パフューム ある人殺しの物語 : 映画評論・批評
2007年2月20日更新
2007年3月3日よりサロンパス・ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にてロードショー
原作よりも大胆なイメージで想像力溢れる世界を表現
小説や映画は、香りそのものを表現することはできないが、パトリック・ジュースキントはこの映画の原作で、嗅覚の天才にして哀しき殺人者でもある主人公グルヌイユの世界を、想像力とユーモアに満ちた文章で表現してみせた。そしてこの映画は、原作よりも大胆なイメージでそれを表現してみせる。
猛烈な悪臭を想起させる魚市場の片隅で産み落とされたグルヌイユは、その時から臭覚を通して世界を認識していく。そんな彼が、あまりにも芳しい香りゆえに娘を殺めてしまう場面には、倒錯的なエロスが匂いたつ。彼は、まるで砂漠のなかでわずかな水を見出した者が、それを最後の一滴まですくい取り、飲み干そうとするかのように、娘の肉体が発する香りを嗅ぎ尽くす。そして、究極の香水によって世界を変える野望に囚われていく。
この映画のプロローグでは、群衆たちが冷酷な殺人者の処刑を待ちかねている。グルヌイユは映画のクライマックスで、そんな群衆たちの激しい憎悪を愛に変える。そこに巻き起こる性の饗宴のスケールは圧巻だが、しかしそれは彼の勝利を意味しない。彼は、神の御業を行うと同時に、自分が神になれないことを思い知らされるのだ。
(大場正明)