「ヒッチコックの作品には、文化と時代の相違という2つの点で注意が必要」バルカン超特急 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒッチコックの作品には、文化と時代の相違という2つの点で注意が必要
ヒッチコックの作品には、文化と時代の相違という2つの点で注意が必要だと思う。
文化の相違というのは、登場人物たちが日本人には常識外の行動に出ることが多いこと、時代性というのは、彼の古い作品には設定や道具立て等、現在からはかなり甘すぎる点が方々に見当たることである。
本作を見ると、例えば冒頭のホテルでのヒロインと男性主人公の出会いのシーンにしたって、男性の無作法極まりない態度には、見る側はウンザリしてしまう。ヒロインの方も映画の末尾では婚約者を理由もなく捨てて、このバカ男にくっ付いていくという考えられない人間性なのである。2人とも日本人から見たら、「こいつらは人間の屑ではないか」と思いかねない。
こうした登場人物たちのあり得ない言動の数々は、『裏窓』のジェームズ・スチュアート演じる出歯亀男をはじめ、その後も数多くみられ、そのたびに「ああ、これは文化的な落差なんだろうな」と何度も思わされるのである。
時代性による設定の甘さでは、おばちゃんがスパイとして追われ、拉致監禁されてしまうわけだが、スパイなら単純に列車内で逮捕してしまえばいいだけの話である。その後の秘密警察か軍隊と乗客とのドンパチだって、今ではあり得ない。
現在となっては、これらは見なかったふりをして鑑賞するしかないだろうが、やはり心の底ではあまり楽しんでいないのであるw
こうした文句とは別に、本作は列車内で突如姿をくらませた老女について、乗客も係員も全員白を切るという、これ以後何度もさまざまな映画で模倣されてきたシチュエーションのオリジンを確認できることが嬉しい。ヒロインも美形であるw
ヒッチコックは『サイコ』『鳥』『マーニー』といった作品群は真の傑作の名に恥じないと思う。しかし、本作のような古い時代の作品を傑作と呼ぶには躊躇せざるを得ず、各種の映画技法を確認するくらいの意味しかない、と言ったらファンから怒られてしまうだろうか。