硫黄島からの手紙 : インタビュー
「硫黄島からの手紙」バロン西役
伊原剛志インタビュー(2)
――米兵が「あなたがバロン西なら、殺さないから投降してくれ」と言ったという、伝説的に語り継がれているバロン西の死に際ですが、あそこは本編ではカットされてましたね。
「あれは、実際にそういう話があったかどうかはわからないし、どう亡くなったかもわからないんです。息子さんも分からないし、遺骨もないわけですからね。ただ、青山墓地にある西家の墓には、洞窟の中で発見されたブーツが入っているらしいですよ」
――「バロン西は自ら命を絶たない人間だと僕は考えていた」と会見で仰っていましたが、どういった経緯であの自決シーンを撮ることになったのでしょう?
「あれはシナリオ通りだったのですが、やはり最期に自決を決意するまでの意味付けが必要だと思ってました。目をやられ、自分が足手まといになり、そうせざるを得ないところまで追い込まれた上で、さらに自分の部下に道をつくってあげないといけない。そして、そのあとに自決という風にもっていかないといけないと思っていたんです。『自分の正しいと思う道が、自分の正義なんだ』というセリフはまさにそうだと思うんですよね」
――イーストウッド率いるマルパソプロダクションはワンテイクしか撮らないで、撮影がどんどん進んでいくそうですが、とまどいはありましたか?
「それは、ありましたよ。すごい緊張感を持って臨まないといけないということですよね。でも全員が穏やかで、ゆったりとして紳士的な現場でした。僕ら日本人キャストのこともとても暖かく迎えてくれたし、ある種、認めてくれましてね。あとから聞いて分かったんですけど、クリントは、キャストは自分でビデオを観て自分で決めたみたいです。『おれが、お前たちの芝居を観てこの役に選んだんだ』と言ってくれました。演技しているところが大事で、役者本人にはあまり会うことはないと言ってましたね。僕の場合は『半落ち』を観てくれたみたいです。衣装なんかでも、ちょっと意見を言うと何パターンかの衣装を用意してくれます。靴も資料を持っていって、バロン西はエルメスのブーツを履いていたとか話すと、いろいろ用意してくれましたね。あと頭髪に関して言うと、彼は社交上の関係で、国際的なパーティとかに出るようなことが多かったので、坊主よりも伸ばしていた方がいいということで、実際には坊主ではなかったそうです。で、髪を伸ばしたまま衣装合わせをしたところ、あまりにも格好良くて、バロン西の戦地に赴く覚悟がお客さんに伝わらないのではと思ったので、謙さんとも話して坊主にしました。日本軍人の気持ちをどこかで表さないと、衣装に負けてしまうと思ったんです」
――初のハリウッド映画とあって、JACの師匠、先輩筋にあたる千葉真一さんや真田広之さんから話を聞いたりはしたのですか?
「行く前に真田さんから電話がありました。『ハリウッドっていっても、自分の思ってる芝居とかをやれば、そんなに大きく変わらないから。ビックリすることはいっぱいあるだろうけど、今までお前がやってきたことをそのままやれば大丈夫だと思うよ』と話してくれました。あの人は先に行ってやってるし、僕がすごく尊敬する俳優ですから、なんか嬉しかったですね。やっぱりこれを機会に、チャンスがあれば向こうでもやっていければとは思ってます」