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◯作品全体
映画における尾行シーンは、早い段階で尾行が有効なものか、逆効果になってしまったのか判別がしやすい。尾行する側だけにカメラを置いていれば相手は気づいていない可能性が高いし、尾行されている側にカメラを置けば尾行する側に気づいているという演出になる。カメラをどこに置くか、登場人物がどういう反応をするかで、そのあとの結末が予測しやすい。もし先に述べた演出がそうでなかったとしても、尾行が成功したのか失敗のかは次のシーンですぐにわかってしまうものも多い。
尾行は緊張感を作り出せるけど、巧く演出しなければ結果が先読みできてしまう退屈な場面になりかねない。大体が同じ動きだから、アクションも限定されるしカメラワークも工夫しづらい。尾行シーンが面白いと思える作品って、実はそうそうない。
しかし、本作の尾行は一味違った。
まず、尾行の成果が非常にあいまいだ。これは人によって退屈になる一因かもしれなけれど、個人的にはそのあいまいさが先行きの読めなさに繋がっている気がして、とても楽しめた。警察側が複数名で注意深く尾行しても、関わりのある店やホテルを突き止められた程度で、麻薬取引にまったく踏み込めていない。そのことで上司からも長引く捜査に苦言を呈され、尾行によって少しずつ判明することはあれど、真相はつかめない。そのもどかしさが、いままで見たような尾行シーンとは一味違っていた。
尾行シーンの演出やアクションも面白かった。単純にカメラが人物を追うだけでなく、主観風にカメラを使って車の中から尾行対象の姿を映すカットもあった。被写体とは距離があり、カメラがブレてて不鮮明だけど、その臨場感が尾行の緊張感を一層際立たせる。
アクションで言うならば、間違いなく地下鉄のシーンだろう。少しコミカルな感じだけど、「追う・追われる」の攻防を静かに繰り返すアイデアが良い。
一方で電車を追うカーアクションはド派手だ。作品の大半が尾行や追跡のシーンなんだけれど、その映し方や表現の強弱が効いていて、とても面白かった。
「追う・追われる」の緊張感が作品を支配し続ける。クライムサスペンス特有の複雑な伏線や一筋縄ではいかない事件の動機…なんてものはないけれど、見ごたえのある作品だった。
〇カメラワークとか
・街の映し方とか光の入れ方が良かった。色とか光がハッキリとしてなくて全体的にぼんやりしているシーンが多いんだけど、夜の街とか電車の中とか、普通に外にいるときとは違う光の差し方をしているときにはその光を画面いっぱいに映している感じがした。夜は車に反射する光がぎらぎらしてるんだけど、画面全体は暗くてコントラストが綺麗だった。
〇その他
・主人公・ドイルのキャラクター表現は少しイマイチだった。型破りな刑事っていうのはわかるんだけど、個性の付け方が雑というか。女の子を家に連れ込むシーンとか犯罪者としか思えない演出だったけど、アメリカンニューシネマっていうジャンルとしても、ハードボイルド系主人公としても、キャラクターの魅力を伝えるシーンであってほしかったな。乱暴なキャラクターだから見せ方も乱暴なのかもしれないけど、ただそれだけだと嫌なヤツになっちゃうような。
ついでに相棒のルソーの存在感もイマイチだった。
・ラストはワインストックを倒してないっていう解釈だなあ。あの銃声は単に敵の一人を撃っただけで、ドイルの破天荒さを表現しているだけのように感じた。ラストカットで登場人物を映したり、ポーズやセリフを使って「その人物とは」を語るのでなく、銃声で個性を表現する、みたいな。