河童のクゥと夏休み : 映画評論・批評
2007年7月24日更新
2007年7月28日よりアミューズCQNほかにてロードショー
“夏休みの子ども向けアニメ”の枠を超えた、原恵一監督の集大成
ここ数年の「映画クレヨンしんちゃん」にモノ足りなさを感じる理由は、ただひとつ。原恵一の名がクレジットされていないからである。構想から20年。ある意味、「七人の侍」を超えていた「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」からの5年間、原監督は本作に全身全霊を注いできた。それは138分という、“夏休みの子ども向けアニメ”の枠を超えた上映時間でも一目瞭然。まさに、原監督の集大成と呼べる超大作である。
簡単に物語を追えば、「E.T.」のようでも、某ミュージシャンが勢いで撮ったあの凡作のようでもある。さらに、主人公・康一の家族構成からペットに至るまで、野原家とまったく同じだ。だが、懐かしくて、微笑ましくて、残酷……。小学校のプールで、お茶の間で、遠野の自然で、これまで以上になにげない日常が丁寧に描かれていく。さらに、マスコミ相手に、家族が一丸となって立ち振る舞う後半パートでは、“上原一家ファイヤー!”な独特のグルーブ感をも醸し出す。もう、これは原恵一マジックとしか言いようがない。もちろん、青空や東京タワーといった、「クレしん」ファンならニンマリなシーンも用意。さらに、今回いちばん泣かせてくれるのは、クゥでも、康一もなく、オッサンと名付けられた飼い犬という、意外な裏切りもアリ。去年の「時かけ」に続き、夏になれば想い出すアニメがここに生まれた……どころじゃない。間違いなく、本年度ベスト1候補である。
(くれい響)