グッバイ、レーニン! : 映画評論・批評
2004年2月2日更新
2004年2月21日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
少年はもうひとつのドイツ統一の歴史を作り上げる
昏睡状態にあった愛国者の母親は、壁の崩壊とドイツ統一の狭間の時間に目覚め、息子のアレックスは、母親の前に失われた世界を再現し、芝居を続ける。嘘がばれそうになると、実はコカコーラは東ドイツの発明だったとか、西から資本主義に疲れた難民が押し寄せているといったニュースをでっち上げる。
しかし、彼が母親のためにしていることは、いつしか彼自身の純粋な喜びに変わっている。共産主義体制は終わったが、だからといって西側が勝利したわけではない。西側の“自由”はそれ以前にグローバリズムによって形骸化し、壁を壊したのも西や東の意味を奪い去る圧倒的な経済の力でしかなかった。だから彼は、虚構のシナリオを発展させながら、歴史と現実を見つめなおし、修正していくのだ。
この映画で最も感動的なのは、アレックスと彼のかつてのヒーロー、東ドイツで唯一人の宇宙飛行士となったイェーンとの出会いだろう。彼は、壁の崩壊以後の世界でタクシーの運転手になっている。アレックスは、東ドイツ、というよりも彼が求める世界のなかで、いまだ揺るぎないヒーローであるイェーンに協力を仰ぎ、テレビのなかにもうひとつのドイツ統一という歴史を作り上げるのである。
(大場正明)