赤ひげ

ALLTIME BEST

劇場公開日:1965年4月3日

解説・あらすじ

原作は山本周五郎の「赤ひげ診療譚」。江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描く。長崎で医学を学んだ青年保本は、医師見習いとして小石川養生所に住み込む。養生所の貧乏臭さやひげを生やした無骨な所長赤ひげに反発する保本は、養生所の禁を犯して破門されることすら望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさに触れ、また彼を頼る貧乏人に黙々と治療を施すその姿に次第に心を動かされていった……。

1965年製作/185分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1965年4月3日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第26回 ベネチア国際映画祭(1965年)

受賞

ボルピ杯(最優秀男優賞) 三船敏郎
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映画レビュー

4.0「政治が、貧困と無知に対して何かしたことがあるか!」

2025年6月16日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

『赤ひげ』を観終えて、まず感じたのは「黒澤明が問いを失ってしまった」という喪失感でした。これまでの黒澤作品が「世界への問いかけ」に満ちていたのに対し、この映画にはすでに「答え」が用意されている。赤ひげという全能的な医師が倫理と正義の体現者として君臨し、その周囲の人々──とくに若い医師・保本が、その「正しさ」を受け入れていくという物語。言い換えれば、これは「学びの物語」であって、「問いの物語」ではありません。

黒澤映画に特徴的だった「どう生きるべきか」「何が正義なのか」「何が真実なのか」といった根本的な問いは、ここにはない。観客が登場人物とともに悩み、揺れ、問いを深めていく構造がこの作品では機能していない。すでに完成された倫理世界が広がっており、観客はそれをなぞるしかないのです。

これは黒澤の才能があまりにも突出していたがゆえに、もはや対話者を持てなかったことの帰結かもしれません。『赤ひげ』という作品は、黒澤が自らの理想像を主人公(赤ひげ)に投影し、その“答え”をひとり語りしているようにも感じられました。その語りは決して嫌味ではなく、むしろ誠実で力強い。しかし、観客に開かれた問いを失った瞬間、作品は閉じた世界になってしまう。

たとえば、保本は中盤で自己像の崩壊を経験し、実存と実在の乖離に打ちのめされます。これは非常に哲学的で、興味深い転換点でした。しかし、その苦悩はあくまで物語の枠内で処理され、観客には飛び火してこない。本人が勝手に回心し、物語が完結するのです。そこに“共鳴”はあっても“共苦”はない。

また、全体のエピソード構成もややバラつきがあり、連作短編のような印象を受けます。狂女の香川京子、絵師の六介、佐八とおなか──それぞれに独立した物語があるにもかかわらず、全体の主題と統一されずに終わる印象です。

とくに女性キャラクターに関しては、黒澤の長年の課題が露呈します。香川京子の演じる狂女は情念やエロスがまったく描かれず、演出も表層的。おなかの自死的な愛情表現も、情動としては成立しておらず、“事件”として処理されています。おとよに至っては、あれだけ濃密な関係性でありながら、恋や性的な感情が完全に排除されており、もはや非現実的。原作との違いはあるにせよ、「少女の成長譚」として描くには、あまりに倫理的すぎて不自然です。

この映画は人間の不幸や貧困をテーマに据えていますが、その根底にある情念や葛藤、矛盾といった“人間の複雑さ”には最後まで踏み込まなかった。そのため、どうしても「良くできた道徳劇」のような印象が残ってしまいます。

総じて、『赤ひげ』は黒澤明の誠実な“答え”の提示ではありますが、“問いの映画作家”としての黒澤明を愛する観客にとっては、少々物足りなく、観終わったあとに残らない作品になってしまったかもしれません。

U-NEXTで鑑賞 (HDリマスター)
80点

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neonrg

5.0訳もなく涙が・・・

2025年4月13日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

楽しい

おとよが保本を看病します。
保本とおとよのやり取りは見ごたえたっぷりです。
この間は確か音楽は無かったと思います。
徐々におとよの荒れた心が良くなっいくなかで
おとよが窓を開けると雪がハラハラと舞うシーンがあるんです。
その刹那、絶妙のタイミングで音楽が流れる・・・
これ、感動しました。
めちゃくちゃ感動しました。
訳もなく涙が出ました。
黒沢監督が生きていたら伝えたい出来事でした。

何十回と見てきた映画なのにまた新たなツボにはまるシーンが出来ました。

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yukikaze

4.5赤ひげ先生は立派な本物の医者

2025年3月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 録画を鑑賞。
 赤ひげ先生(三船敏郎)のアクションシーンが終わって 残り約1時間のところで、そこで終わっても決して不自然ではないが「~休憩~」!
 黒澤明監督は、人の生理現象のことを考慮している。
 休憩後は、主人公の青年(加山雄三)の成長物語の締めに ふさわしいエピソードが待っている。

 江戸時代なんてのは、ほとんど想像の世界である。キューブリック監督が「2001年宇宙の旅」(1968年公開)で "地球よりはるかに大きい宇宙空間を移動する未来"(という想像の世界)を舞台にし メッセージ性の強い映画を製作したように、黒澤明監督は 現実ではない場所ゆえに 伝えたいメッセージを存分に込めることが できたのだろう。

 現代の ほとんどの病院は、患者イコール顧客で、商売と なんら変わらないシステムを採用してるため、患者が いなくなったり薬が売れなくなると倒産してしまう。
 赤ひげ先生は 商人ではない立派な本物の医者だ。そんなことを考えさせられた。

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Don-chan

4.5おとよ🥲

2025年3月2日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」をもとにした黒澤明監督作品。加山雄三に似てるなと思ったら、加山雄三だった。
お仕着せがましいのお仕着せ。押し着せではない。勉強になった。
江戸中期に幕府が運営する無料診療所ができた。目安箱に投書した漢方医小川笙船が赤ひげ先生のモデル。小石川養生所に隣接して小石川御薬園の看板が。小石川植物園の前身。
おとよ役の二木てるみさん。
まるで夜行性動物のような目付きが穏やかな目にかわってゆく。12歳ぐらいの子役かと思ったら、当時すでに16歳だったようだが、それでも素晴らしい。
親身になる保本がおとよに好意を抱かれるのは危険でもあるが、うまく長坊の話につないで、涙を誘う。女郎屋の女将の杉村春子の憎々しい役の演技もさすが。

小石川は文京区。
日本医師会も文京区。
赤ひげ先生は架空の人物なのに、あたかも現存しているかのようにうまいこと宣伝に使われているような。 大塚にある強精剤専門のあ◯ひげ薬局のほうが庶民には親しみが😎
3時間の長編で休憩が挟まれるのも、前立腺肥大に優しい。

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カールⅢ世