"エロ事師たち"より 人類学入門

劇場公開日:

解説

野坂昭如の原作を、「赤い殺意」の今村昌平と沼田幸二が共同で脚色、今村昌平が監督した社会風刺喜劇。撮影もコンビの姫田真佐久。

1966年製作/128分/日本
原題または英題:The Amourist/The Pornographer
配給:日活
劇場公開日:1966年3月12日

ストーリー

人間生きる楽しみいうたら食うことと、これや。こっちゃの方があかんようになったらもう終りやで。スブやんこと緒方義元は、いつも口ぐせのようにこうつぶやくと、エロと名のつくもの総てを網羅して提供することに夢を抱いている。スブやんは関西のある寺に生れたが、ナマグサ坊主の父親とアバズレ芸者の義母の手で育てられた。高校を卒えて大阪へ出て来たスブやんは、サラリーマンとなったが、ふとしたことからエロ事師の仲間入りをしたのがもとで、この家業で一家を支えることになった。彼の一家とは彼が下宿をしていた松田理髪店の女王人で未亡人の春と彼女の二人の子供、予備校通いの幸一と中学三年生の恵子である。スブやんは春の黒髪と豊満な肉体に魅かれてこうなったのだが、春にとっては思春期の娘をもって、スブやんを間に三角関係めいたもやもやが家を覆い、気持がいらつくばかりだ。そして、歳末も近づいた頃、遂に春は心蔵病で倒れた。スブやんは病人の妻と二人の子供をかかえて、動くこととなった。仲間の伴的は暴力団との提携をすすめたが、スブやんは質の低下を恐れて話を断わり、8ミリエロ映画製作に専念した。その映画とは実の親が娘を犯すといったもので、さすがのスブやんも考え込んでしまった。帰宅するとスブやんは恵子の様子がきがかりで仕方がなかった。その夜、スブやんはニュタイプの器具から足がついて、警官に拉致された。その頃、春の病状は思わしくなかった。幸一のバリ雑言の中で、春は、スブやんの仕事を信じていた。出所したスブやんにまた生気がよみがえってきた。数日後、酔いつぶれて帰って来た恵子に、スブやんはいとしさがこみあげて来た。事の成りゆきを知った幸一は家出した。「緒方はんいたづらしはるねん」死期の迫った春には、返す言葉もなかった。四月春はスブやんの子供を妊ごもったまま、恵子の写真を針でつきながら死んでいった。春と恵子を愛し、スブやんは幸一をも案じながら年をとっていった。それから五年美容師に成長した息子の側で、白髪のスブやんは、エロ事師一世一代の仕事の植毛に眼をすえていた。

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映画レビュー

5.0性を権力批判ではなく人間の本能の怖さとして描く熱気に満ちた作品

2023年8月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

ポルノ写真、ブルーフィルム、売春、乱交パーティ、ダッチワイフ製作等、性欲に絡む商売に全身で没入しつつ、自分も性欲に流されるまま子持ち未亡人と事実婚状態に陥るわ、彼女の中学生の娘を犯すわ、猥褻罪で拘置所に入れられるわ、ヤクザに商品を回せと恐喝されるわ、仲間に裏切られて財産を奪われるわ…と波乱の人生を送る男を描いた映画。

冒頭から人目を忍んでこっそりブルーフィルムを撮影する後ろめたそうなグループや、宴会で性交を見せる男女、知的障害者の娘との性交を見せて生活費を稼ぐ中年男等々、社会の底辺に蠢く人々の猥雑の限りを尽くすシーンが続く。
そして主人公が「これはどんな人間もやってること。俺は真面目にやってるから逮捕されるが、お偉いさんの方がよほど汚い」とか、「それは民主主義のはき違えだ」などと言うシーンに、これは性の露出、露悪趣味で権力批判したつもりになっている悪しき60年代のパターンなのかと思わされる。

しかしずっと見ていると、主人公は権力よりも、自分の性欲に酷い目に遭ってきたことがわかる。性欲に負けて年増女の家に転がりこんだり、ポルノ仕事にのめり込んで社会の表面からはじき出されたり、猥褻罪で捕まって家の子供たちに軽蔑されたり、連れ子とセックスして母親と娘をドロドロな関係に追い込んだり…。

主人公のエロ事師は確かにデタラメで、滅茶苦茶で、悪い。しかし、それはみな性欲に引きずられた結果、本能のまま社会倫理からはみ出てしまった結果なのである。
主人公はその責任をすべて引き受ける。というより社会から責任を取らされ、それでも懲りる風情はない。こうなるともはや善悪の彼岸wであり、人間にとって性がいかに大きな意味を持つか、どうぞ自由に追求してください…と言いたくなる。

そう。主人公は自由に純粋に性を追求し、今村監督も小沢昭一もそれにどっぷり付き合っている。性を権力批判に利用する軽薄さでなく、人間の本能の怖さを描く熱さが伝わってくる本作は傑作と呼ぶにふさわしい。

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徒然草枕

3.5生真面目にエロ提供を追求する小沢昭一が印象的

2023年1月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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Kazu Ann

4.0どんな時代でも男と女の間には黒い川が流れ

2021年8月15日
PCから投稿

こんな職業が存在したことじたいがうれしい。
"エロ事師"と呼ぶことじたいに人間らしさが感じられる。
いつの間にか、どうしたことかこの手の商売は産業と呼ばれてしまっていて哀切さがなくなってしまった。つまり人間が感じられなくなってしまった。スブやんはくそ真面目に正直に世間を生き抜いていて、職業の貴賤など笑い飛ばしながら悔し紛れの働くことの正当性を誇示して暴力にも屈するこ
とはない。しかし、周りからは蔑まれ疎まれる。が、しかし、めげないし挫けない。足を洗うことなど考えもしない。男の悲哀を知り抜いているが故の信念なのだ。高度成長期の真っただ中で、人間らしく生き抜くためには何をすれば良いかを教えてくれている。
この映画が描いている時代と今の状況はなんら変わることがない。
社会は効率的で経済最優先である事が人間を幸せにする。それ以外の考えは無意味だと信じて疑わない。この映画が作られた時代にすでに、他の考えもあるだろうと言っている。
この映画が封切られて55年が過ぎてしまった。
メンドクサイけれど新しい生き方をも認め、生きる方法を始めてみたいものだ。

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はる

3.0おっちゃん

2018年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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kossy

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