疑惑

劇場公開日:1982年9月18日

解説

殺人容疑者の女と彼女を弁護することになった女性弁護士の間の確執を描く。松本清張の同名小説の映画化で、作者自身が脚色し、撮影台本は「ダイナマイトどんどん」の古田求と「わるいやつら」の野村芳太郎、監督も野村芳太郎、撮影も同作の川又昂がれぞれ担当。

1982年製作/127分/日本
原題または英題:Suspicion
配給:松竹=富士映画
劇場公開日:1982年9月18日

あらすじ

富山県新港湾埠頭で車が海中に転落、乗っていた地元の財閥、白河福太郎は死亡したが、後妻の球磨子はかすり傷ひとつ負わなかった。しかも、球磨子は過去に情夫と共謀して数数の犯罪を起こしていたことが判明。彼女は夫に三億円の保険金をかけており、この事故も、泳げない福太郎を殺すための擬装ではないかと誰もが疑った。北陸日日新聞の秋谷が積極的に報道を始めた。物的証拠がないまま球磨子は逮捕された。強気の球磨子は弁護士の原山を通じて、東京の花形弁護士、岡村に弁護を依頼するが、彼女の不利な立場に拒否され、原山も健康を理由に辞退。そして、女弁護士の佐原律子が国選弁護人として選ばれた。球磨子は同性でありながら自分とは違いすぎる立場にいる律子に反感を待った。律子も同じ気持だったが、ふとした偶然の事故から福太郎が自殺を企みようとしたことをつきとめた。球磨子は無罪となるが保険金は手に入らなかった。律子は真実をつきとめたが、球磨子を許すことは出来なかった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第6回 日本アカデミー賞(1983年)

ノミネート

作品賞  
監督賞 野村芳太郎
脚本賞 古田求 野村芳太郎
主演女優賞 桃井かおり
助演男優賞 柄本明
助演男優賞 鹿賀丈史
音楽賞 芥川也寸志
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映画レビュー

4.5仕事は他人事

2025年8月14日
Androidアプリから投稿

2時間もイスに座らせて飽きさせないのは至難の業だが、その為に盛り込みすぎて散漫になるのがよくある苦労の上の落とし穴。

本作は各々がそれぞれの持ち味を活かして、流行りや仕掛けに頼らず、巧みな原作を土台に飄々と魅せてくれる稀有な一本だと思う。

被告人の桃井かおりは〈腹に一物ある〉ふてぶてしさ、弁護士の岩下志麻は〈腹が読めない〉ふてぶてしさでお互い、己の所業を仕事であり、どこか他人事と割り切っている。そこが実にいい。

妙に憎めない三枚目の鹿賀丈史も掌返しが小気味いいし、山田五十鈴の啖呵も心地よい。往年の名優陣を偲ぶ意味でも距離感が安定している。

感情移入は必要だが、観客を過剰に引きずり込む必要は無い。これはどう展開して行くのか、成り行きを見届けたいと思わせ続ければ良いだけだから。そもそも、映画の中の出来事なんて他人事なんだから。

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K・M

5.0松竹映画の宝

2025年8月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

楽しい

ドキドキ

久しぶりに観ましたが、やはり魅せられます。
桃井かおりさんの巧みな演技、岩下志麻さんの貫禄。
原作・脚本の松本清張さん、無駄なく隙なく少年性の清さも
この大人達の茶番を傍観し傷つき、なだめる。

野村芳太郎監督、後期の傑作で松竹の代表的な名作。
多作な監督で、松竹では神だったんでしょうね。
駄作もあるが『震える舌』というカルト映画もあったり
(松竹は『震える舌』を松竹で『エクソシスト』をとオーダーしたのでは、と推測している。
『真夜中の招待状』は『エレファント・マン』。
大林宣彦監督には松竹でゾンビ映画をとオーダーして『偉人たちとの夏』が出来たと御息女の話を聞いた。)
社会派ミステリー『砂の器』『事件』『鬼畜』という名作もすぐ浮かぶ。

昭和の時代風景、警察と記者達のズブズブな関係性などの描写。
冤罪。
クロでしかない容疑者の、事実を明らかにできる弁護士。

劇場公開初日、今は無き横浜ピカデリーで観ました。
(松竹は洋画単館ロードショーで『疑惑』一本立て興行にした。
当時、通常松竹は邦画プログラムピクチャー2本立て興行だったから、松竹の賭けと作品の自信を感じた。)
客入りがよく、映画を楽しんだ観客の熱気があった。
街の映画館が活き活き、していた。

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なかじwithみゆ

4.5サスペンス系は好みではないがコレは良い!

2025年7月5日
PCから投稿

知的

驚く

 もともとサスペンス系の映画は好みではありませんが、本作はとても楽しめました。原作が何度もドラマ化されているだけあって素晴らしいです。

 桃井かおりさんと岩下志麻さんのやり取りが素晴らしいうえに、スパイスとして新聞記者役柄本明さんが本作品に与えるフレーバーも凄く良いです。

 桃井かおり演じる球磨子が首尾一貫して直情型のバカ女であることにブレが無いので、ストーリーに矛盾がありません。この女じゃあ緻密な計画に基づいた行動は出来ないし、この女なら法廷で喚き散らすことも有りそうだと納得できるのです。

 1982年公開の古い映画ですが、新聞記者がスクープ獲得のために参考人に金を渡したり誘導尋問したりして自分に都合の良い証言を引き出し、それを記事にして球磨子が悪人であり犯人に違いないと大衆に刷り込む様が描かれているのにも感心しました。
 読んでいませんが原作は週刊誌記者(本映画では新聞記者)の事件をめぐる物語であるとのこと。

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クネーゴ

5.0無作為な球磨子

2025年6月4日
PCから投稿

白河(鬼塚)球磨子は多額の保険金をかけた夫と海へ車ごとダイブし自分だけ脱出して保険金殺人を疑われる。その疑惑を解き明かしていく係争と人間模様が描かれる。
原作とは設定や筋が異なるそうだが、映画では希代の毒婦球磨子の悪逆無道を描くのが狙い。球磨子を桃井かおりが演じた。

球磨子という人物は意識的な悪ではなく無意識な悪で、悪で出来ているから悪意が見えない──という謂わばnatural-bornな悪女を桃井かおりが演じている。
役に合わせた演技をするのではなく、内側から顕現させるのが桃井かおりのメソッドだと思う。鷹揚な態度、たどたどしい声音と抑揚、上目遣いなどが擦れっ枯らしな球磨子像の外貌をつくった。

そこに人たらしが加わる。
桃井かおりでもっともよく覚えているのは幸福の黄色いハンカチのワンシーン。
武田鉄矢にナンパされた彼女は、高倉健と三人で車旅を続けるが、途中で車が干し草につっこんでやむなく近くの民家に泊めてもらう件がある。一宿一飯にあずかったその家で、桃井かおりがその家の子らと楽しそうにじゃれているシーンがあった。そのシーンはシナリオに予定されていたものではなく、たまさか子役らと息が合い、ふざけていたのがいい感じだったから撮り残した、という感じだった。ご覧になった方ならわかると思う。桃井かおりには人たらしな気配があり、初対面の子供とふざけるのは自然だった。独特な緩く鈍い気配がある人ゆえアンニュイやけだるさを言われる人だったが、じっさいは快活な人だという気がする。

このように芯からでる悪女値に人たらしが加わり、結果疑惑は桃井かおりの魅力に尽きる映画になった。
ちなみに疑惑はこの映画のほかに5回テレビドラマ化されているそうだ。
ウィキを見るとそれぞれの球磨子は、
いしだあゆみ
余貴美子
沢口靖子
尾野真千子
黒木華
──が演じていたが、桃井かおりには適わないだろう。という気がした。

ラストちかくで球磨子がつとめるクラブへ弁護をうけおった佐原律子(岩下志麻)が客としてやってくる。すこし話すとふたりは口論になり、律子が着ていた真っ白なスーツへ、球磨子が赤ワインをダラダラとこぼす。管を巻きながら無造作にこぼすのだが律子はまったく動じず眉ひとつ動かさない。お返しに球磨子の顔面に赤ワインを浴びせる。
無造作な桃井かおりと無反応な岩下志麻に圧倒されるシーンだった。他には、球磨子に食いつぶされる男を仲谷昇が演じて巧かった。

脚本を松本清張自身が書いた。映画には古さがなく個人的にはもっとも優れた松本清張の映像化であり、もっとも優れた野村芳太郎でもあった。

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津次郎