「きょうだいの不思議」ゆれる きのこの日さんの映画レビュー(感想・評価)
きょうだいの不思議
正反対の兄弟の物語。
兄弟って不思議なもんで、家族の中で誰よりも血が濃い。
家族の中で誰よりも長く一緒の世界にいることになる。(普通に寿命をまっとうできれば)
切ろうと思っても切れない縁。そしてしがらみと嫉妬。
関係ないと言い聞かせてもどこかで比べてしまう自分、比べてくる周り。
そんな複雑な兄弟の「ゆれる」心情を描いた作品。
気まじめで人に気を遣いすぎる兄を香川照之、都会に出てスタイリッシュに働く自由奔放な弟をオダギリジョーが演じる。
田舎でくすぶっている智恵子を真木よう子。3名の自然な演技が光る作品でした。
香川照之が演じるのはザ・お兄ちゃん。といった感じの役柄。
久しぶりに会う弟への神経質な笑い方とか、親戚に酌をするときの正座の仕方とか、それを見ただけで稔という兄の性格が伝わってくる。しゃべらない演技とはまさに。。
でもオダギリジョーも良かった!!香川照之に負けず劣らず。
事件があって初めて「自分はあまり兄ちゃんのことを知らなかった」と気付き、真剣に向き合おうとする弟。
しかし兄の態度が豹変することで少しずつ不信感を抱き始めてしまう葛藤。
みごとに表現していらっしゃいました!!憂いある表情がお似合いになる方だ。
映画自体は時系列と真実と嘘が入り混じるので結構難しいんですが、その入り混じっているのがまさにオダギリジョーの揺れる心情を表わしていました。
兄弟って、お互いのこと分かっているようで分からない。
兄の稔は、智恵子のことで少なからず弟に対する嫉妬心や劣等感があった。
智恵子が死んだことで少しずつ、兄・稔の態度は変わっていく。
そんな兄・稔の演技から印象的なシーンを2つ!
1.「おまえは自分が人殺しの弟になりたくないだけだよ」
兄・稔の無実を証明するために弁護士を雇い、必死になる猛に対して、稔が放った一言。
吐き出すような、相手を非難するような、いや、自嘲的な一言。
そんなセリフを吐いている自分自身を非難しているようにも見える。
彼は、ずっとそんな自分自身がいやだったのかもしれない。
今まではそんな思いも持ってしまったとしても呑み込んで噛み殺して死ぬ気でがまんしてきたのかもしれない。
稔はきっとそうゆう人だった。
だからこそその言葉を初めて吐き捨てた時の彼の表情は、自嘲的だったのかも、とか思った。
とにかく、このたった一つのセリフでこれだけ視聴者に考えさせる香川照之がすごい。
リスペークト!
2.ほほ笑む兄と涙を浮かべる猛の未来は・・・
最後は、弟の猛が裁判で証言を覆し、兄・稔は服役することになります。
しかし兄は何も言わない。弁明しない。
そして、服役を終えた兄が町に戻ってきた日、弟は彼のもとへ向かう。道路を挟んで向かいのバス停に兄を見つけた彼は、涙を浮かべて叫ぶ。
「兄ちゃん、家へ帰ろう!」
ここで、ほほ笑むんです。
兄の稔が。
そして、バスがやってくる。
そこで物語はエンディングを迎えます。
映画をご覧になった方は必ず、稔はバスに乗ってしまったのか。乗らなかったのか。考えるところだと思います。
個人的には、乗ってほしくないけれど、きっとバスに乗るんだろうなと。
彼のほほ笑みは、「分かってるよ」と言っているように見えました。
だから、それぞれまた歩き出そうと。
そう言っているように私には見えました。
弟を許したけれど、彼は家には戻らない。
弟と過ごす未来は手にしない。
そう見えました。
ただ、どちらかは分かりませんね。
非常に憎いエンディングシーン。
でも、どっちにしても温かい最後。
稔が、笑ってくれてよかった。
あそこで、複雑な表情を浮かべたままバスが着てしまったら、そのままバスに乗ってしまったら誰も救われない。
笑ってくれたら、そのあとバスに乗ったとしても、バッドエンドではないと私は信じています。
原作を映画化したものではなく完全オリジナル作品なので、「あ~、ちょっと無理が:::」というようなこともなく2時間半でとても濃いくまとまっています。
どこか幻想的でかつ現実的な素晴らしい作品。
これはテレビではなかなか表現できない映画ならではの作品だと思います。
邦画好きのかた、ぜひ一度みていただきたい!