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ロックンロールを愛する高校生が巻き起こす大騒動を描いたミュージカル・コメディ『ロックンロール・ハイスクール』シリーズの第1作。
パンクバンド「ラモーンズ」に心酔する女子高生リフは、仲間たちと共にご機嫌な学園生活をエンジョイしていた。しかし、風紀の乱れを問題視した新任の校長トーガーは、その原因がロック・ミュージックにあると考えそれを厳しく統制する。そんな生徒と教師の対立により混沌極まった学園に、なんとラモーンズ本人が現れ…!?
ヘイ・ホー!レッツゴー!!ヘイ・ホー!レッツゴー!!
世界中のロックファンから崇拝される最強のパンクロックバンド、我らがラモーンズ。1976年2月にシングル「電撃バップ」でデビュー、1996年にメンバー間の不仲から解散するもその影響力は衰えを知らず、今なおフォロワーを増やし続けている。
本作はそんな彼らの存在を支柱にして、「ロックによる束縛からの解放」というテーマを高らかと謳い上げた快作である。
プロデューサーは「B級映画の帝王」ロジャー・コーマン。コーマンは当時バズっていた「ディスコ」を題材にした学園映画を作ろうと計画していたのだが、それにNOを突きつけたのが本作の監督、アラン・アーカッシュ。
『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964)がキッカケで映画監督を志す様になったという彼は、ニューヨーク大学在学中にはあの伝説的ライヴハウス「フィルモア・イースト」でバイトをしていたという筋金入りのロックバカ。作中に登場するレコードは全て彼の私物である(ちなみに炎を着けて燃やしたレコードも全て彼のもの。ロックバカである以上に映画バカなのだ)。「ビージーズじゃティーンエイジャーのハートは燃えないんじゃー!!」と、この企画に猛反対した彼はニューヨーク市内の高校の学園祭に忍び込み、その学祭ライブの模様を撮影。その熱狂ぶりを伝える事でコーマンを説得し、念願のロックンロール映画の監督に就任したのである。
ちなみにその時のライブのパフォーマーはエルヴィス・コステロとニック・ロウだったんだとか。そんなん盛り上がるに決まってるだろっ!!
本作が撮影されたのは1978年末。最もエネルギーに満ちていた時期のラモーンズの姿がカメラに収められているというだけで、この映画には莫大な価値がある。
パンクムーヴメントの先駆者として、その後のポップミュージックシーンを永遠に変えてしまったラモーンズだが、実は商業的に成功したとは言い難い。最も売れたアルバム「エンド・オブ・ザ・センチュリー」(1980)ですら、全米ビルボードランキングでは40位程度までしか登る事は出来なかった。今でこそパンクは人口に膾炙しているが、当時は一部の酔狂なロックファンにしか受け入れられていなかったのだ。
そんなわけで、実はこの映画に登場させるバンドの第一候補はラモーンズではなかったらしい。ディーヴォ、ヴァン・ヘイレン、チープ・トリックといった新進気鋭の若手からトッド・ラングレンの様な脂が乗ったスターまで、多くのアーティストがその候補に上がっていたという。中でも最も有力な候補だったのがチープ・トリック。ほぼ彼らで決まりっ!というところまで話は進んでいたのだが契約金5万ドルが払えないという事で御破算に。この辺のケチくささは流石コーマンである。
その代わりとして白羽の矢が立ったのがラモーンズだった訳です。彼らの契約金は2万5,000ドル。しかもこの金額の中には、ポール・マッカートニーやブライアン・イーノ、ヴェルヴェッツ、アリス・クーパー、フリートウッド・マックといった有名アーティストたちの楽曲の使用料も含まれていたという。インタビューで監督が「今なら音楽使用料だけで150万ドルは掛かるだろうねガハハッ」と語っていたが、それも納得の顔ぶれである。とにかく、この金額の安さに当時のラモーンズの立ち位置というか、レコード会社からの期待度が表れている様に思う。
…もしこの映画がラモーンズじゃなかったら、今ほどの評価は得られてなかっただろうなぁ。というか、ラモーンズ以外ではこの物語は成立しない。ディーヴォで高校生が熱狂するのか?
チープ・トリックへの契約金が払えなかったという逸話でも分かる通り、本作は27万ドルというかなりの低予算で制作されている。当時の映画制作費最高金額は『スーパーマン』(1978)の5,500万ドルであり、これはその200分の1以下。如何に安い映画だったのかが分かる。
しかし、本作のクオリティに安っぽさは一切ない。今観ても全く古びていないどころか、むしろゴージャスにすら感じられるから凄い。
これは、もちろんラモーンズというスーパーレジェンドのおかげな訳だが、参加しているスタッフが超優秀だった事も大きく影響しているだろう。
例えば、過労によりぶっ倒れてしまったアーカッシュ監督のヘルプに入ったのは後に『グレムリン』(1984)を撮るジョー・ダンテだし、撮影監督を務めるのは『ジュラシック・パーク』(1993)や『アポロ13』(1995)のディーン・カンディ、視覚効果は『ロボコップ』(1987)や『トータル・リコール』(1990)のロブ・ボッティン。更に、ジェームズ・キャメロンやロン・ハワードといった後のオスカー監督たちもアシスタントとして現場をチョロチョロしていたというのだから、つくづく「コーマン映画学校」の人材の厚さには驚かされる。彼らの技術とラモーンズのスター性が融合した事により、本作のみが有する特別な輝きは生み出されているのだろう。
ラモーンズ以外のキャラクターも良いっ!
主人公リフをはじめとして誰1人として負の属性を背負った人物は登場せず、一貫して明るく爽やか。悪役であるはずのトーガー校長までコメディリリーフとして描かれているので、肝心のリフと校長の対立構造が弱くなってしまっていると見る事も出来るが、それを責めるよりも作品の荒唐無稽さを高めるためにどこまでもバカバカしい方向性に舵を切った脚本の大胆さを褒めたい。ちなみに、トーガー校長を演じたメアリー・ウォロノフは映画の様な堅物とは正反対の人物で、あのヴェルヴェッツの後ろでダンサーとして踊っていたという経歴の持ち主。完全にコッチ側の人間なのです。
ラモーンズパワーでパンク化してしまったネズ公や、学校のトイレで怪しい商売をするイーグルバウアー(演じるクリント・ハワードはロン・ハワードの実弟)、会話がつまらなすぎて女にモテないアメフト部の主将トムなど、80's少年漫画的なノリで突き進む脇役たちのキャラクター造形も味わい深く、どいつもこいつもいつまでも愛でていたいほどチャーミング❤️学園コメディってこういう事だよなぁ、と再確認させてくれた。
学校を爆破してしまうという過激なエンディングには非難の声もあった様だが、そうでなくてはロックンロールを主題とした意味がない。いつの時代だって、ロックを聴く様な学生は「学校がぶっ壊れたら休校になるのに…」なんて空想しながら授業をサボって陽の当たる場所にいたんだよ寝転んでたのさ屋上でタバコの煙とても青くて…とこういうもんだと相場は決まっている。
鬱屈した学生のモヤモヤを良い子ちゃんな歌や物語でお為ごかしにするのではなく、それはそういうもんなんだと受け入れくれる。その優しさこそがロックンロールの本質。本作の学校爆破はそれを見事に映像化してみせた。これこそLOVE&PEACEだぜベイベー♫
なんのかんのと書き綴ってきたが、「シーナはパンクロッカー」で幕を開ける映画が悪い訳がないんだよね。
コーマン映画特有のお下劣なギャグには乗り切れない部分もあるのだが、ご機嫌なロックンロール・ナンバーのおかげで終始サイコーにアガッた気分になれたし、占領した学校で歌い踊る「ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス」にはそのあまりに多幸感についつい落涙😭本当、ロックンロールって最高だ…。
カルト映画として根強い人気を誇る作品だが、その理由も分かる。いつまでも古びることのない青春パンク映画のマスターピース✌️ロックンロールとは何かを知りたい者よ、まずはこの映画を観よ。話はそれからだ!
ガバガバヘイ!ガバガバヘイ!ガバガバヘイ!ガバガバヘイ!
余談だが、本作が公開された1979年にはもう1本忘れがたいロックンロール映画が公開されている。ザ・フーの「四重人格」(1973)を原作とした『さらば青春の光』である。
同じロックンロールを題材にした映画でも、アメリカはパンクでバカバカしく、イギリスはダウナーで破滅的。お国柄がはっきりと表れていてなかなかに興味深い。この2本を同時上映する企画とかあったら面白いかもね。