劇場公開日 1972年4月29日

時計じかけのオレンジ : 映画評論・批評

2020年7月14日更新

1972年4月29日よりロードショー

バイオレンス映画の概念を変えたキューブリックの代表作

SF、モダンホラー、風刺ドラマ、歴史劇、戦争映画…。生涯13本の長編を残したスタンリー・キューブリックは、同じジャンル、同じスタイルの作品を決して作らなかった。「2001年宇宙の旅」が公開され若年層に大ブームを生み出したあと、当時流行していたアメリカン・ニューシネマの系譜における決定版としてキューブリックが着手したのが、アンソニー・バージェスの原作によるディストピア小説「時計じかけのオレンジ」だった。

キューブリックの前に、この原作の映画化権を持っていたのはあのミック・ジャガー。彼はローリング・ストーンズのメンバーと共に主演することを希望、映画会社も賛同していたが、キューブリックはこの案を却下。主役のアレックスには「if もしも‥‥」(註:正式表記はピリオド4つです)の新鋭マルコム・マクダウェルの起用に踏み切った。

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結論から言うと、このキャスティングは最高の結果を生んだ。監督の期待に応えようとしたマクダウェルは、原作に登場する架空のスラング、ナッドサット言葉をマスターし、まぶたを強制的に開けさせられるシーンでは角膜に深い傷を負い、拷問シーンでは家畜用の水桶に本当に窒息する寸前まで漬けられ、男に踏みつけにされるシーンでは肋骨を折ったりと、満身創痍になりながらも、まさにアレックスになりきって撮影をやり遂げた。この演技が彼のその後のキャリアを決定づける、良い意味でも悪い意味でも。

公開当初はX指定を受ける程の過激な内容だったにも関わらず、若年層を中心に大ヒットを記録したが、その直後から映画を真似た事件が発生。キューブリックの自宅に殺人予告が届く事態になり、そのことを憂慮した監督は英国での上映禁止を宣言した。それは26年後の2000年まで続くことになる。マクダウェルのもとには数多くの仕事が舞い込んだが、アレックスのような役ばかりで、その状態はしばらく続いた。

社会に大きな影響を与えた本作は、映画史上初めて暴力とユーモアの共存を描くことに成功する作品となった。観る者は戸惑いながらも笑い声を上げ、自分の中にある衝動を自覚させられる。社会と個人、権力と自由、差別と人権、暴力と性など、製作から半世紀を経た今でも、この映画から受け取れるものは多い。監督の名前か映画のタイトル、どちらかに聞き覚えがあれば、すぐにでも観て欲しい、映画史に残る傑作だ。

本田敬

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