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○作品全体
孤独でいることの辛さとプロで居続けることの辛さ。この2つは鎖のように繋がれていて、両方を手放すか抱え続けるかしかない。
ニールはハードボイルドな雰囲気と、序盤でクリスに語る「30秒フラットで高飛びできるようにしておけ」というセリフから、2つの辛さを割り切って背負う存在と思わせるが、そうではない。孤独ではないのに仕事もこなすチームの面々が、ニールの一貫したプロ意識に疑問を持たせる役割をしている。イーディが登場してからは、抱えた鎖をどうしようか考えあぐねているニールの心境を、チームとその家族を目にするニールから感じさせていた。
プロではあるが、ハードボイルドではない。そんなニールの心の揺れが「クライムアクション」だけでなく「ドラマ」を生みだす。
ニールと敵対するポジションの最右翼であるハナだが、作中一番のニールの理解者であるのがまた面白い。ハナも「2つの鎖」を抱えていて、終盤で妻と和解する…ように見えて「お前の望む夫じゃない」と言って仕事へ戻っていくところを見ると、孤独でいること、プロでいることを選択したハナが残った、といったところか。
イーディと無言で別れたあとのニールとの対峙は、「30秒フラットで高飛びできる」同士のプロの勝負だった。ラストの握手は孤独同士だからこそ分かりあえる「繋がり」。
複雑に追跡しあい、裏をかきあうプロ同士の勝負だが、根底にあるのはシンプル。ニールとハナ、2人が抱えているものの辛さと、それを抱え続ける男気。ただそれだけだが、カッコいい。
○カメラワークとか
・つい最近『コラテラル』(マイケル・マン監督作)を見たからファーストカットがニヤついてしまった。ホアキン・フェニックスが去っていった駅に今度はロバート・デ・ニーロがやってきた、みたいに感じてしまって。
・カット終わりを沈黙で終わらせるカットがいくつかあった。一番印象的なのは終盤のハナ夫婦のシーン。一人病院に残された妻がゆっくりと俯いてカットが終わるっていう。そのシーンの残り香を感じるような、セリフを使わない時間が少し独特な気がした。フェードアウトっぽい時間の使い方だな、と感じる。
・深夜の銀行破りで警察の気配を察知するニール。カメラ越しに対峙するハナとのカットがめちゃカッコいい。アップショット、画面のど真ん中で互いに睨むニールとハナ。直接対峙しているわけではないけれど、カットバックが緊張感を煽る。二人の表情も良かった。
・アクションシーンがどれも良い。最初の輸送車を襲うシーン、ドアを爆破させるところで炎や煙の派手さで勝負せず、衝撃波によって手前に並んだ車のフロントガラスが大きな音を立てて割れる、その描写で威力を描写してたのが印象的。すごくカッコいい。
銀行強盗後の銃撃戦もカッコいい。音も良かったし、クリスの立ち回りの写し方もかっこよかった。最後尾を歩いてたあたりで「クリス絶対撃たれるなあ」って思いながら見てたけど、横から撃つハナをかいくぐり、リロードを無事にこなし、身を乗り出して警察へ発砲…それでも撃たれないクリスの「お約束回避」っぷりが面白かった。どこまで行けるんだ、という緊張感にも繋がってたと思う。
○その他
・『コラテラル』もそうだったけど、誰もロサンゼルスに好んでいないが印象的だった。マイケル・マンのロサンゼルスというのは仕事場であって安らぎの場ではないのだな、と。
・女性の描き方はちょっと記号的な印象もあった。家庭がうまくいってないから浮気、離婚しようとして浮気…自分を大事にしてくれない抵抗としての浮気はちょっと食傷気味。でもそれしかない…のだろうか。