劇場公開日 1953年3月26日

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雨月物語のレビュー・感想・評価

全39件中、21~39件目を表示

4.5男と女、戦争と人間の構図から浮かび上がる、男の愚かさを追求した溝口監督の映画美術

2021年10月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、映画館、TV地上波

1952年の「西鶴一代女」からこの「雨月物語」、そして「祇園囃子」「山椒大夫」「噂の女」「近松物語」までの3年間の溝口監督晩年の成熟の頂きを呈する作品群は、日本映画における最重要な遺産と云わざるを得ない。国際映画祭においては黒澤明監督の「羅生門」に触発された溝口映画の3年連続ヴェネツィア銀獅子賞受賞の快挙と、ワン・シーン₌ワン・ショットの演出技巧に影響を受けた映画人が後にヌーベルバーグという映画革新を生む切っ掛けの素養になった。それは、ジャン=リュック・ゴダールやテオ・アンゲロプロスなどのヨーロッパ映画に引き継がれている。なかでも「雨月物語」は特別な存在です。後に公開された戦前の傑作「残菊物語」と「元禄忠臣蔵」や戦後の「近松物語」が日本的風習や価値観で西洋人に理解しきれないハンディキャップがあるのとは別格で、「雨月物語」が持つ広いヒューマニズムと日本的幽玄美が称賛をもって迎えられました。ただし、金獅子賞を狙っていた溝口監督は、惜しくも銀獅子賞に終わって後悔したといいます。それは最後の結末をもっとカラいものにしたかったのを、制作会社の大映の商業主義の介入で甘くせざるを得なかったというのです。その影響か、審査委員の評価では、筋を作り過ぎている点でグランプリの資格なしと言われました。しかし、その甘さ故に、映画的な感動があることもまた事実です。

日本的な怪奇譚の独特な味わいと幽玄美を極めた宮川一夫カメラの映像美。京マチ子の演じる死霊若狭の怪しげな美しさと恐ろしさ。幽霊屋敷の幻想的な雰囲気。源十郎がいる岩風呂に若狭が入るとお湯が溢れて池のカットに続く流麗な映像のイマジネーション。帰郷した藤十郎を温かく迎える妻宮木を映すカメラの一回転。その幻影から現実の世界に転化する映像演出の鮮やかさと美しさ。そこに描かれた田中絹代演じる宮木の夫と子を思う、妻として母としての無償の愛。これこそ文学や舞台では表現しきれない、映像が持っている表現の技術力であり、素晴らしさである。
地道な仕事に就く男兄弟が出世の欲と女性の色気に迷い、再び元に戻る男の愚かさを描いて、現世に想いを遺した妖艶な女性と献身的な女性の対比を巧みに加えた脚本の厚み。男と女の闘いを描いてきた溝口監督が辿り着いた一つの回答が、ここに見事に描かれている。また美術、撮影、音楽の三位一体となった様式美がその人物の構図を生かしている。その為、時代劇と認識しながらも、普遍的な男と女、戦争と人間の関係性に思いを馳せる世界観が構築されているのだ。

この映画が公開された昭和28年の日本映画は傑作揃い。小津安二郎の「東京物語」成瀬巳喜男の「あにいもうと」木下惠介の「日本の悲劇」がある。

  1978年  7月19日  フィルムセンター

約40年前の感想にその後得た資料を追加してレビューしました。しかし、この「雨月物語」を語る上で、私個人の記憶に深く刻まれたことは、当日の上映が終わったフィルムセンターでの出来事です。20代半ばと見られるひとりの青年が周りに憚らず号泣し始め、男泣きしながら劇場を後にするのを間近で接しました。映画を観て感激しても、涙を少し流す程度の自分には衝撃でした。「道」のアンソニー・クインの嘆きとは比較にならない、その青年の止められない男泣きは、「雨月物語」に描かれた男の罪深さと償いのように感じられて、衝撃と冷静の入り混じった不思議な心境になりました。それはまた、人に感動を与える名作の素晴らしさを、改めて私に認識させてくれた貴重な体験でもあったのです。

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Gustav

4.5人間の愚かしさと戦争の不毛さ

2021年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

《お知らせ》
「星のナターシャ」です。
うっかり、自分のアカウントにログインできない状態にしていまいました。(バカ)
前のアカウントの削除や取り消しもできないので、

これからは「星のナターシャnova」

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日本の古典の中でも怪異話で有名な雨月物語の
代表的な短編をいくつか一つの話にして脚色した物語。

京マチ子映画祭で観て来ました。

京マチ子さんが、時には少女の様に恥じらい
時には般若のように怒りに狂って男を追い詰める。
変幻自在の豹変ぶりに目を奪われます。

で、月に8回程映画館に通う中途半端な映画好きとしては

京マチ子さんの演技も見ものでしたが
絡みは一切ないものの、
対照的な名も無い庶民の妻を演じた
田中絹代さんも、
貧しいながらも、本物の幸せを追い求める誠実な役柄で

京マチ子さんの役と対になる見事な存在感でした。

お話自体は溝口健二監督らしく
人間の愚かしさと戦争の不毛さを描いていますが

それだけでなく、昨年観た「近松物語」と同じ様に

白黒ながらもその陰影の美しさ〜
着物の柄の見事さで身分が差が解るほど伝わって来る!
モノクロ映画の最高峰かも。

@もう一度観るなら?
「こういう映画は映画館で集中して観ないと〜〜」

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星のナターシャnova

5.0映画への価値観がひっくり返るくらいの素晴らしい作品

2021年8月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

映画
『雨月物語』
の感想をブログに上げました。

『巨匠を観る』企画、11作目(全27作)の映画です。

監督:溝口健二
制作年:1953年
制作国:日本
ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞

【あらすじ】
室町時代末期、陶工の源十郎は戦乱の中で賑わう街で陶器を高く売る事を考える。
村に武士が略奪に来る中、妻と息子を残し、危険を冒しながら街に出ると陶器は十分な儲けとなった。
そんな中、纏め買いをした若い姫の家を訪れるが、姫に誘惑され、惚れ込んでしまい。。。

【感想】
個人的に映画への価値観がひっくり返るくらいの素晴らしい作品でした。

単純化した人物造形が作り出す暴力的で退廃的な人間の世界と、生前の世への恨みから霊となった姫の幽玄な世界が恐ろしいです。
そして、そんな世界の中でも失われない妻の愛情が泣けます。

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ブログの方では、ネタバレありで個人感想の詳細とネット上での評判等を纏めています。
興味を持って頂けたら、プロフィールから見て頂けると嬉しいです。
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trico

5.0普遍的主題と日本的美しさの見事な調和

2021年7月17日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

単純

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yugo

4.5人生で大切なものは何かを教えてくれる

2021年6月30日
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ジョニーデブ

5.0最早芸術

Jさん
2021年6月19日
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他の映画では観られない映像美と幽玄の世界

稀に映画を見ていてこれは最早芸術の域に達してる
と思うほど美しい映画がある

単純な映画の役割を通り越した
稀に見る芸術級映画

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J

5.0怪談

2021年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

4K修正版であらためて観たが、やはり怖くて悲しいお話だった。
戦国時代、一人(森雅之)は焼き物で一儲けしようとしており、妻(田中絹代)は心配している。
もう一人(小沢栄太郎)は武士になりたがっていて、心配した妻はついてくる。
焼き物を売っていた所、美しい女(京マチ子)が現れ、屋敷に届けてくれという。
行ってみると・・・。
京マチ子の妖艶さと怖さは凄まじい。

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いやよセブン

4.5映像のクオリティと物語の面白さに凄み

2020年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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Kazu Ann

4.0怪異と人間の儚さ・愚かさ

2019年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

古典的な日本の怪奇物語と欲に囚われる人、それに巻き込まれる人の人間模様が描かれている作品。

「どうして、そんな馬鹿なことを...」と映画をみている分には客観的に思えることでも、現実に生きていると利口的な生き方はできないもの。
欲に囚われ、改心できたとしても、二度と元に戻ることができないこともあるということを突きつけられた。

ねっとりと苦々しい怖さは、日本らしいと思える。
怪異という存在は、生きている人間をただ怖がらせるだけではないという点は情緒的であり面白かった。

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ちゅーる

5.0映画の枠を超えて、日本美術の粋といえます

2019年8月27日
Androidアプリから投稿

凄まじい傑作を観て、しばらく呆然としました
総毛立つ思いとはこのことです

怪談、つまり今風に表現すればホラー映画
それではあまりにも安っぽく、この本作を侮辱しているように感じます
単に物語が怖かったからだけで総毛立ったのではありません

美術、衣装、メイク、ヘア、照明、撮影
もちろんのこと出演者の演技、監督の演出
これらのものが渾然一体となって日本の美意識が隅々までフィルムの中に焼き付けられています

これこそ美術品です
映画の枠を超えて、日本美術の粋といえます
京都国立博物館の国宝展で観ることができる最高峰の日本の美術品に比肩するものです
日本の映画芸術の最高の才能と最高の美意識と教養がなし得た偉業です
日本映画の最高到達点のひとつです

夜霧たなびく湖水を渡るシーンの幽玄の光景
朽木屋敷の夕闇の中次々に燭台が灯る美しさ
若狭姫の能面のように整った容貌がいつしか不気味さをたたえる陰影
何もかも鳥肌がたつ程の芸術です

田中絹代の言葉の美しさ
気高く気品のある立ち振舞い、所作
決して美女ではないが最高の理想の女性の姿
そこには微かなエロシズムすらあるのです
驚嘆するばかりです

極めて日本的なドメスティックなようで、実は世界のあらゆる国や民族に普遍性を持つ物語と美意識であり共有できるものなのです

これ程のものは世界でも希有のものです
疑いもなく世界の映画芸術の最高峰の一角を占める作品です

本作のそれらの驚くべき凄さが本作を観て総毛立つ思いにさせたのです
このような超絶的な作品は残念ながら二度と撮ることは叶わないでしょう

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あき240

3.5人間の愚かしさと戦争の不毛さ

2019年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

日本の古典で怪異話で有名な雨月物語の中の

代表的な短編をいくつか一つの話にして脚色した物語。

京マチ子映画祭で観て来ました。

京マチ子さんが、時には少女の様に恥じらい
時には般若のように怒りに狂って男を追い詰める。
変幻自在の豹変ぶりに目を奪われます。

で、月に8回程映画館に通う中途半端な映画好きとしては

京マチ子さんの演技も見ものでしたが
絡みは一切ないものの、
対照的な名も無い庶民の妻を演じた
田中絹代さんも、
貧しいながらも、本物の幸せを追い求める誠実な役柄で

京マチ子さんの役と遂になる見事な存在感でした。

お話自体は溝口健二監督らしく
人間の愚かしさと戦争の不毛さを描いていますが

それだけでなく、昨年観た「近松物語」と同じ様に

白黒ながらもその陰影の美しさ〜
着物の柄の見事さで身分が伝わるほど違いが判る見事さ〜

@もう一度観るなら?
「こういう映画は映画館で集中して観ないと〜〜」

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星のナターシャ

3.04kデジタルリマスター版なので、70年以上経った今も音質もクリ...

2019年8月18日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

4kデジタルリマスター版なので、70年以上経った今も音質もクリアだし映像も言うことはなし。
お話自体は耳なし芳一と牡丹灯籠を足してわったような感じで日本独特の怪談ものが当時は受けたのかな?と思います。

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ちゆう

3.5美しい

2018年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

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ひぃちゃん

4.0モノクロの美しい映像が物語の妖しさを引き立てる。三人三様の女の哀し...

2018年1月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

モノクロの美しい映像が物語の妖しさを引き立てる。三人三様の女の哀しみが見事に描かれていた。田中絹代の演技が特に素晴らしかった。

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tsumumiki

4.0戦国に生きる庶民の難しさ

2016年2月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

難しい

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Cape God

3.0背筋が凍る、、

2015年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

幸せ

京マチ子の幽霊が正体を現し始めるシーンは本当に恐ろしい。観ていて背筋が寒くなり、後ろに何かいないか振り返ってしまった。
「八つ墓村」で小川真由美が豹変するシーン、作品名は分からないが小鳥をむさぼっているところを人に見られ化け猫の正体を見破られた女が「見ぃたぁなぁ~」と叫ぶシーンに並ぶ恐ろしさである。
魔性の女ではなく、魔性そのものを体現するこの女優の正体は一体何なのだろう。近日中に観る予定の「羅生門」でもそこに注目してみよう。

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佐分 利信

3.5話に説得力ある人生訓

2015年2月15日
iPhoneアプリから投稿

人(男?)の欲深さを戒める救いのない内容で、ビターな後味が忘れ難い。溝口健二監督作は初めて鑑賞したが、シンプルな物語だけにセリフで訴えるような説教臭さが無いのが素晴らしい。(黒澤明は結構セリフで言っちゃうところもあるので尚更そう思う笑)

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えら

5.0人間の愚かさと欲望の深さを描いた傑作

2015年2月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

戦国時代の場を借りて、弱い人間の愚かさと欲望の深さを描いた傑作。 今、観ても古さを全く感じさせない内容。全編にわたって白黒画面も美しい(撮影…宮川一夫)し、音楽も良かった(「七人の侍」の早坂文雄)。
亡霊の美女である京マチ子の登場していた場面は大人でも恐怖感を覚えるほど迫力あるものでした。
欠点の見つからなかった映画で、溝口監督に脱帽でした。

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chakurobee