男(仲代達也)の自己喪失感や苦悩より、彼が昔見た映画の記憶として現れる、顔に火傷の痕のある女性と兄のエピソードの方が心に残る。この不幸な兄妹のイメージが主人公が昔見た映画の記憶だというのは映画comのあらすじでわかった。
これを読まなかったら主人公の男性の物語とは別の、顔に火傷の痕がある女性のパラレルワールドのようなもう一つの物語だと思ったはずだ。でもこの兄妹のエピソードの方が主人公の物語よりリアリティーがあると思う。

主人公の男の自分の顔を失った苦しみは理解できるのだが、会話があまりにも理論的に過ぎて、どこか心理学の研究のような学問的な感じが強すぎて感情がついていかない。逆に兄妹のエピソードは、妹の孤独感と戦争の予感の恐怖が顔の傷痕にリンクしたような生々しさがあって、妹の心理描写に素直に共感できる。妹は火傷の痕が残る自分の顔から逃げたくても逃げることは出来ない、それは戦争の傷痕から逃げることは出来ないという意味にもとれる。

妹は戦争の恐怖におびえて兄に接吻を求めたように公式の粗筋には書いてあるがそうなのだろうか。妹が今の人生で得たものは自分を普通の女性として見てくれる人がいて、それは兄だったということ。だから唯一自分を人間として認めてくれた兄に妹は愛されたかったのだと感じたが違うのだろうか。最後に兄と愛し合ってこの世界から消えた妹のプライドと哀しみが強く印象に残る。

そしてこの兄妹のエピソードのパラレルワールド的な逆の物語が主人公の男と妻の話のように感じる。主人公は戦争を恐れるような人ではなく、でもそれは強さではなく、彼は戦後になっても戦争に負けたことや罪を認めることが出来ないエリート層の日本人の比喩なのかもしれない。主人公の男は妻を傷つけたのに自分の方が傷つけられたと思っている、主人公の男のこの感じが戦後の日本ということなのだろうか。顔に火傷の痕のある妹は愛を得たが世界から消えて、主人公は愛を得られずにまた戦争に向かっていくという意味なのだろうか。

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くまぷう

4.5私が気付いてないとでも思った?!〜強烈なコントラスト

2025年5月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

怖い

知的

1966年公開、配給・東宝。

【監督】:勅使河原宏
【脚本】:安部公房
【原作】:安部公房〜『他人の顔』

主な配役
【顔に大ケガを負った男】:仲代達矢
【男の妻】:京マチ子
【マスクを作製した医者】:平幹二朗
【看護婦】:岸田今日子
【顔に痣のある娘】:入江美樹
【娘の兄】:佐伯赫哉
ほかに岡田英次、村松英子、千秋実、市原悦子、田中邦衛、井川比佐志、前田美波里

※ビアホール「ミュンヘン」の客に、安部公房と武満徹が紛れている。

1.他人の顔のマスク

超最先端技術(作業は手作業)で、ホンモノと見紛うマスクを作る医者。
「透明人間と同じだ」という。

違う顔になって生まれ変わる、
という夢を手に入れた主人公。

2.顔に痣のある娘と主人公との対比

娘は自ら死を選び、
主人公は人を犯そうとし、殺す。

娘の兄は狂乱し、
主人公の妻は泰然と夫を拒絶する。

このコントラストが切なすぎる。

社会的な地位もあり、豊かな主人公は
不慮の事故で顔に大ケガを負う。
マスクを手に入れ、自分の妻をナンパする。
しかし、妻は当然ながら気付いていた。
夫の芝居に付き合っていただけだった。

主治医は興味半分でマスクを作製する。
看護婦と不倫関係にあり、
妻に気付かれているが意に介さない。

左半面はこの上ない美貌。
しかし、反対側は醜い痣。
世間の心無い中傷に傷つき、娘は死を選ぶ。
死の直前に兄と愛を交わす。

かたや、金持ちの優雅な遊び。
かたや、貧しい者の絶望。

※追記
本作鑑賞後、原作を読んだ。
顔に痣のある娘は、作中作『愛の片側』という映画のヒロインである。なるほど、だ。
なお、この娘を演じた入江美樹は、のちに小澤征爾夫人となった。

3.まとめ〜私が気付いてないとでも思った?!

レントゲン写真が喋るようなシーンから始まる本作。
個人的には、
安部公房の世界観を見事に映像化できていたと思う。

また、共感が得られるかは分からないが、
不必要な寄りの画も少なく、ドライなタッチで
つげ義春の作品を見ているような気がした。

◆人間のあさましさや業
◆若さ故の閉塞感と絶望感

主人公と医師がビアボールで、ジョッキを傾けながら
どうでもよい?理屈を捏ね合う場面が象徴的。

マスクは匿名性、無責任、遊び、傲岸を象徴していた。
マスクレスは絶望、切迫、清冽、涙でしかなかった。

救いのない作品。人間の本質を描いていた。
『箱男』、『砂の女』に勝る作品。
強烈に印象に残った。
☆4.5

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Haihai

3.0シュールで小難しい

2025年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

驚く

 事故で顔に大火傷を追った男。ずっと包帯をした姿で、周囲や妻との関係もギクシャクしてしまう。しかし、優秀な医師により、精巧な他人の顔のマスクを装着することに成功する。その顔で妻に接近し。
 シュールで小難しいセリフが多かったので、あまり楽しめませんでした。夫婦の結末は良かったけど、特徴ある仲代達矢の声ではすぐわかるはず。違う声の役者が良かったのかも。ケロイドの娘が、物語とあまり絡まなかったのはなぜだろう。
 顔といえば、若い井川比佐志と田中邦衛が変わらなくてわかりやすい。平幹二朗と前田美波里は、変わっていてわかりにくい。はっきりした顔立ちの入江美樹は、後に小澤征爾と結婚。

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sironabe

5.0マスク造形のリアルさも60年近く前とは思えない出来で、令和の今観ても古さを感じさせませんでしたね。

2024年11月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

新文芸坐さんに「安部公房生誕100年 超越する芸術・勅使河原宏との仕事」と題した特集上映。初期代表作『砂の女』(1964)『他人の顔』(1966)を鑑賞。

『他人の顔』(1966)
勤め先の化学工場での事故で顔面が損壊した主人公(演:仲代達矢氏)が、損壊のため心が離れた妻(演:京マチ子氏)の心を確認するため別人のマスクを被り誘惑する話。

顔面を包帯で巻かれたビジュアルインパクトは十分、ホラー映画と見紛う本作品ですが、同作も阿部公房氏自ら脚本を担当、カフカの『変身』のごとくマスクをすることで段々と別人格になっていく主人公を仲代達矢氏が見事に演じています。京マチ子氏も悪女でない貞淑な妻を演じ役柄の幅広さを再確認しましたね。
また本作でも勅使河原宏氏の芸術性、カメラアングルは秀逸。
特に包帯をほどき醜い顔をそのまま撮らず、手前の歪曲したフラスコ越しで捉えるカットは主人公の荒れた心象風景も表現しておりましたね。マスク造形のリアルさも60年近く前とは思えない出来で、令和の今観ても古さを感じさせませんでしたね。

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矢萩久登

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