赤ひげ

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劇場公開日:

解説

原作は山本周五郎の「赤ひげ診療譚」。江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描く。長崎で医学を学んだ青年保本は、医師見習いとして小石川養生所に住み込む。養生所の貧乏臭さやひげを生やした無骨な所長赤ひげに反発する保本は、養生所の禁を犯して破門されることすら望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさに触れ、また彼を頼る貧乏人に黙々と治療を施すその姿に次第に心を動かされていった……。

1965年製作/185分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1965年4月3日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第26回 ベネチア国際映画祭(1965年)

受賞

ボルピ杯(最優秀男優賞) 三船敏郎
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映画レビュー

5.0人間とは、生きるとは、死ぬとは。

2024年12月3日
PCから投稿

絶望もあるが希望も勇気もある。
いつ観ても「上手いな」と感心する。

実際 物語の中に入り込み
実際 その時代で生き
実際 見聞きした
彼らの人生、と思うほど

演技、風景、照明、
キャメラ位置、
音楽の入れ方など、
その場の雰囲気、
空気や風を感じられる。

人間の居る映画は珍しく
死ぬ前に観たい映画のひとつ。

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星組

5.0ヒューマニズム溢れる医者達の話

2024年9月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

萌える

感想

小石川養生所の門前に一人の男が歩いてくる。男の名は保本登。幕府の御典医の紹介で長崎で三年間、オランダの最新医術を学び研鑽を積み遊学していた。遊学後は御目見医職を紹介拝命する予定であるが父親に勧められ、たまたま養生所の見学に来てみたのであった。所内を医員である津川玄三に案内してもらい所長の新出去定(赤ひげ)に挨拶をする。

津川の話によれば赤ひげは大名諸侯や富豪には名が通っていで信奉者も多く、治療は熱心で医術の腕も確かであるが、その行動は独善的で独栽者のような極端な振る舞いが多く最近は皆から鼻摘み者の烙印をおされているという。

新出は所長部屋に入り正座した保本を本質を見定めるように見つめる。保本が自己紹介するも尚、顔を洞察し続ける。思わず目を逸らす保本。沈黙の後、唐突に「赤ひげだ。本名は舌を噛みそうな名前でな。新出去定。お前は今日から見習いとしてここに詰める。それから長崎遊学中の筆記や図録を全て我の手元に差し出せ。」

保本は躊躇して一旦出直したいと希望するも荷物の送り受けも済んでいるとし、それ以上は話に掛け合う事は無かった。津川は次に医局の森半太夫を紹介する。半太夫は「ここは大変な事も多いがその気になれば勉強になる事も多い」という。

保本は一方的で無理矢理な流れで養生所の見習いとなった事を認めず、赤ひげの命に背いていたが、ある日、赤ひげと共に余命幾許もない意識のない患者の診察をする。保本の診察では後、半刻程の命であるという。赤ひげは診察は正しいとし、病歴を観て病名を答えろと言われ、胃癌と答えるも赤ひげは否定、膵臓癌が正しいとする。自覚症状が無く判った時は手遅れの場合が多い。病例がごく稀なのでよく憶えておけという。

赤ひげは言う。あらゆる病気に対しての治療法はない。医術などと言っても情け無いものだ。医者にはその症状と経過は判る。生命力の強い個体には多少の助力をすることが出来る。だがそれだけの事だ。現在、我々に出来る事は貧困と無知に対する戦いだ。それによって医術の不足を補う他は無い。貧困と無知との戦い。それは政治の問題だと言う者も多い。誰もがそう言って澄ましている。だが、政治がこれまで貧困と無知に対して何かした事があるか。人間は貧困と無知のままにしておいてはならんという法令が一度でも出た事があるか。しかし問題はもっと以前にある。貧困と無知さえなんとかなれば病気の大半は起こらずに済む。否、病気の陰にはいつも人間の恐ろしい不幸が隠れている。その隠れている不幸をも察して観続ける。その事に対して人として、医術者として何が出来るのかを考え実践していく事が我々に課せられた使命であるのだ。

保本は単なる医術知識だけでは無い、生きた本当の医療の意味を赤ひげを通して学んでいく事になる。患者と生きた医療を学ぶ事により、人間的にも成長していく様が描かれる。養生所に入所している様々な患者、また運ばれてきた患者や往診先での市井の中で病や生活に苦しむ者、それぞれのこれまでの人生やそれを取り巻く人間模様が、病気や怪我そして死というフィルターを通して濾し出されていく様子をそれぞれのエピソードとして描き出す。新出(赤ひげ)の人間性に溢れる医療分野をも越えた社会の中での生き様とも言える時々の判断や決断を見事に描写している。

医学の分野で基礎医学と臨床医学、それぞれの医療や研究があり、医療の現実的問題は諸々あると思うがこの映画を観ると特に臨床医療というものの重要性を感じる。人間性に根ざした医療とは何か。時代を超えてなお変わらない医療の本質とは何かを本作は問いかけている。

原作 山本周五郎
脚本 井手雅人 小國英雄 菊島隆三 黒澤明

主演 三船敏郎 加山雄三 山崎努
共演 団令子 香川京子 桑野みゆき 二木てるみ
   土屋嘉男 東野英治郎 志村喬 笠智衆
   田中絹代 杉村春子 左卜全 菅井きん 他

オールスターキャストの豪華な配役陣。

狂女役の香川京子氏の鬼気迫る演技、佐八役山崎努氏、長次(長坊)役の頭師佳孝氏、おとよ役の二木てるみ氏、各氏それぞれの演技が卓越して秀逸であり監督の演出と相俟って人間心理の複雑さ、恐怖や悲しみの涙を誘い感動する。

⭐️5

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共感した! 11件)
Moi

4.5☆☆☆☆★★ 当時、本人自ら「僕の集大成」と語っていた通り。黒澤ヒ...

2024年3月19日
iPhoneアプリから投稿

☆☆☆☆★★

当時、本人自ら「僕の集大成」と語っていた通り。黒澤ヒューマニズムと、当時の日本映画界の叡智を集約して描かれるダイナミズムな映像美。そしてその娯楽性溢れた全てに称賛を浴びせたくなる完成度。

…とは言え、観た人の全員が諸手を挙げて大絶賛したか、、、と言うとそうではなく。まあ、多少の(どころか、多いなる)やっかみが入り混じりその評価が真っ二つに割れた。
当然【賛】の方が多かったが。それを凌駕する程の強い【否】の声は、作品にとって不幸な出来事だったのだと、今改めて思う。

完成当時、黒澤55歳。製作に2年以上掛けているから、まさに映像作家としては脂が乗り切っている時期だったと思う。
『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』を経ての今作。
有り余る自身の内から湧き上がるパワーは。当時の日本映画界ではせき止める事が叶わない程に膨れ上がり、結果的に(製作費の高騰や撮影日数の超過等)東宝との軋轢を増すだけとなる。

以前から自身のプロダクションを持ち、東宝との立場を対等にするも。それが故に周りから〝 天皇 〟扱いをされ、(芸術家としての拘りから)完全主義に拍車がかかる。
最早、日本映画界に居場所なし…とばかりに。その製作意欲、作品としてのスケールは日本を飛び出しハリウッドへ。
しかし…次から次へと押し寄せるハリウッドでの壁に行く手を阻まれ、遂には(問題が多過ぎるので省略につぐ省略します)自殺未遂。

その後も映画製作は続けたものの。稀代の映像作家である黒澤が、人生に於いて1番製作意欲を持っていた時期。その余りある芸術家としての力量を、遺憾なく発揮する事が叶わなかった事実は、悲しい現実として日本の映画界に重くのしかかる。

…等と、主にネット請け売りの知ったかぶり極まりない蘊蓄を中心に書き込みつつ。この名作に対して、ほんの少しばかりの文句を付けながら簡単な感想を、、、って、前フリが長い割にはちょっとだけかよ!と💦

今回で劇場鑑賞は3回目。
またしてもラストでは号泣してしまった訳ですが、だからと言って《完璧》な作品だとは思っていない。基本的にはエピソードを羅列して行くオムニバス形式だけに。それまで登場していた人物達の〝 その後 〟の中途半端な描かれ方に違和感があり、少しだけの不満はどうしても残る。
それらのエピソードの繋ぎ方であったり、少しずつ若い青年医師の成長に合わせた赤ひげの立ち振る舞いと、(黒澤)ヒューマニズムを追求した脚本から発せられるその説教臭さも加えて。

しかしながら。昨今の映画の長尺さには、ついついうんざりしてしまい。何度も欠伸をしながら観てしまう場合が多いのに。この『赤ひげ』ではあっという間に前半が終わってしまう。
正直に言うと、山崎務のエピソードが少々長くクドい印象は否めないのだけれど。そんな不満を凌駕する(6台の同時撮影と言われていたが)多数のカメラを同時撮影させて演出する、黒澤特有の撮影方法で醸し出される緊張感。
更には《光と影》を巧みに操る照明・美術・衣装・編集等。一流のスタッフが作り出す時代の空気と、それに呼応する役者陣の頑張りに魅力され気が付けばインターミッションへ。

前半の約1時間50分。
休憩を挟んでの後半が約1時間10分。
合わせて3時間と言う時間が一気呵成に駆け抜けて行く。
特に前半のハイライトにあたるアクション場面を経て後半への期待感を一気に高め。後半ではおとよと保本との信頼関係を築く過程に固唾を呑む。
ちょっとだけの重たさに心離れそうになりそうに至るその時に訪れる泣き笑いのクライマックスへ。
その序章は大根で頭カチ割られる大女優杉村春子の素晴らしさ。

保本とおとよ。
おとよと長次。
おとよと4人のお手伝い、おふく・おかち・おとく・おたけ。
保本とまさえ。

全てのエピソードがスンナリと収まって、、、とは言えないところは正直にはある。
前半での香川京子の狂女の話は唐突気味に終わるし、後半の主役の1人のおとよのその後をはっきりと描かれていなかったり…と言った、ほんの少しの不満はどうしても残る。

しかしそんな不満すらも映画は一気に吹き消してしまう。
保本の心にわだかまっていた呪縛を解き放つエピソードが最後に訪れる。

「おまえはバカだ!」

「…!?💡…お許しが出たのですね!」

この短い台詞で、師弟の信頼関係を表現し。観客に大いなる多幸感を与えるラスト。
その結果、全ての不満点は一気に解消させられてしまい。この見事な結末の締め方で、観客の心を鷲掴みにしてしまうのだ。

「これで良い。これで良い。」

1984年 11月17日 ニュー東宝シネマ1

2018年1月29日 TOHOシネマズ/日劇2

2021年10月13日 TOHOシネマズ錦糸町オリナス/スクリーン6

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松井の天井直撃ホームラン

5.0Dr.アカヒゲ小石川養生所

2023年6月7日
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泣ける

興奮

幸せ

黒澤明監督の情熱がヒューマニズムという形で画面いっぱいに炸裂した名作だと思います‼️まず東宝のマークが現れると同時に流れ出す佐藤勝さん作曲の素晴らしいテーマ曲‼️もう金縛りにあって動けません‼️加山雄三さん扮する保本が養生所に赴任、同僚との会話で江戸の医療の実態と養生所の内情を観客に完璧に把握させる話術の妙‼️重厚な六助(藤原釜足さん)の臨終シーン‼️窓を開けると雪が溶けており、それが保本の心の雪解けを表すスゴい演出‼️山崎努さんと桑野みゆきさんが初めて出会う雪のシーンの美しさ‼️岡場所で赤ひげが、一瞬の間に十数人の用心棒を叩き伏せる立ち回り‼️杉村春子さんへの大根攻撃‼️おとよたちが井戸の底に向かって長坊の名を叫ぶシーン‼️黒澤明監督の演出も完璧だし、「用心棒」の宿場町のセットと並ぶ養生所や江戸の町並みのセットも完璧で、赤ひげ役三船さんの演技も素晴らしい‼️なんか民衆の息づかいが聞こえてくるような江戸時代の雰囲気が出ているし、黒澤監督もデビュー作「姿三四郎」から前作「天国と地獄」までで見せた作風の集大成のような素晴らしい名作だと思います‼️でもこの作品以降、黒澤作品は変わってしまいました。三船さんが出ない、カラーへ、そして海外進出。ラストの赤ひげのセリフ・・・"お前は後悔するぞ "・・・これは三船さんを起用しなくなった黒澤監督へか、または黒澤作品へ出演しなくなった(三船プロの経営で忙しかった?)三船さんへか、はたまた製作費がかかり過ぎる黒澤作品製作を渋るようになった日本の映画製作会社へか?そんな気がしてなりません。とにかく日本映画史、いや世界映画史において "赤ひげ以前、以後"という言葉は確実に存在する・・・

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