残菊物語(1939)
劇場公開日:1939年10月9日
劇場公開日:1939年10月9日
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2020年5月16日溝口健二、坂元裕二、木皿泉――佐藤秋&山口遥「足りない二人」対話劇の“源”を明かす
2019年2月21日歌舞伎が関わる映画はとても好きです。菊之助の着物姿、足さばき、着替え、羽織紐を結ぶ、墨染役の踊りと所作。花柳章太郎、見事としか言えません。可愛い女形さんで親友の福ちゃん(福助)役も素晴らしかった。関の扉の舞台、常磐津連中は八挺八枚?よく見えなくて数えられなかったが豪華絢爛!黒御簾から舞台の菊之助を見つめるみんなの目の真剣なこと!
この映画はおとくの自己献身で出世する歌舞伎役者の話です。おとくが健気で声も可愛らしい純な女なので悲恋ものに見えるけれど、溝口健二監督がそんな悲恋映画を作るとは思えない。
おとくの仕事であった「乳母」が面倒を見る対象が、赤ん坊から菊之助坊ちゃんという大人の男に変わっただけ。おとくは賢くて芝居を見る目もあり、ただ単に正直に菊之助の芸を批評した。それで菊之助は誰も言ってくれなかった言葉に感動してしまい、一方で音羽屋からは菊之助を誘惑して妻の座を狙ってると見られてしまう。おとくにとって最大の侮辱だ。だから大阪へもおとくは菊之助に同行せず一年後にやっと行った。坊ちゃんをあやして立派な鏡台を贈り、菊之助にチャンスを与えるきっかけを作り、見事仲間を唸らせる。そして若旦那は音羽屋にカムバッーク!結果、おとくは自分を排除した音羽屋を盛り上げる捨て石になった。おとくが一人名古屋から大阪の二階に戻って吐いた言葉は本心だろう。「あんな男と一緒に居るの 面白くなくなったのさ」
歌舞伎の家に生まれた子どもは大変だと思うが、男だけ。観客は圧倒的に女性、歌舞伎に関連する習い事をするのは圧倒的に女性。跡継ぎ産むのも女性(この映画で菊之助は養子。まだいい時代だったと思う)。その上に成り立つ歌舞伎や伝統芸能の世界。どうにかならないかと心底思う。
日本による中国侵略戦争が1937年に本格化し、戦争協力映画制作が政府から求められ検閲も始まった。男性本位の社会を告発する映画が得意な溝口監督はこの時代、芸道ものに打ち込むしかなかったのだろう。だから歌舞伎が好きでも両手を上げて喜べない。
おまけ
おとくが菊之助のことで誤解され暇を出されて身を寄せた親戚の家では菊の花を育てていた。その場所は、雑司が谷、鬼子母神。いいねぇ。すすきみみずくもどっかの場面で見えた気がする。
佐藤忠男(1982)『溝口健二の世界』(筑摩書房)。今回の溝口健二監督特集を見る前にこの本に出会うことができた。佐藤忠男さんの映画批評の奥深さと鋭さに改めて心が動かされた。映画批評に感動するってなかなかない。その希有な例が佐藤忠男さん。今年3月の訃報はショックだった。レビューの一部は上記文献を参考にしました。
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同じ日に「マリヤのお雪」(1935:80分)を見た。ここにあがっていない映画なのでごく簡単に紹介。原作:川口松太郎 脚本:高島達之助 出演:山田五十鈴、原駒子、夏川大二郎、中野英治、梅村春子
モーパッサン『脂肪の塊』を川口が翻案した舞台劇が原作。時代背景は西南戦争中の熊本。官軍から逃げる馬車に乗り合わせる金持ち家族(6名)と二人の酌婦。家族は二人を悪し様に言い軽蔑する。お雪(山田五十鈴)は聖母マリアのようでもあり気っ風もあり強い。山田五十鈴の凛とした姿にはいつも惚れ惚れとする。いい台詞の多い映画だった。冒頭のお雪の言葉(大体)。「死にたいと思っても 寿命があれば生きるし。生きたいと思っても 寿命があればそうは行かない」
最初のほうから、この二人は悲劇で終わるのだろうという雰囲気があり、どちらかが死ぬのか、心中か、あるいは死なないまでも二人は一緒にはならないだろうと勝手に想像して観ていた。結局、女性のほうが病死してしまうという、「野菊の如き君なりき」等、割とよくあるパターンだった。ただ、なぜだろう、予期していたにも関わらず号泣してしまった(一人で観ていてよかった)。臨終間際のお徳さんが夫婦になれた喜び、結婚を許してくれたこと、早く船に行ってと切々とか細い声で言うセリフは、結構長いこともあり、じわじわと涙腺を刺激されてしまった。この歳になって、また日本映画の傑作の一つに巡り会えたことに感激している。
これを最後まで見れる人はどんな宗教のどんな修行にも耐えられるだろう。尊敬に値する人々だ。このような展開が鈍くて大体どうなるか分かるストーリーが3回も映画化されるなんて。昔の人は面白い小説にも恵まれなくてかわいそうである。
私が、あーと思ったのはこの映画は戦前の映画であってその戦前というところの力強さのようなものを感じた点である。戦争に入る2年前というのは日本は力強さがあって、このような素晴らしいセットを作って自信にあふれた映画を作っていたのだなあと思った。
完成度では戦後の「近松物語」に比肩する、溝口健二の芸道ものの最高傑作。演技の持続を見せつけるワンショット・ワンシーンの演出法を遺憾なく発揮した演劇的映画の見本のような力作で、練られたカメラアングルや移動撮影の素晴らしさに、ただ唸るしかない。台詞と動きが調和した役者の演技の本質に拘る溝口演出の厳しさ。その緊張感に包まれた独特なカメラワークで存分に表現された、見応えあるドラマと演技の美しさに吸い込まれる。
お徳が菊之助の演技の不味さを諭すシーンでは、背景の下町の家並みやその前を通り過ぎる人々のなかで会話するふたりのこころの繋がりを、川岸の道に沿った移動撮影で表現する。動きのある場面の面白さと風情の味わい。義母里がお徳を叱り付ける場面では、家にいる女中たちの様子を端的に描写して奥行きのある場面作りをする。また、田舎に帰ったお徳を探して菊之助が出会う場面では、山道の茶屋にある林を生かした演出で、人物の動きや思考を想像させる。口論する菊之助と義父菊五郎では、隣の座敷で心配そうに聞き耳を立てる義母里を正面から撮る演出。三人の関係性を浮き彫りにすると共に、高度な演技力を要求する監督とそれに応える梅村蓉子の演技。
観る者のイマジネーションを刺激しながら、登場人物の人となりや感情、思考、行為に思いを至らせる溝口監督の演出。それを味わい、尚それに酔うが如くの映画の模範。
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