劇場公開日 2018年10月19日

「体感する映像」2001年宇宙の旅 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5体感する映像

2020年7月3日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

NHK BSに「アナザーストーリー」という、一つのテーマについて、その舞台裏や真相を掘り探る1時間のドキュメンタリー番組があり、しばらく前に本作を取り上げ、その制作の舞台裏と後日譚をまとめていました。
本作には苦い思い出がありトラウマがあります。学生時代の数十年前、いっぱしの映画通ぶって、当時既に映画史上に残る名作とされていた本作に臨みましたが、さっぱり意味が分からず、まるで歯が立ちませんでした。
テレビ番組を見て、改めて正対してみようと思い至り、数十年ぶりに観てみました。

やはり原題にある“Odyssey”が示す通り、本作は、「知的仮想体験する宇宙旅行」というべき、言わば芸術的映像作品であって、映画作品ではないというべきでしょう。
私にとって「映画」とは、スジ・ヌケ・ドウサという映画の三要素により構成される映像作品ですが、本作にはスジとドウサが完全に欠落しています。
その一方で、ヌケによって観客に宇宙旅行を「知的仮想体験」させるために、徹底的に作者の目指す完璧を追及し尽した成果が見事に結実していると云えます。鬼才スタンリー・キューブリック監督と稀代のSF作家アーサー・C・クラークが、互いの理想を切磋し衝突させて研磨し尽した相剋による、将に奇跡の産物です。
技術的には、美術(Production Design)、視覚効果(Visual Effect)、音響効果(Sound Effect)の各職人たちの、持てる技の粋を究めた発露が錯綜して相乗作用に励起させたと思います。
作中に挿入される「美しく青きドナウ」の、文字通り美しく、実に耳に心地良い流麗な旋律は、軽快にして見事に蠱惑的で官能的であり、「ツァラトゥストラはかく語りき」の荘厳で重厚な旋律は、古典的にして見事に先鋭的で前衛的です。
私には、今回は、半世紀前の大阪万博の多くのパビリオンで上映されていた諸々の抽象映像を想起させるものでした。

もはや本作は、映画としての構成や制作意図を論じる作品ではなく、視覚と聴覚を120%鋭敏に張り巡らし、ただ体感すればよいものです。それは、恰も美術館で絵画や彫刻を鑑賞するのと同じです。
そう、将に本作は「観賞する」対象ではなく「鑑賞する」作品であり、「体感する」映像だということです。

keithKH
東條ひできさんのコメント
2020年7月6日

全ての場面が、アート作品並みのクオリティーですよね。私も何回も観ては、発見して関心してです。

東條ひでき