「銃をどけるかキスするか」ブラックブック Kjさんの映画レビュー(感想・評価)
銃をどけるかキスするか
十字架をぐちゃぐちゃにする、のっけのシーンからしてやられる。オランダ人と匿われるユダヤ人の噛み合わなさ。宗教の違いだけではなく、オランダ人のどうもユダヤ人に対する侮蔑感が伝わる。ユダヤ人も逆に見下している感じがある。「この関係は金か?」そんな匂いがする。ユダヤ人を被害者としてだけで捉えない。金と宝石ふんだんに持って逃げる。携えているのはお口に合うお菓子。既成の構図によらないスタンス。ポールバーホーベンらしさ。それが全編に通じて満載。
ナチス崩壊前夜のオランダ。レジスタンスは多様。親玉は共産主義者。平和主義テオの存在も光る。対する、ナチス側将校は与えられた優位を漫然と享受しながらも、それぞれの生き残り戦略を図る。善悪は棚上げし、それぞれがその利害や考えに沿って、ただもがく。主人公は「自由になるのが怖い」と語り、それぞれが戦後に向かってダイブしていく。復讐の連鎖が渦巻き、波高し。溺れ死ぬ者と生き残る者。
理と知でマウントポジションをとる元大将に対し、情が爆発して首を締めにかかる元大尉。欲に押し切られそうになりながらも、機転で躱してバルコニーから飛び降りる主人公。ただただ、人柄で世渡りを果たす友人ロニー。いずれも圧巻の描き方である。
さまざまな伏線が張り巡らされ、サスペンス要素、エンターテイメント要素も高い。所謂体当たり演技・演出はブラックで強烈。終盤の私刑はその手口が凄まじい。
そして中東戦争を繰り返すイスラエル。苦しみに終わりはない。
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