ボーン・アルティメイタム : 特集
ジェイソン・ボーンの失われた過去が遂に判明する大ヒット・シリーズ第3弾。その大胆なストーリーの落としどころも楽しみだが、もうひとつのオイシイ見どころが、本シリーズならではのアクション演出。「ボーン」シリーズは、ハリウッドのアクション映画の歴史を変えたのだ。(文:編集部)
アクション映画が変わった。「ボーン」が変えた
■前作「ボーン・スプレマシー」がアクション映画の流れを変えた?!
「ボーン・アルティメイタム」と前作「ボーン・スプレマシー」(04)の監督は、同じポール・グリーングラス。そのアクション演出の特徴は、ドキュメンタリー・テイスト。手持ちカメラと、その場にいる人間の視線の落ち着かない動きを想定した細かいカット割り。その効果を最大限に引き出す、押さえた色彩設計と、ざらついた質感。このアクション演出の新鮮な魅力は観客だけでなくクリエイター達をも魅了し、後のアクション映画に多大な影響を与えている。
この斬新な演出術が生まれた背景は、監督ポール・グリーングラスの経歴を見ると納得がいく。
彼は英国のジャーナリスト出身。ドキュメンタリー映画の監督を経て、アイルランド紛争の血の日曜日事件を描いた社会派実話映画「ブラディ・サンデー」(02/未)が評価され、前作「ボーン・スプレマシー」に抜擢された。この大ヒットの後に9・11事件を描く「ユナイテッド93」(06)を撮った人物なのだ。
彼のドキュメンタリーと実話映画で培った演出術が、少々無理のある設定のスパイものと出会って、うまく化学反応を起こした結果が、この「ボーン」シリーズだと言えるだろう。
■「ボーン」系アクション演出術の生まれた背景には…
04年「ボーン・スプレマシー」のヒットを受けて、他のアクション、サスペンス、社会派系の作品もいわばこの“ドキュメンタリー系アクション演出術”の影響を受けた。その背景にあると考えられるのは、やはり01年に起きた9・11テロ事件。この事件以降、あのワールド・トレード・センタービルへの旅客機の自爆テロ映像を超える映像を、映画は探し求めなくてはならなくなった。
こうした状況の中で04年にはマイケル・ムーアの「華氏911」が全米でドキュメンタリーとしては異例の大ヒット。これと同じ年、04年にドキュメンタリーのパワーとフィクションの魅力の双方を備えて登場したハリウッド・アクションが「ボーン・スプレマシー」だった。ハリウッド映画はこの演出術に活路を見い出したのだ。
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