椿三十郎(1962)

ALLTIME BEST

劇場公開日:1962年1月1日

解説・あらすじ

名作「用心棒」の続編ともいえる作品で、前作では桑畑を名乗った三十郎が椿三十郎として活躍。キャラクターとしてはより人間味が増し、ユーモアと知略を駆使し、上役の不正を暴こうと立ち上がった9人の若侍をその凄腕で助けていく。加山雄三をはじめとした血気にはやる若侍たちをうまく制御し、敵方の用心棒仲代達矢と知恵比べをしつつ、有名なラストの決闘シーンへと物語は導かれていく。

1962年製作/96分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1962年1月1日

スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0黒澤明にしては珍しい続編

2025年7月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

この映画は三十郎を主役にした用心棒の続編である。彼の作品で続編があるのは姿三四郎と用心棒しかない。おそらくこの時期、黒澤明は黒澤プロダクションを設立しており、興行的にウケる娯楽映画でしかも製作費が安く済む尺の短い作品を作る必要があったのではないかと推察される。芸術家が金に振り回されるようになると感性が鈍っていくと個人的には思うのだが、彼もまたその道を辿っていく、その後の彼の作品には往年の輝きを感じない。

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ちゆう

5.0真なるリーダーとは?

2025年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

『椿三十郎』は『用心棒』の続編的な位置づけにあるが、その思想構造はまったく異なる。前作が無法地帯における“力”の再配分を描いたのに対し、本作はすでに確立された秩序、その内部に巣食う腐敗と無思慮を描き出す。舞台は明確に1962年、安保闘争後の戦後日本を反映しており、黒澤作品としては例外的に、露骨に時事と政治を射程に入れた寓話的作品である。

若侍たちの「理想」は、60年代の学生運動に重なる。正義感に燃え、行動に走るが、現実の複雑さを見誤り、結果として多くの犠牲を招く。一方で敵対勢力の室戸(仲代達矢)は、力と策略による冷徹なリアリズムで支配を目論む。

その両者の間にふらりと現れるのが三十郎である。彼は暴力と倫理のはざまで揺れる“問い”そのものだ。『用心棒』では無秩序の外から力をもって秩序をもたらす「完全なアウトサイダー」だったが、今作の三十郎は体制内部に一時的に関わりながらも、決して内部に取り込まれることはない。

彼は教育者として若侍たちを導きながらも、同時に自らの暴力に嫌悪し、「斬りすぎだな」と呟く。彼が「答え」になりえないことを誰よりもよく知っているのだ。もし彼が体制に留まれば、いずれ自らも腐敗する。そのため、彼は去るしかない。「異物」であり続けるために。彼は常に構造の外から介入する存在=問いとしてのヒーローなのだ。

そして、本作でもっとも注目すべきは、“城代”の描き方である。彼の顔が最後まで見せられない構成は、まるでサスペンスのようだ。そしてその素顔がついに明かされる瞬間、観客は「えっ、こんな人物が?」という驚きを覚えるだろう。しかし、この「地味な中年男性」こそが黒澤が示した「統治者の理想像」なのである。

その顔立ちは当時の総理・岸信介を彷彿とさせる。おそらく意図的な造形である。若侍(理想主義者)でもなく、室戸(冷徹な現実主義者)でもない。倫理と知略を併せ持ち、感情を抑え、覚悟ある沈黙と無私の統治感覚で秩序を保つ──その姿には、力ではなく姿勢で国を導く「静かなリーダー像」が映し出されている。

『用心棒』がカオスに秩序をもたらす“力の映画”だったのに対し、『椿三十郎』は、秩序の中に潜む腐敗に対し、倫理と戦略で切り込む“問いの映画”である。黒澤はここで、日本人が忘れた思想──儒教、孫子の兵法、仏教、武士道、神道──を再提示している。

そして最後の一騎打ちは、ただのアクションではない。
三十郎と室戸の斬り合いには武士道の美学が流れている。「納得して死ぬこと」それは、日本人の倫理観の核心である。

いま、日本に必要なのは、果たして三十郎か、それとも城代か?

日本人が忘れたもの。
それでも、必要としているもの。
それが、ここにはそれが描かれている。

4K UHD Blu-ray (クラリテリオン版)で鑑賞

95点

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neonrg

5.0時代劇映画史上不滅の最高峰

2025年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、DVD/BD

泣ける

興奮

驚く

人権が尊重された類まれな作品。
椿三十郎と言えばどうしてもJAWSのクイント船長とダブってしまい、両者とも勇ましく、豪快で頼もしく信念があり、その堂々とした様に見入ってしまいます。
唯一の違いは扱い方でありまして、クイント船長は無残にぼろ雑巾の様に亡くなります。
之は欧米人には死に対しての哀れみが日本人程無い点にあるのだと思います。一方、地位もない椿三十郎に対して人間としての尊厳を認めてくれる周りの人々の気高さに心底心打たれます。
此の作品は間違いなく史上最高の映画であり、他に類を見ない至極の名作であり、全ての登場人物が見事でして、それぞれの個性を映画史上類を見ないレベルで生き生きと描いております。
又、白い椿が流れる様の美しさは人間の本来あるべき永遠の感動と同時に儚さの象徴でもあります。
三十郎の捨て台詞「あばよ!」には感極まって泣いてしまいました。

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西から昇ったお日様は

5.0血飛沫匂いたつ剣戟!

2025年2月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

監督脚本、黒澤明。
下敷きにしたのはご存知、山本周五郎の『日々平安』の企画。名前出しといて未読ですごめんなさい。

【ストーリー】
古寺。
若い侍たちが、藩の未来を憂いて謀議をしている。
次席家老の黒藤と国許用人の竹林なる二名が、汚職の元凶、その告発状を城代家老の睦田にたくしたとのこと。
睦田にすげなくされ、大目付の菊井に話を持ちこむと、共に決起すると約束してくれた。
これで藩の空気は変わり、よき方向に向かうだろうと安堵する彼らの背後から、素浪人が姿をあらわす。
すわ間諜かと緊張する彼らだが、
「俺はただの宿無しだ。ここで天露しのいでいただけ」
と言う。
混乱する若侍たちに、男はつづけて語る。
「話を聞いたが、俺の見たところ、睦田よりも、お前らをあおる菊井の方があやしい」
その言葉どおり、古寺はすでに菊井の手の者でとり囲まれていた。
菊井こそ、黒藤の間諜だったのだ。

三船敏郎演じる椿三十郎を主人公にした時代劇の第二作め。
今回もあっちこっちに飛びまわりながら、バッタバッタと敵を斬りふせる。
黒澤の殺陣の迫力って、ドアップでワー! 大きい音ガキーン! っていうものじゃなく、十分にカメラを引いて全体を見せ、敵も味方も本当に斬るタイミングで刃をふるう怖さなんですね。
ごまかしが利かない撮り方です。
スローで撮って、早回し再生なんてしない時代だもの。
ラストの決闘も、達人同士の戦いは一瞬で決まるという内容を実際に撮ったっていう、めちゃくちゃハードルの高いシーンですし。
あの血飛沫、忘れられませんなあ。
『侍スピリッツ』っていうゲームが好きで、ノックアウト演出で血飛沫プッシャーあるんですけど、ほんとあのまんま椿三十郎。
自分の覇王丸、よく友だちのナコルルをまっぷたつにしたなあ。ひどいね。

最後脱線しすぎたついでに、すごくどうでもいい話します。
『オタクの用心棒』ってギャグマンガがありまして、その主人公格の一人がモロ椿三十郎なんですね。
こっちもめっぽうおもしろいので、画像検索だけでも、ぜひぜひ。

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かせさん

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