「色がついていく喜び」ベルリン・天使の詩 マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)
色がついていく喜び
この作品の色調は、ある程度の展開まではモノクロをメインに進行する。しかしある瞬間から世界に色が付き始める演出になる。この「色が付く」という描き方は、まるで世界が生まれ変わるような感動を体験することができる。
メインキャラクターの側は、まるで時間が止まっていて、我々との時間軸が異なっている存在だ。人間との距離は近いのに、生身の存在には触れることができない。まるで幽霊かのように。
そんな世界の存在の一人である主人公が人間の生活に触れていくにつれ、人間に憧れるようになる。
物語の中盤から彼は、その憧れていた人間に変わり、その世界に入りこむ。そうすると、白黒だった画面が息を吹き返したかのように色鮮やかなカメラに切り替わるのがとても味わい深い。
今まで触れなかったものが触れる。掴めなかったものの感触が分かる。味わえなかったコーヒーが飲める。出来なかったことが出来るようになる。
画面が色づくにつれて以前出来なかったものが「できるようになる」という感覚が視覚的に分かるようになるのがとても素晴らしい。
そして人間となった彼が日常を楽しんでいる喜びのようなものを観ることができる。
最初は誰しも何もできない状態で生まれてくる。しかし今までできなかった物ができるようになったときは達成感があるが、それが慣れるにつれて味気ないものに変わっていく。最初は色がついていたものが徐々に抜けていくように。
しかし彼のように、目の前のことを楽しむという意識を持つだけで、もしかしたら慣れたことでも色がついたもののように楽しめるようになるかもしれない。
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