アポカリプト : インタビュー
イエス・キリストの死の直前12時間を描き、全世界に衝撃を与えた「パッション」の次にメル・ギブソンが題材に選んだのは、古代マヤ文明の世界だった。最新作「アポカリプト」について、渡辺麻紀氏がメル・ギブソンにインタビューした。(渡辺麻紀)
メル・ギブソン監督インタビュー
「人間には計り知れない恐怖がある。恐怖心、それがすべてなんだよ」

役者としてより監督としてのほうが才能豊かだった。オスカー監督賞に耀いた「ブレイブハート」、あの「パッション」、今回の「アポカリプト」。この3本で見事それを証明してみせたメル・ギブソン。また、やっぱり自虐的なヤツであることもこの最新作で見事に証明。なぜメルギブの映画は“痛い”のか、そのワケを尋ねてみた。
――アクションがプリミティブだったせいか、あなたの出世作「マッドマックス」を思い出しました。
「チェイスという部分が同じだからだね。『マッドマックス』のチェイスは車だけど、今回は足。足で走るというよりプリミティブなアクションにこだわったんだ。オレにとっては足を使ったランニングチェイスも、カーチェイスと同様にエキサイティングなんだよ」
――それに「パッション」同様、“痛い”シーンも多かった。
「うん。今回、オレが目指したのは贅肉のない映画。その“痛さ”というのはオレたち人間がもっている恐怖心の表現のひとつなんだ。恐怖心は人間の行動のオリジン。オレは、その恐怖心を原始的なランニングを使って描きたかった。それ以外の余分なものはすべてはぎ取ってだ。まあ、原始的な映画を撮るためには最新の技術を使わなきゃいけなかったのが面白いがね(笑)」
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――デジタルカメラですよね。
「そうなんだ。ディーン・セムラー(『マッドマックス』!)がジェネシス(ソニー&パナソニックの合作によるデジカメ)のエキスパートで、今回の映像は彼とそのカメラのおかげといっていい。ロケはジャングル、役者は素人という多くのハンディを背負ったこの映画の場合、湿度に強く長時間続けて撮影出来るデジカメはまさにもってこい。しかもシャッター速度を調節するとフィルムじゃ味わえないスピード感が出るんだ」
――話は戻って恐怖心のことなんですが、あなたの演じるキャラも、あなたの演出するキャラも自虐的な場合が多い。これは恐怖心にこだわることと関係してますか。
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「(笑)ああ、オレの場合、自虐的だな。確かに恐怖の表現のひとつだよ。オレは常々、生きるということ自体、さまざまな“責め”を通過することだと考えている。人間は困難や試練に直面したとき、苦悩し耐える。そして、そんな極端な状態を耐え忍んだあとは、より良いものがやってくると思っているんだ。言葉ではいい表せないようなハードなことを通過し、それでも人間らしくいられるのは簡単なことじゃない。だからオレはそれが出来る人たちを尊敬しているんだ」
――残酷なシーンをダイレクトに表現するあなたのスタイルは今回も活かされています。このスタイルも恐怖心から?
「人間が恐怖心をもっていなかったら残忍さも少なくなっただろうというのがオレの意見だ。人間には計り知れない恐怖がある。恐怖心、それがすべてなんだよ」