ブラックブックのレビュー・感想・評価
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裏切り者が頻出しナチスもレジンスタンス内も善悪が混在、その中で逞しく生き残る女性像
ポール・バーホーベン監督(ロボコップ、氷の微笑等)による2006年公開のオランダ映画(ドイツ・イギリス・ベルギーから資金も)。
主演のオランダ女優カリス・ファン・ハウテンが、ユダヤ人としてレジスタンス運動に加担。ナチス将校誘惑シーンでは愛撫される裸体も惜しげもなく見せ、終戦後ナチ協力者とし虐げられる糞尿まみれのシーンも、体当たりで演じていてその迫力に圧倒された。
ナチス悪、レジスタンス善と、単純にいかないところがgood。ナチスにもレジスタンス内にも私欲からユダヤ人を殺害し財産を自分のものとする裏切り者が複数いて、それが次第に暴かれていく。機を見て素早く連合軍に寝返るナチ将校は生き残り、私欲犯罪を糾弾し善人に見えた主人公が結局愛してしまったナチス将校は銃殺されてしまう。
連合軍が勝ってめでたしになるかと思いきや、オランダ住民たちはナチス協力者を虐待することに熱中。敵に内通していた医師は英雄として崇められ、口封じに主人公を殺害しようとする。そして、公証人さえも悪事に加担。敵も味方も転ばせる戦争の怖さと現実を、見事に描いていた。
そうした中で、したたかに相手をナチからカナダ兵士に切り替えしぶとく生き残る愛人業?ハリナ・ラインの姿が、共感を持って描かれていた。そう生き残ることは大事。
ラスト、イスラエルで夫と子供に恵まれ幸せそうな教師になっていた主人公に、また戦火が予見される。きっと彼女は生き残るのだろう、かっこい良い終わり方だ。
原案はジェラルド・ソエトマン(4番目の男等)、脚本はバーホーベン監督及びソエトマン。撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ(ナルシア物語/第二章等)、音楽はアン・ダッドリー(レ・ミゼラブル等)。
出演はカリス・ファン・ハウテン(ワルキューレ等)、トム・ホフマントム・ホフマン(医師)、セバスチャン・コッホセバスチャン・コッホ(独情報将校、ダイ・ハード ラスト・デイ等)、ハリナ・ライン(ナチスから連合軍に乗り換える愛人)、デレク・デ・リント(オランダレジスタント・リーダー)、ピーター・ブロック(オランダ・レジスタンス警官)、クリスチャン・ベルケル(ナチス高級将校)、ワルデマー・コブス(家族殺したナチス下士官)、ドルフ・デ・ブリーズ(公証人)。
怒涛の展開が続く
ストーリーの山、谷が何度もくるので目が離せない。
作中、優しくしてくれて信頼した人間に何度も裏切られる。序盤にスマールに人を信用しすぎるなというセリフが後半になるにつれ重く感じる。
ムンツェには生きててほしかったなぁ…。
最後にカイパースとエリスがハンスを棺に閉じ込め、窒息死するまで待ってる間に「本当は出してあげた方がいいのよね」「ああ」っていう会話から、2人はこの時ちゃんと冷静で、人として正しい行動が何なのか分かっていながら躊躇なくハンスが息絶えるまで待つあたり人間正しい事が分かっていても間違った方をあえて選択することもある。正しいことをしたくない、できない時もあるというのがリアルで感慨深かった。
取り返したユダヤ人のお金もユダヤ人のための施設に使われてて良かった。
山がありすぎて忙しいけど、伏線もちゃんと張って回収もできてるし結構良くできてる映画だと思う。
汚物まみれの歴史
下品過ぎると言われハリウッドを追われたバーホーベン監督。そんな彼が祖国オランダに帰って作った本作。大戦時ナチス占領下オランダのレジスタンスを描く。
「かつてハリウッドは、変態監督というレッテルをオレに貼った。この作品で、それを剥がして欲しいね!」
と監督は言っていたらしいが、大丈夫、全然剥がれてない。
歴史物の重厚さよりもバーホーベンらしさが際立った本作、「戦争昼メロだ!」と真面目なアメリカ人批評家を怒らせたりしている。レジスタンス物にオッパイも糞もいらないと思うが、入れてしまう所がバーホーベン。オランダ映画史上最高の製作費をかけた大作にもかかわらず、不謹慎な作風は健在。
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面白くて不謹慎なのと同時に、非常に真面目な映画だったと思う。
悪役がただただ欲まみれでスケベで底の浅いところが逆に怖い。状況が人を狂わせたっていうより、そもそもが欲塗れなんだっていう告発。
そして戦時だけではなくドイツ降伏後も続く憎しみ、裏切り。主人公が汚物をかぶるシーンが何とも印象的。
もう一つ印象的だったのは、ナチス高官の愛人ロニーの変わり身の早さ。時を経てキブツ観光するツラの皮の厚さ。こういう人物を悪びれず描けるのはバーホーベンならでは。
歴史の悲しさを通り越して、人そのものの習性を見つめた本作、見応えがあった。
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