マイアミ・バイス : インタビュー
「コラテラル」「ヒート」など、戦う男たちのドラマを描かせれば右に出る者のいないマイケル・マン監督の最新作は、自身がかつて手掛けた人気TVシリーズの映画化「マイアミ・バイス」。本作の製作秘話や、ハリウッドの実像を語るマイケル・マン監督のインタビューをお届けする。(聞き手:小西未来)
マイケル・マン監督インタビュー
「もしハリウッドが噂通りのろくでもない場所だったら、『マイアミ・バイス』は実現したはずがない」
――もともと「マイアミ・バイス」はTVシリーズとしてではなく、映画としてやりたかったそうですね。
「アンソニー・ヤーコビッチが書いた『マイアミ・バイス』のシナリオを初めて読んだとき、ぜひとも映画として撮りたいと思ったんだ。TVにはもったいないほどの出来でね。でも、すでにパイロット版としての製作が決定していて、どうしても覆すことができなかった。それで、映画で活躍しているスタッフを集めて、1時間映画を毎週作るようなスタンスで取り組んだわけなんだ」
――TVシリーズを2年やったのちに、あなたは映画監督として活躍を始めるわけですが、いまのように思い通りの作品を撮れるようになったのは、いつからですか?
「『ラスト・オブ・モヒカン』の公開後かな。あれ以降は、自分の映画企画を通すのが非常に楽になった。いまではむしろ、次になにをやるか決断するほうが難しいくらいだよ。幸いにも、わたしの監督作品はビデオやDVDでの寿命が長くて、『ヒート』なんていまだに人気がある。だから、スタジオ側にとっても、わたしに映画を撮らせることは、理にかなったことなんだよ」
――ハリウッドで、あなたのように作家性の強い映画を撮るのはやはり困難なことなのでしょうか?
「それは違う。幸運にも、素晴らしい重役と知り合うことが出来たからね。彼らはわたしに敬意を払ってくれるし、素晴らしい助言もくれる。ユニバーサルのマーク・シュマガー社長やステイシー・スナイダー元社長、ドリームワークスのウォルター・パークスや、ジェフリー・カッツェンバーグもね。カッツェンバーグなんて、70年代からの知り合いだし」
――本当ですか?
「ドン・シンプソン(有名プロデューサー)のアシスタントだったんだ。彼がニューヨークからロサンゼルスにやってきてまだ一週間も経たないうちに、わたしは遭遇してるんだ。とてつもなく下品な赤色のポルシェに乗っていた。ありゃ、確実にレンタカーだな(笑)」
――あなたは弱点を握っているわけですね(笑)。
「その点じゃ、いろいろ恵まれているね(笑)」
――あなたの作品にはつきものの詩的な映像表現に関して、スタジオから「意味がわからん。カットしろ!」と指示されることはないんですか?
「第一に、わたしは映画のファイナルカット権をもっている。だから、編集におけるすべての決断はわたしにまかされている。第二に、スタジオの重役たちも、実はこういうショットが大好きなんだよ。たとえば、わたしは映画をもっとタイトにするために、いくつかのシーンをカットした。すると、連中は『やめてくれ!』って言ってきたんだ。『あのショットが大好きだったのに!』って(笑)」
――立場が逆転してますね(笑)。
「その通り(笑)。ハリウッドにはいろんな噂があるけれど、事実でないこともたくさんある。もしハリウッドが噂通りのろくでもない場所だったら、『マイアミ・バイス』が実現したはずがない。なにしろ、子供向けの大作映画がひしめくなかで、R指定の映画を作らせたんだから。PG-13指定の無難なアクション映画や、家族向けコメディがひしめくサマーシーズンに、セックスとバイオレンスで満ちたR指定映画をぶつけていくなんて自殺行為にも等しい。でも、映画のビジョンを詳しく説明したら、彼らはダイスを転がす覚悟を決めてくれた。あまりないことだし、とても感謝している。あとは、映画がちゃんとヒットして、彼らが製作費を回収してくれることを祈っているよ」