戦慄の絆のレビュー・感想・評価
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【”一卵性双生児の、アイデンティティの崩壊”デヴィッド・クローネンバーグ監督Meetジェレミー・アイアンズのサイコスリラーの逸品。】
ー 英国紳士を演じる俳優としては、コリン・ファース、ビル・ナイを抑えつつ個人的にはジェレミー・アイアンズである。
個人的には「奇蹟がくれた数式」「人生はシネマティック」など多数あるが、若き日のジェレミー・アイアンズが出演した映画は初鑑賞であった。
だが、今作は英国紳士を演じる前のジェレミー・アイアンズが描かれている。-
◆感想<Caution!内容に触れています。)
ー 最近、D・クローネンバーグ監督の作品を観ているのであるが、それまで私が抱いていた変態性溢れる作風だけではなく、可なり深い人間性の闇や哀しみを描いた作品に魅入られている。-
・主人公の双子の一卵性双生児の医師の、外交的なエリオットと、内向的なビヴァリーを一人二役で演じたジェレミー・アイアンズの演技が巧みな合成技術と融合し、印象的である。
・二人は女優で、生殖器が通常とは違うクレアという女優である女性患者との出会いが、均衡を保ってきた2人の微妙なバランスを崩していく。
<今作の魅力は、相変わらずの女性の生殖器を診察するメタリック感ある医療器の姿と、兄と弟で性格が違う兄弟の姿を、D・クローネンバーグ監督らしいゴシック的なシーンを含めて描いた作品である。
ナカナカ面白い映画であると思う。
そろそろ、D・クローネンバーグ監督の作品に対する印象を変えるべきだな、と思った作品でもある。>
分離
兄エリオットは女好き。弟ビバリーは40歳過ぎているにもかかわらず童貞だ。臨床はほとんど弟が行うし、研究にしても地道な作業は弟が担当。兄はどちらかというと研究をまとめ発表する役割で表舞台は兄の担当。しかし、アイアンズが二役をやる通り、見分けのつかない双子だった。
ある日、診察した女優クレア・ニボー(ビジョルド)が三つの入り口がある子宮の持ち主で興味を惹かれる。エリオットは早速彼女と寝るのだが、すぐに飽きて弟に譲る。やがてクレアも2人の男に抱かれていると怒ってしまうが、愛し始めていたビバリーが謝ったおかげで関係が復活(弟だけ)。彼女が10週間も撮影のため離れていたため、彼女もやっていた睡眠薬や麻薬によってボロボロになってゆくビバリー。エリオットは弟を隔離して麻薬を止めさせようとするが、ビバリーが帰ってきたことで逃げ出してしまう。
変てこな医療器具を作ったりして、もう末期症状のビバリー。エリオットも弟と同じ麻薬をやらねばと宿命のようなものを感じ、2人してボロボロになってゆく。変てこなものは結合性双生児の分離手術用の器具だった。最後には腹を切り裂いて・・・
変態映画
エロが昂じて内臓側にめくれ返るクロネバ随一の変態映画。
孕む恐怖を見えぬ子宮内に展開したザ・フライ。
本作ではこの世こそ子宮だと見立てたか。
エリートの失恋破滅映画と見ても手堅い演出。
驚異の二役Jアイアンズは凡打ダイハード3から低迷。復調を。
1なるものへの回帰
かつてプラトンは「人は元来、両性具有の球体であり、それが引き裂かれて男女となった。だから人は誰しも魂の半身を探している」と問いた。
魂の実際はわからないが「元来、1つであったものが引き裂かれたならば、本来の姿への回帰を求めるであろう」という理屈はわかる気がする。
そんな話を、独特の感性で美しくもドロドログチャグチャに描いてくれるのがクローネンバーグだ。
今頃、この映画のレビューを書くのには理由がある。25年前に観たいと思いつつも劇場に足を運ぶのが憚られて断念した作品がある。「クラッシュ」だ。
クローネンバーグ監督は大好きである。しかし、実は観ていない作品もある。観たいけど観られない。観た作品も大好きだけどリピートはしたくないものが多い。(だってザワッ!とするんだもの)
だが、その感性と主題はたまらなく好きだ。
おそらくクロ師匠は、無意味に観客の恐怖を煽ったり気持ち悪がらせたりしたいわけではなく、己の描きたい主題を明確に堅持している。その為、作中人物達に対するどこか一線引いて突き放したような冷徹で客観的視線が、観客をあくまで「観客」の椅子に固定し、彼ら(作中人物達)の狂気に取り込まれる事のないように守ってくれるのだ。
「戦慄の絆」配信時は、まだ10代の小娘であった。こんな映画が観たいとは誰にも言えず、1人こっそり池袋の文芸坐2に足を運んだ。
だけどね。「クラッシュ」はハードル高すぎるでしょ?20代の乙女にとっては日活ロマンポルノの劇場に入るようなものですよ?泣く泣く鑑賞を断念しましたよ。
しかし、今、4k無修正版が来ている。これはどうしても劇場で観たい!という覚悟を決める為、戦慄の絆をおさらいする事にしたわけなのである。
一卵性双生児のエリオットとビヴァリー(ジェレミー・アイアンズ一人二役)は、正反対の性格であり、すべてを共有しながら相互に補完し合って生きてきた。
ところが1人の女性の出現により、兄弟の均衡はバランスを崩す。それによって2人は互いに精神的な一心同体であった事を深く自覚する。弟が陥った狂気を兄は受容し、共に1つに帰す悲劇的な結末を選択する。
しかし、他者のまなざしには悲劇と映ろうとも、彼らにとっては外部から引き裂かれる悪夢をおしまいにして「あるべき姿」に還るハッピーエンドなのだ。
そんなサイコスリラーも、クロ師匠の手にかかると、官能的で美しい芸術作品へと昇華する。何故か?
それは、クロ師匠が描きたいものの正体が、限りなくフロイトの感性に近いからだと思う。
エロス(生)とタナトス(死)の表裏一体性を、クロ師匠は「有機物と無機物の融合」で表現したいのではあるまいか?クロ師匠の感性においては「死」とは有機物(肉体)の崩壊による無機物への回帰なのだと思う。
ハワード・ショアの美しい音楽と深い赤の色彩をバックに描き出される奇妙にグロテスクな手術器具の数々。
バイオとメタリックの融合といえばギーガーもそうだが、メカやメタル感主体のギーガーに対し、クロ師匠はバイオ感満載だ。臓器への偏愛すら感じる。
そんなクロ師匠において、バイオへの深化よりも精神世界への深化を重視したターニングポイントとして、本作には貴重な価値があると思う。
その流れを受けて、クラッシュは誕生したのであろう。表層的な絵面に惑わされぬよう、フロイト論の小舟(いかだ?)をしっかり強化して劇場に足を運びたい。(上映館、50km先に1件きりだけど、、、。配信終了までに本当に行けるだろうか(笑))
(覚書:初回鑑賞記録、年は1989、場所は文芸坐2だが、選択不可の為、1番近い選択肢にしておく)
名優ジェレミー・アイアンズの異色の二役が魅せる、クローネンバーグ監督の個性的な演出
「クラッシュ」「イースタン・プロミス」のデヴィット・クローネンバーグ監督らしい個性的で独特な雰囲気が支配する作品。名優ジェレミー・アイアンズが一卵性双生児の兄弟を演じ分けるスリラードラマ。前半は女性関係で現れる性格の違いを描いて心理ドラマと思いきや、弟が麻薬中毒になり、続いて兄もそれに同化する異常な局面を迎える。相手役は、中年になったジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドで、こちらも変わった子宮を持つ女優という役柄。演技に対して真摯な取り組みをするアイアンズの生真面目さが、より恐怖感を増幅させる。その為心理サスペンス劇の面白さが弱まり、恐怖映画の範疇に収まってしまった恨みが残る。嫌いではないクローネンバーグ監督の秀作に成りかけた異色作。
兄弟の絆、恐ろしい…
実話ベースってどこら辺まで実話なんだろう。幼い頃から何をするのも一緒って、女性まで分け合っちゃいかんでしょう。そういう倫理観が欠如した人達が医者って言うのも、あっちゃいけないけど、あるかもしれない。女性の登場によって双子の関係性が崩れるっていうよりも、薬物が影響してと見受けられ、弟につられ兄まで手を出し、ラストは二人ともヤク中で死んでいく。ラスト、弟は誰に連絡したんだろう。強過ぎる絆だけど、共感はとてもできない。
天秤
鬼才デヴィッド・クローネンバーグによる異色サスペンス。1988年の作品。
名産婦人科医として誉れ高いエリオットとビバリーの兄弟は一卵性双生児の双子。
幼い頃から何をするにも一緒で一心同体だった2人だが、ある一人の女性の登場によって…。
例えるなら、天秤。
釣り合っていた秤が些細な衝撃によって均整が崩れ、中身がこぼれ落ちる。
危うい精神のバランスと崩壊、双子の不可思議な繋がりを、妖しい夢でも見てるような陶酔感の中に描いていく。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」など近年の力作もイイが、本作のような奇々怪々な世界観こそクローネンバーグの真骨頂。
自信家の兄と繊細な弟、性格の違う双子を巧みに演じ分けたジェレミー・アイアンズが絶品!
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