劇場公開日 2006年12月9日

「本作とともに梯久美子著「散るぞ悲しき」を読むと万感こみ上げる」硫黄島からの手紙 てつさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作とともに梯久美子著「散るぞ悲しき」を読むと万感こみ上げる

2024年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

「地獄の中の地獄」であった硫黄島の闘い。
米軍人ならこの戦場で応召兵が多くを占め、精鋭部隊とは言い難かった日本軍人たちがいかに勇猛果敢な戦いぶりを見せたことを知らぬ者はいなかった。
「イオージマソルジャー」であると知ると、捕虜となった日本兵へ畏敬の念さえ見張りの米兵は見せたという。
本作の主人公は、帝国陸軍中将・栗林忠道。
映画の作中には直接的な描写は出てこないが、彼は陸軍中将という大変な高位の軍人でありながら、硫黄島に死を覚悟して赴任すると島内を毎日のように巡視して、栗林を見たことがない硫黄島兵士は少ないというくらいだったようである。2万以上の日本兵がここで闘い、そのほとんどがこの地で命を落としているが、彼らの「日本本土を守る」という決意は大変なものであったようだ。
栗林はヒューマニストであった。
島内に圧倒的に足りないのは飲み水と野菜。ある時、野菜がひと籠栗林のもとに届けられると、「将軍は目に涙、小刀で雀の餌ほどに細かく野菜を刻ませ、出来るだけ多くのものに分け与えられた。将軍自身は一口も召し上がらず、昭和の乃木将軍かと深い感銘を受けた」と「散るぞ悲しき」にはある。
監督のクリント・イーストウッドはかなりの年齢まで反日家であったようだが、栗林中将のような人物の人格を知り、だんだん考えを改められたようである。
イーストウッド氏曰く「戦争映画は人間性に焦点を当てて描かねばならない」とのことで、本作は日本人の心情をアメリカ人である彼がよくここまで描いてくれたと思うほど感動的なものである。
是非、この名作を多くの人にご覧いただきたい。また、原作と言ってよい内容の「散るぞ悲しき」は文庫化されているので、こちらも是非。

てつ